第五話 博霊神社にて
チルノ達と出会ってから結構な時間が経つ。自分達は長い石段を登っていた。
「まだ・・・・・・博霊神社には・・・・・・着かないの・・・・・・か・・・・・・?」
荒れた息で、魔理沙に質問する。
「もう少しなんだぜ」
石段を上っている間、この会話が何回繰り返されただろうか。多分もう、五回以上は繰り返されている。しかし、なかなかは博霊神社にたどり着かない。
(なんでこんなに長いんだ・・・・・・)
思っていたよりも長い石段だった。
(こんなに長いなら、神社への参拝者も来る気が失せるぞ・・・・・・)
こんなに長い石段を自分は上ったことがなかった。そのためか、すぐに息が上がり、息をするのもきつかった。
(うぇ・・・・・・血の味が・・・・・・)
運動不足なのか、口の中が血の味がする。息をするたびに気持ち悪い。
(早く着かねぇかな・・・・・・)
そんなこと思っていると、朱色の鳥居が見えてきた。
(おっ・・・・・・?)
「着いたぜ、レイ。ここが博霊神社だ」
やっと着いたようだ。
(やっとこれで、きつかった階段とおさらばか・・・・・・)
魔理沙の言葉を聞いてとてもうれしかった。それと共に博霊神社がどんな建物か想像する。
(幻想郷最強が住んでいるところだ。きっと豪華絢爛で凄い建物なんだろう
な・・・・・)
そして、長かった石段を登り終える。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、現実は想像と全く異なっていた。目の前に広がっているのは殺風景。母屋と本殿、井戸にこの朱色の鳥居があるだけ。本殿は豪華絢爛ではなく、相当痛んでおり、到底、信仰が集まっているとは言い難い。そして、鳥居についている看板には「博霊神社」の文字が刻まれているが、かすれて読めるか読めないかの状態である。唯一、人の住んでいない場所と異なる部分と言えば、境内の掃除が行き届いているということだ。
「なぁ、魔理沙・・・・・・本当にここに「霊夢」ってやつがいるのか・・・・・・?」
「あぁ、ここが霊夢ん家だぜ」
魔理沙はそう答える。多分、魔理沙の言っていることは嘘ではない。しかし、この景色を見るとその言葉は信じ難かった。
「霊夢―――‼遊びに来てやったぜ――‼」
魔理沙が境内に響き渡るようなでかいで声叫ぶ。しかし、返事は返ってこなかった。
「・・・・・・いないな・・・・・・あいつ、依頼でもあったのか・・・・・?」
どうやら、いないらしい。
「どうする、レイ?」
「何がだ?」
「霊夢の野郎いないみたいなんだ。待っとけば帰ってくると思うんだが・・・・・・あいつが帰ってくるまで待つか?」
魔理沙からそう問われた。「霊夢」という人物がいない今、ここに用はない。ただの時間の無駄だ。しかし、家路もわからない今、待たないという選択をすれば路頭をさ迷うだけである。
(なら、待つという選択肢か無いだろう)
「ああ」
その返事の後しばらくの間、無言の時間が流れた。なんだか気まずい状況。
(気まずい・・・・・・気まずすぎる・・・・・・何か話すことはないか・・・・・・?)
しかし、あいにく、少女と会話が弾むようなネタは持っていない。
「しかし、思ってたよりも博霊神社って殺風景だな・・・・・・本当にこんなところに幻想郷一の化物が住んでいるのか・・・・・・?」
何か話さなければ、その気持ちが先走ってしまったせいか、思っていたことがつい、口に出てし
まった。しかし、そのようなことしか思いつかなかったのも事実である。
「何よ、文句でもあるなら私に直接言いなさいよ」
それに答えたのは魔理沙ではなかった。
「‼」
魔理沙ではない別の声が後ろからしたことに驚き、飛び上がってしまう。後ろを見ると、大きな赤いリボンを頭につけ、紅白の巫女服のようなものを身に纏い、腋を出して、右手にお祓い棒らしきものを握っている少女がいつの間にか立っていた。
「いい度胸ね、初対面の私を化け物扱いするなんて」
少女のわりに気が強いらしい。口調がそれを物語っている。
(誰だ・・・・・・こいつ・・・・・・?)
