第三話 普通の魔法使いの少女
「・・・・・・」
目を覚ますと知らない場所にいた。生きている感触がちゃんとある。どうやら助かったらしい。ベッドから身体を起こす。周りを見渡す。様々なものが目に入った。なぜなら本や実験道具、キノコが大量に入った籠などのその他諸々が部屋のあちらこちらに散乱していたからだ。
(まるで、魔女の家だな・・・・・・)
そう思っていると、少女が眠っているのを見つけた。金髪で白と基調とした服を着た少女が、テーブルに寄りかかって眠っている。
(この少女に助けられたのか・・・・・・?)
彼女が起きた時にお礼言わなければいけない。それと同時に、
(結構散らかっているな・・・・・・散らかっている部屋を見ていると、掃除したくてウズウズする・・・・・・)
掃除したくなった。だが、仮にも見知らぬ少女の家。勝手に物を触るのは失礼だろう。
(お礼として片づけをしよう。これは勝手じゃない。お礼だ・・・・・・)
そう心に言い聞かせ、部屋の片づけを始めた。
(それより・・・・・・あの男は何だったんだ?彼の言動からは自分を何かの目的で殺そうとしてき
たわけではなさそうだ・・・・・・じゃあ、彼は本当に遊びで自分を・・・・・・?)
そう考えると悪寒が背中を這いずり回った。
「まぁ、そんなこと考えても仕方ない・・・・・・か・・・・・・」
そのまま、黙々と掃除を続ける。掃除は十分もあれば終わった。
(・・・・・・見違えるな・・・・・・)
さっきまでいた部屋とは全く違う部屋みたいだ。
「いいことをすると、なんだか気持ちいいな」
「ん・・・・・・・?あ、起きてたのか」
今の声で、少女を起こしてしまったようだ。
「なっ、なんで部屋が綺麗に!?もしかして、あんたがやってくれたのか?」
「あぁ、助けてもらったお礼にな」
「サンキュー。最近部屋を片づけなきゃいけないって思っていたから、助かったんだぜ」
男みたいな喋り方だ。しかし、声質は少女である。
「それより、身体の具合はどうなんだ?見た感じ外傷は頬のかすり傷だけだったが・・・・・・どっ
か具合の悪いところはないか?」
どうやら見知らぬ自分を心配してくれているようだ。
「あぁ、大丈夫だ」
まだ少し首は痛かったが、少女を安心させるため、嘘をつく。
「それは良かった。でも、ここまで運んで来るのは私一人ではきつかったんだぜ」
(凄いな・・・・・・一人で自分を背負ってここまで来たのか・・・・・・)
少女が男を背負って歩くのはかなりきつかったであろう。
「きつかったんじゃないか?」
「ああ、そうだぜ。ここまで運んで来るのは私一人ではきつかったんだぜ。特に首や手、足にはめて
いる枷が邪魔で、痛かったんだぜ」
「すまない、お礼を言わせてくれ。ありがとう、あんたのおかげで命拾いしたよ」
「まあな。でも、本当にあの時びっくりしたぜ。あの森でキノコ狩りしてたらお前が倒れていたんだ
からな。そういえばお前、あんな場所で何してたんだ?なんかあんたが危なさそうだから助けたんだが・・・・・・」
どうやらあの極太レーザーは彼女が放ったものらしい。
「・・・・・・」
(彼女に真実を話した方がいいのか・・・・・・?)
