犠牲って……?
何を以って、そして誰の為の【特異】なのか。それはこの場にいる者達に対して、今更説明をするまでもなかった。
「ふむふむ。それで、発生した瞬間の現場を文字通り目の前でピンポイントで捕まえる訳だね。それなら万が一の言い訳すらも通らない」
「そうですわ。ただそこは相手も学園の外にいる正体不明の未知数の敵。それで皆に万が一があっては困りますし、場合によってはアルカディア学園という枠すら超越した相手になるかも知れない。……だからワタクシとシャルルで万全を期して探りを入れるんですのよ」
「僕とプリスでかい? 展開によっては大規模悪党との正面対決になりかねない気がするんだが、そこも加味しての二人なのかい?」
「当たり前ですわ。相手がアルカディアと関わりない悪党なら、尚更貴方もワタクシも力を存分に発揮出来るし、正体がばれるという事もないでしょう?」
「いやいや、外部の目撃者から僕等の素性が漏れてしまう可能性だってあるんじゃ?」
「その時は最悪空間ごと遮断するなり隔離するなりしてしまえばいいんですのよ。ワタクシやお母様ですら欺いたその罪はそれなりに『高く付く』のですから」
やはりこの母娘は他の考える『それ』とは一線を画していた。そもそも星の母神が学園に潜り込んでいる時点で色々とおかしいとシャルルは思うべきなのだが――、
「僕も結構感覚がおかしくなって来たのかな……?」
「何か言いまして?」
「いや……。それで、具体的には?」
「それは私からお話します――」
シャルルの横にいたミュリアが、待ってましたと言わんばかりのタイミングで即座に応える。
内容的には単純であった。まずミュリア達のパーティが大手ギルド『インテグレイト』から引き抜いた選抜メンバー達で戦い、戦力的には本来分が悪い状態で戦闘に入る。だが、その表向きの戦力をひっくり返すくらいのパワーで真正面から粉砕し、相手のプライドをへし折るような戦いで挑む。
そうすれば向こうは練習試合とは言え、何としてでも負けまいという意志が働き、嫌でも【カースドウェポン】を発動せざるを得ない状況を作る。
「そうしたら後は影で待機しているルルナ殿がシャルル殿と姫様に詳細情報を送ればいいだけです。まあマーテル様の作成したアプリケーションシステムですから、誤作動等は無いと思われますが、そこは念には念を、です。ルルナ殿が素早く発信元を確認した後、直ちにシャルル殿がその根元を叩き潰す。……以上です。何か質問は?」
「随分都合のいい展開に見えるけど……果たして僕達の思惑通り仮に向こうを劣勢に追い込んだとして、そんな簡単に使ってくれるだろうか?」
「そこはワタクシも少々策を講じたのですわ。恐らくギルドの中で最も『プライド』が高いであろう一人をこちらから指名しました」
「プライド……? つまり『負けず嫌い』って事?」
「端的に言えばそうなりますわね。インテグレイト三幹部の一人であるリッツ。リッツと言えば『手段を選ばず勝利を貪欲に求める』として巷では良く知られていますのよ」
「ふーむ。だからこそ、ぐうの音も出ないくらいボコボコにしてしまえば、使わざるを得ないと?」
「ですわ」
「まあ不安も若干残るけど……他にはないかな」
「ではシャルル、早速参りますわよ」
「え? もう?」
「当然ではありませんの、ワタクシ達は万が一敵が逃亡した際等に備えて、街の現状をそれなりに知っておく必要がございますもの」
「いや、そりゃそうだけども……」
「なら行きますわよ。善は急げ、ですの」
「なんかちょっと違う様な!? やめろ! 引っ張るなぁっ!」
何度も続いたシャルルの叫びはやがて無造作に開けたドアの向こう側へと消え去り、後には沈黙する空気だけが残る。
それなりの連携も試される今回の作戦だが、かと言って特別難しい事をする訳でもない。強いて言えば敵側の出方が限りなく不透明であるのが、唯一恐れる点ではあるが、そこは万全を期しての『この二人』である。余程ではない限り、どんな敵であろうと返り討ちに出来るのが何よりの強みだ。
「ほ……ほらほら行こ行こ! シャルが犠牲になってくれたんだから、ルル達もその期待に応えないといけないんだからねっ!」
いやいやそれはおかしい。――と一同から総ツッコミを食らいながらも、約束の時間に遅れないように下準備は確実に済ませ、ルルナ達もまたそれぞれの目的を遂行しに向かう。




