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聖獣達の鎮魂歌外伝~守護者の物語~  作者: 悠介


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喜びと憂い

 悠輔が通っている中学校の校門前。

わかっていた事だが悠輔を見るとばつの悪そうな顔をして通り過ぎていく。

 悠輔は少し尻込みしていた、学校前までは来れたものの、そこから先に進めないでいた。

「……。」

「悠……。」

 そこで止まってから5分程経過していた。

 浩輔は不安そうに悠輔を見ていて、声をかけられずにいた。

しかし急かそうという気もなく、ただ待っていた。

悠輔の気持ちは、痛いほど理解できていたから。

「いくか……。」

 覚悟を決めて一歩を踏みだす。

深呼吸をしながら、一歩一歩歩みを進める。

恐怖と戦いながら、覚悟を決めながら。

 5分後、二人は居心地の悪い教室にいた。

場の空気を理解しながら、しかし何をするわけでもなく。


「さて、今日は大切なお話があります。一限目は空けてもらっているから、じっくりと結論を決めましょう。」

 女性の担任がそういうと、クラスがざわつく。

「昨日の帰りに話した通り、坂崎君が来てくれました、前に来てもらってもいいかしら?」

「はい。」

「大体のことは話してあるから、確信の部分、あなたの気持ちを聞かせて頂戴。」

「……。」

 悠輔は教壇に立つと、クラスの人間たちをぐるりと見回す。

それぞれ怖がっていたり敵意をむき出しにしていたりと、様々な表情が見える。

「俺の気持ちっていわれても、この前話したしなぁ……。」

 考えながら話し始める悠輔。

ここで何か言い間違えれば、もう後戻りは出来ないだろう。

「まずは謝りたい、どんな理由があれ隠していたことを。」

 クラスがどよめく。

まさか謝罪の言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。

「でもわかってほしくもある、みんなが同じ状況だったらはたして素直に言えてたかどうかって。」

 悠輔は慎重に、しかし思った通りの言葉をしゃべる。

「それに、俺はみんなを許せない。」

「なんだよそれ!」

「……。」

 男子生徒が怒鳴り声をあげるが、すぐに縮こまる。

担任が冷たい目線を向けていたからだ。

「だって、俺にとって大切な人を、みんなを守ってきた人を化物扱いしてきたんだから。」

 そんなことは意に介さず、淡々と話を進める。

「だけど、皆がそう言いたくなる気持ちもわからなくはない。俺だって、最初にディンのことを知ったときは少しだけど怖かったから。」

 少し悩むそぶりを見せ、悠輔は続ける。

「それにディンは確かに人間ではないからね。ディンは竜神っていう種族と人間の混血、だから人間じゃない。」

 そこで少し口を閉ざす悠輔。

理解する時間を設けようという心遣いだろう。

「だけど決して化け物なんかじゃない。ディンは俺たち人間を守ってくれてる存在なんだよ。」

「俺たちって、ディンってやつが悠輔じゃないのか?」

 源太が口をはさむ。

それは純粋な疑問だ、はたから見れば悠輔=ディンだからだ。

「ああ、俺とディンは別人だよ。」

「どういうことだよ。」

「ディンと俺は同じ肉体に宿った二つの魂、俺は簡単に言うと神様の依り代なんだよ。」

「…?」

「とにかく俺とディンは別人、ディンに体を貸してるってだけだ。」

 わかりやすくかみ砕いて話す悠輔。

それでも理解は出来ないんだろうなと思いつつ、話を進める。

「まあ何はともあれ、ディンは化け物なんかじゃない。だから俺はみんなが許せない。」

「……。」

 再び場に沈黙が訪れる。

「でも俺は何も言わない。受け入れてほしいとか、一人になりたいだとか。俺は変わる事は出来ない、今のままディンの依り代であり続けるしかない。」

 クラスを見回しながら、悠輔は続ける。

「だからみんなに任せることにした。受け入れるのも拒絶するのも、みんなだから。」

「拒絶されても、いいのかよ……。」

 再び源太が口を出す。

「拒絶されたくないから黙ってたのに、バレたら拒絶されてもいいのかよ!」

 自分自身の決意。

皆で話し合った結果、覚悟。

 それらを、一瞬で無にされた気がした源太は、思わず声を荒げる。

「ああ。俺は選んだんだ。任せるっていう道を。」

 源太が怒っている理由を薄々感じながら、悠輔は諭すように言う。

「ディンと2人で決めたんだ。もしも全員に拒絶されても、それは皆が選んだ答えだから受け入れようって。」

「なんだよそれ!一人になるのは怖いって言ってたじゃねえかよ!」

 源太が憤りを感じているもうひとつの理由。

 それは、純粋に悠輔を心配していたからだ。