彼女が助けてくれたとは事実。しかし、彼女があの男仲間だったら?あの男のように自分を殺そう
とする敵だったら?そんな思考が頭をよぎる。
(真実を言うのは得策でもない。かといって嘘を言うのも、彼女を信用していないみたいで申し訳ないな・・・・・・)
さっきついた嘘はついてもいい嘘だったが、この質問で嘘をつくと、これからの信用にもかかわる。幻想郷を守るための情報収集をするのに、信用がないと情報聞き出せない。なので、信用がなくなるのだけは避けたい。かと言って、全て話してもいいのだろうか。しかし、彼女が敵だった場合自分はどうなるのだろうか?この思考が頭をよぎるせいでなかなか返答が出来ない。もし、仮に少女が敵だった場合、自分の命が危険にさらされる。
(どうすればいい・・・・・・)
悩みに悩んだ。数十秒ほど考え、その質問に答える。
「・・・・・・道に迷っていたんだ」
これしか思いつかなかった。決して嘘ではない。道に迷っていたことは事実だ。しかし、全てを話したわけでもない。これが最善の答えだと自分は思った。
「そうか、迷っていたのか・・・・・・じゃあ、あの男は誰なんだぜ?遠くから見ていたからよく見
えなかったけど・・・・・・」
「分からない・・・・・・・」
「分からない?」
そうしか答えられなかった。あの男について自分は何も知らない。襲われた理由もいまいち分かっていなのだから。
「急に戦いになったんだ・・・・・・そうしか言えない・・・・・・」
「戦いに?」
「あぁ、相手は遊びだって言ってたがな」
「遊びって・・・・・・あんたからは普通に血が出ているじゃないか?相当痛めつけられ
ていたようだったし・・・・・・」
「あぁ、痛めつけられたさ。あの時、何とかスパークいうレーザーがなかったら死んでいた」
「何とかスパーク?」
彼女は不思議そうに首を傾げ、聞き返してくる。
「ほら、あんたが森で唱えていた・・・・・・」
「マスパのことか?」
「マ、マスパ?」
聞き慣れない言葉に、今度はこっちが首を傾げ、聞き返してしまった。
「恋符 マスタースパーク 私の十八番のスペカだ」
「ス、スペ・・・・・・カ?」
再度、首を傾げる。少女が言っていることが全く理解できない。
「なんだ、お前、スペルカードも知らないのか?」
(スペルカード?・・・・・・どっかで聞いたことあるような・・・・・・聞いたことないような・・・・・・)
「・・・・・・知らない・・・・・・」
少女はその返答を聞いて驚く。そして、追加の質問をしてきた。
「じゃあ、弾幕ごっこのことも知らないのか!?」
少女はこちらに迫ってくる。
「あ・・・・・あぁ・・・・・・」
少女が出すとは思えない迫力に、自分は圧倒されてしまった。少女はその答えを聞くと、大きなため息をつく。
「弾幕ごっこも知らないで戦ってたら負けるに決まってるんだぜ」
呆れた口調で言われた。
「そうなのか?」
(自分は戦い方って言われると、死合しか知らないんだが・・・・・・その弾幕ごっこってのは死合に匹敵するものなのか・・・・・?)
「今の戦い方は霊夢が弾幕ごっこって定めたんだぜ」
「霊・・・・・・夢・・・・・・?」
その言葉に聞き覚えがあった。
(・・・・・・どこかはわからないが、どっかで聞いたことがあるような・・・・・・)
「そう。今の博霊の巫女だ。幻想郷で最強なんだぜ」
(博霊の巫女・・・・・・・‼)
少女の一言で、あの声の言っていたことを思い出す。
『この危機は博霊の巫女の力をもっても、喰い止めることは不可能に近いことなんです・・・・・・』
(・・・・・・幻想郷最強の博霊の巫女が喰い止めれない危機を、こんな自分に喰い止めることが出来るのか?)
なんだか、どんどん不安な気持ちになってきた。しかし、自分が不安になったところで、何も変わ
らない。
「なぁ、その・・・・・・自分を博霊の巫女に会わせてくれないか?」
少女にそう頼んだ。
(少女は博霊の巫女「霊夢」について知っている・・・・・・)
なら、その「霊夢」に合うことが一番良い策と考えたからだ。
(会わないことには何も分からないし始まらない。もしかしたら、自分の事を何か知っているかもしれないし、幻想郷を守る手助けをしてくれるかもしれない・・・・・・)
「霊夢に会って何するんだ?」
「さぁね。会ってからじゃないと分からない。またその時考えるさ」
そう答えると、少女は微笑む。
「・・・・・・分かった、いいんだぜ。私もお前を霊夢のところに遊びに行きたかったしな。案内するぜ」
彼女はそう言うと、テーブルの上に置いてあった黒い尖り帽子を被り、菷を手に取る。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私の名前は、霧雨 魔理沙。普通の魔法使いなんだぜ。お前は?」
「自分・・・・・・?」
魔理沙の言葉でようやく肝心なことを思い出した。
(そ、そうだ、自分は――)
自分は?
「・・・・・・・・・・・・」
「待て・・・・・・待ってくれ・・・・・・」
顔を押さえて、あるはずの記憶を掘り返す。
(自分は・・・・・・自分は・・・・・・)
しかし、その後の言葉が続かない。
「覚えていないのか・・・・・・?」
「いや、そう言うことは・・・・・・」
『ねえ、レイ※※※ ちょっといいかしら?』
記憶だろうか、何かが頭の中で蘇る。どうやら名前を呼ばれているところのようだ。しかし、その記憶は曖昧なもので、名前は一部分しか分からなかった。しかし、今はそれで十分だった。
「・・・・・・レイ・・・・・・」
「レイ・・・・・・?なんだ、具合が悪いわけではないのか・・・・・・良かった、安心したぜ・・・・・・」
魔理沙は胸をなでおろす。
「レイ・・・・・・それがお前の名前なのか?」
「たぶん・・・・・・そうだ」
「・・・・・・そうか、じゃあ霊夢に会い行くぜ、レイ」
「あぁ」
自己紹介をお互いに終えたところで、魔理沙と自分は博霊の巫女「霊夢」に会いに外に出た。