「霊夢!なんだ、帰ってきてたのか」
「‼」
(こいつが・・・・・・幻想郷最強の博麗の巫女・・・・・・⁉こんな少女が・・・・・・⁉)
「今さっきね」
「人里から妖怪退治の依頼でもあったのか?」
「私をなんだと思ってるのかしら・・・・・・私だってこれでも博霊の巫女よ。紅魔館に盗みに侵入するあんたと違って暇じゃないのよ、魔理沙。用がないなら帰って頂戴。もう私さっき依頼で疲れたのよ」
そう言って本殿のほうに向かう霊夢。
(盗み⁉・・・・・・魔理沙って泥棒だったのか⁉)
「違うぜ、霊夢。決してあれは盗みに入っている訳じゃない。一生、パチュリーから本を借りているだけなんだぜ」
(一生借りるって・・・・・・それを盗むって言うんだよ・・・・・・そのパチュリーって人もかわいそうだ・・・・・・)
「まぁ、そんな事どうでもいいから、今日は帰って頂戴。今日は色々準備があるから忙しいのよ」
霊夢は相手をしてくれなかった。
「まあまあ、そんなこと言わないで相手してやりなさいよ。新しいお客さんもいるようだし」
また別の声が聞こえたかと思うと目の前の景色に切れ目が入り、目玉のたくさんある空間から一人の金髪の女性が出てくる。なぜかわからないが、その空間の名とそこから出てきた女性の名を自分は知っていた。
「スキマ妖怪・・・・・・いや、妖怪の賢者・・・・・・八雲・・・・・・紫・・・・・・」
「あら、知ってたの?驚きね。でも、説明の手間が省けて助かったわ」
「その口調からすると、あんたが連れてきたわけじゃなさそうね、紫」
「えぇ」
「魔理沙、こいつは誰なの?」
そう言って、指を指してきた。
「あぁ、レイか。レイは森で出会ったんだ。博霊の巫女に合わせてくれって頼まれたから、連れて来たんだぜ」
「ふ~ん、私に会いにね・・・・・・なんの用よ?」
「いや、あんたに聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
「あぁ、幻・・・・・・」
(ちょっと待て・・・・・・こんなにも平和なのに、幻想郷に訪れる危機っていうのはなんだ?なんて聞いたら変に思われるぞ・・・・・・それどころか、敵対心を持たれてもおかしい・・・・・・)
「何て?」
「いや、あんたなら自分の事知っているかなって思って・・・・・・」
「いや、あんたの事なんか知らないわよ。知っているわけないじゃない。知っているとしたら紫でしょうけど、あんたも知らないんでしょう?」
「ええ、彼の事は本当に知らないわ。貴方、名前は?」
「記憶がないから本名ではないが、レイだ」
「記憶がない?記憶喪失は厄介ね・・・・・・」
困った顔をする紫。
「・・・・・・もしかしたら、貴方・・・・・・外来人かしら?」
「外来人?」
「知らないみたいね・・・・・・霊夢、説明してあげて」
「なんで、わたしがしなきゃいけないのよ⁉魔理沙もいるだから、魔理沙にさせればいいじゃない」
「なんで私なんだぜ⁉だ、大体、言い出しっぺの紫がすればいいだろ‼」
三人とも自分に説明するのが面倒くさそくて嫌なようだ。みんなで押し付け合っている。
「外来人にここの説明をするのは博霊の巫女の仕事よ。私のすることではないわ」
紫の一言にグゥの音も出なかった霊夢。
「・・・・・・わかったわよ、ええっと・・・・・・何から説明しようかしら・・・・・・」
嫌な顔をして、面倒くさそうに説明を始めた。
「世界の事でも説明してあげればいいじゃない」
「五月蠅いわね‼今からそれを説明しようとしたところよ‼」
霊夢は地団駄踏んだ。
(騒がしい奴らだな・・・・・・)
「世界は博霊大結界によって隔てられているわ。一つはここ、幻想郷。さっき話してた外界もその一つ。その他にも無数の世界が存在するのよ」
「その博霊大結界ってのは何なんだ?」
「全部説明するから黙っといてくれる?」
「・・・・・・」
霊夢は本当に威圧感が凄い。思わず黙り込んでしまった。
「それでよろしい。で、さっきの質問だけど、博霊大結界とは初代博霊の巫女が作った結界。世界の
行き来を制限するもの。その結界でこっちに人が流れこまないようにしたり、こっちの妖怪たちが人間を喰いに行けないようになっているわ・・・・・・」
この後も、こんな感じで霊夢から世界の事について教えてもらった。
「つまり、ここは幻想の世界で、自分は、その外界から来た人間だと言いたいのか・・・・・・?」
「そう言うことね。でも、あんたがどこからきたかなんて知りもしないし、昔から幻想郷にいたとし
てもあんたの事は知らないわ」
「もし、あなたが外来人なら、記憶喪失もあり得ると思ってね」
「そうなのか?」
「えぇ、幻想郷に来る理由は様々だけど、記憶をなくしているケース出多いのは外来人なのよ。もし、あなたが外来人なら、私はあなたを外界に返す義務があるわ・・・・・・と、言っても、あなたの素性が分からない今は何も出来ないのだけれどもね」
「そう・・・・・・か・・・・・・」
(まいったね。こんな時はどうすりゃいいんだか。分かったのは自分が誰だか分からん、ということくらいか)
「そう言えば、霊夢。レイの奴、弾幕ごっこの事知らないし、弾幕も出せないんだ。弾幕の出し方とか、教えてやってくれないか?」
魔理沙の一言でここに来た目的を思い出す。
(そう言えばそんな理由で来てたな・・・・・・うっかり忘れていたな・・・・・・きちんと霊夢から、弾幕の出し方ってのを教えてもらって、弾幕の出し方を覚えなきゃ話にならんしな。ちゃんと聞いとくか・・・・・・)
「簡単じゃない、イメージよ、イメージ」
予想外の答えに、開いた口がふさがらなかった。
「弾幕の出し方が分からないなら、弾幕ごっこを実際にやってみればいいじゃない」
(そんなんでいいのかよ・・・・・・)
「なあ?言ったろ、レイ?弾幕はイメージで出すもんだし、実際にやってみたほうが良いんだ。とい
うことでレイ、私と弾幕勝負だ‼」
急に戦いを申し込まれて、少し戸惑ってしまう。魔理沙はやる気十分だ。しかし、自分は違う。
「いやいやいや、急に言われても・・・・・・」
「覚悟は良いか?さあ、弾幕勝負の始まりだぜ!!」
「人の話を聞け――――――‼!!!!」