源太は、どこかで悠輔を命の恩人と考えていた。

友達でいようとしても、どうしても守られたという考えがあったのだ。

「それをなんだよ!拒絶を受け入れるって、1人でもいいって言ってるようなもんじゃねえか!」

 悲しいのだ。

悠輔にとって、自分は拒絶されてもいい存在だと言われたような気がして。

 悔しいのだ。

源太にとってはどこの馬の骨かもわからない、ディンという存在が悠輔の隣にいることが。


「……。源太、お前の気持ちはわかる。でも、決めたんだ。」

 悠輔は、冷静に源太を諭す。

「だって、仕方のないことだから。どうしても。」

「仕方ないってなんだよ!」

 ついに怒りを抑えられなくなった源太。

勢いよく立ち上がると、ずかずかと悠輔の前に立つ。

 そして、怒りに任せて胸ぐらを掴み、叫ぶ。

「俺がどれだけ考えてきたと思ってるんだ!」

「……、知らねえよ。」

「んだと!?」

「お前あの時、俺のこと拒絶したじゃねえか。」

「っ!」

 静かに怒りを口にする悠輔。

その怒りは静かで、とても冷静なものだった。

「忘れたわけじゃねえよな?お前はあの時俺のこともディンのことも拒絶した。それを忘れて今度は心配してるからそれなりの態度をとれってのは虫が良すぎやしないか?」

「それは……。」

 静かな怒りをぶつけられ、しりすぼみにになる源太。

「気持ちはわかるさ、誰だっていきなり受け入れる事なんて出来ないさ。でもさ、俺はお前らからごめんの一言も聞いてない。それなのにお前らのことを考えろなんておかしくないか?」

「……。」

 完全に勢いを失い、無言になる源太。

「勿論俺にとってみんなは大切な人だ、だから守りたいと思ってる。でもお前らが今のままの態度でいるなら一緒にはいられない、だってこれからも同じことが起こるから。」


「悠、源……。」

 不安そうに呟く浩輔。

そんな浩輔に話しかけてくる生徒がいた。

「なあ坂崎、どうなると思う……?」

「わかんない、2人に任せるしかないよ……。」

 少し寂しそうに呟く浩輔。

今日のこの話の結論によっては、悠輔はここに来なくなってしまう。

 だがしかし、浩輔は何も言わなかった。

悠輔に、あえて何も言わないで欲しいと頼まれていたから。

「そっか。俺、坂崎と一緒にいたいなぁ……。」

 そうつぶやきながら、男子は前を向く。

心なしか、少し寂しそうな表情をしていた。


「答えてくれ源太、お前らはどうしたいのか。」

「それは……。」

 源太の手を掴み悠輔が問う。

今この場で答えを聞かなければならない、そんな目をしながら。

「俺は……。」

 口ごもる源太。

「言えないか?なら、俺は消えるだけだよ。」

 少し脅すように問う悠輔。

 どうしても。

この場で決着をつけてしまいたかったのだ。

 誰も声を発しない。

物音すら立てない。緊張が高まる中、源太は必死に考えた。

 そして、結論を出した。

「俺は、悠輔と一緒にいたい。ディンのことも、少しずつだけど受け入れたい。」

 小さいが、しかしきちんと答えを言う源太。

考えている中で、悠輔の言葉を思い出していたのだ。

(俺と源太を守ってくれたのはディンなんだ。)

 その言葉を、信じようと思えた。

そしてそれならば。悠輔だけでなく、ディンもまた、命の恩人なのだ。

だから、受け入れようと思えた。

だから、次にこういうことができた。

「ディンさん、悠輔、本当にごめん。俺、自分のことばっかり考えてて、二人がどんな思いをしてるのか気づけてなかった。」

 掴まれている手に力を込め、しっかりと悠輔を見つめながら言った。

「俺と、友達になってくれないか?」

 と。

「……。」

 悠輔は無言で源太にハグをする、それが悠輔の答えだった。

「ありがとう。」

 目尻にうっすらと涙を浮かべながら、源太も悠輔を抱きしめた。

 それを見ていた担任が、ふと拍手をし始めた。

それに乗せられ、クラスがパチパチと拍手の音に包まれた。

 担任からすれば、これは最良の結果なのだ。

そして、大人である自分が介入せずとも、子供たちは自分の意思で歩み寄ることを決めた。

クラスメイト達は二人の姿をみて、自分たちもきちんと向き合っていこうと思っていた。

 中学生という、知識も経験もない子供ではあるが。

それでも、きっとうまくいく。

ほとんどのクラスメイトは、そう思って拍手をしていた。

 ほんの数人を除いて……。

 だが、それを誰も気に止めなかった。

今は、お互いに受け入れられたことを喜んでいた。

 ディンもまた、喜んでいた。

自分を受け入れてくれようとしている、子供たちに。

 しかし、物事はそう上手く運ぶものではない。

だがしかし、それに気づくものは一人としていなかった。

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