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僕は無双が出来ない。  作者: 朝夜
6.黒い気配(え、次は私が紹介? ええと、よろしくね)
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戦いの日は近い……のかも

 ――アルカディア学園・インテグレイト・ギルド長室――




 それなりに格式の高い椅子に座ってモニターを一人の男子生徒が眺め、それを右斜め後ろから見守るように背中を見つめる女子生徒の姿があった。


 

「姉さん、【エギル】の調子は?」

 

「……平均浸食率86%並びに平均同期率91%。マネージャーからは特に不備や欠陥の報告は出ていない。至って順調よ」


「ふーんそっか」



 椅子に座っているのは今や100名を超える大規模なギルドになったインテグレイトを一番上から指揮するギルドリーダーのウィルレインと、それを一歩引いた立場でサポートするサブリーダーにして実姉のシルフィアである。

 

 そんな姉が背中越しに肩を震わせて様子がおかしいウィルを見つめて、一体どうしたのかと聞こうとしたが、そこは姉弟。姉が考えている事など、弟が今更聞くまでもなかった。

 

 

「僕はね、これから間もなく始まる夢のような光景を思うと、とても楽しみで仕方がないんだよ。姉さんには分からないかな?」


「……そこまでして、自分の力を誇示したいの?」


「ああしたいさ。したいに決まってるね。特に僕をボロ雑巾のように踏み倒して、嘲ったあの『テレスティアル・ヴァンガード』の長だけは許せない。ああ許せないね。許せないったら許せないッ!!!」



 ウィルは苛立ちを込めて机を勢いよく何度も叩き付ける。それを見たシルフィアは何をするでもなく、ただ瞳を閉じるだけ。


 ほんの少しまでアルカディア学園の栄えある『ヴァーテクス』の一員であったウィルはこのまま順風満帆に覇道を歩み続けられるものだと信じて疑わなかった。

 しかし、その道は突如転校してきたたった一人の女騎士によって阻められ、あまつさえ倒すどころか未だに指一本触れられずにいるという、騎士としてもそうだが、何より男として受け入れがたい事実を抱えているのだ。

 それからの彼にとっての最大の目的は再びヴァーテクスの地位を取り戻す事は当然なのであるが、それ以上にもう一度自分に何度も砂の味を覚えさせたあの憎き現序列一位の騎士の顔になんとしても絶望を味わわせなくてはならないと、そればかり胸に刻んで、日々を生きていた。

 

 一方で姉のシルフィアも、常に自信に満ち溢れていた弟の性格はよく知っているが故に、これまで一歩引いた立ち位置でサポートをし続け、これからもその気持ちは変わらないであろう。

 

 だが、それでも今の彼女には一つだけどうしても拭いきれぬ『不安』があったのだ。

 

 

 

『――順調であるようだな』

 

 


 突如ウィルでもシルフィアでもない、第三者の声がどこからともなく発せられ、二人ははっとして部屋の片隅に視点を移す。

 すると、空間が捻じまがったように妖しげな黒の渦が宙に出現して、中から現れたのは一人の黒髪の男だった。それをウィルが見るなり、勢いよく椅子から立ち上がる。



「『バァル』様!」


「中々に久しいな。我が与えた器は役に立っているか?」


「はい! とても上々の成果を上げられており、【依代】は順調に力を蓄え、そして【宿主】である僕達へと確かに還って来ております。これまで経験した事の無いエネルギーをこれ程までに実感出来ているのも、全てバァル様のお力添えがあってこそです」


「それは何よりであるな。ならばお前の使命を今度こそ果たせそうか?」


「勿論であります。そして、今度こそあの憎き『テレスティアル・ヴァンガード』共の顔を一人残らず踏みにじり、そして砂を何度も噛み締めさせるのですよ!」


「ふむ、それだけの『強さ』があるのならば我が語る事は何もないな。己の心が思うままに力を振るうがよい」


「ありがたき幸せ。――必ずや僕の悲願を叶えてみせます」



 ウィルはバァルに対し最敬礼を返すが、それに反応するでもなく、すぐに闇に溶けて行ってしまった。

 その二人の背中を後ろで見ていたシルフィアは終始顔が浮かばれる事無く、不安げな気持ちのまま弟に問う。

 


「……ウィル」


「なんだい姉さん」


「貴方は本当にこのままでいいの? 確かに外面だけで見ればこの装備の恩恵は相互利益が生まれているかも知れないわ。……でも!」



 シルフィアは薄々勘付いてはいた。この力を手に入れた果てに行きつくのは、ただの【絶望】であり自分等はただあの男に利用されているだけなのだと。

 それだけで済むならまだしも、【エギルの宿主】として選ばれているウィルはこのままでは良くない【何か】が起こる。確証こそあるはずもないが、日々を過ごしてもこの悪寒が今日を迎えるまで遂に晴れる事はなかった。

 


「――それで僕の身が滅ぼうが知った事じゃない」



 その言葉にシルフィアは限界を超える。

 ウィルが気付いた時には、右手を弟の頬目掛け振り抜き――――部屋に一つの乾いた音が響いていた。



「いい加減にして……! 貴方は何を言ってるの!? ウィルがこれまで強さを求め続けて来たのは、お父様が座する魔法騎士連盟の幹部後継者として、約束された確固たる地位を失わないようにする為でしょう!? なのに求めすぎるあまり我が身を滅ぼすなんて、それじゃ本末転倒もいい所だわ!」


「なら父上がグレース家として結果以外の何かを求めた事があるのかい?」


「それは……! でもだからと言って自分の身を犠牲にしていいなんて、お父様はまだしもお母様は望んでなどいない筈よ!」


「父上は在学中は常に栄えある『ヴァーテクス』の一員で在り続けた。だから僕もそれを目指すべく常に高みを目指して来たし、環境だってそれを求めるに相応しいものを常に与え続けられて、幾度無い叱責や罵倒にだって耐えて来た」



 華々しい経歴と血筋を持つ由緒ある家系で、一切の妥協を許してこなかった先代がいたからこそ、誇りと名誉が守られ、次代に託す事が出来た。

 ウィルレインがまだ幼い頃には、どれだけ高度な魔法でも父はその身と腕を以って直々に見せて来たからこそ説得力が生まれ、言葉の一つ一つに確かな重みが生まれた。だからこそ彼は純血統としてその期待に応えようとして来た。現にアルカディア学園に在学してからも常に先を走り続け、このままいけば誰もがウィルの華々しい将来は約束されるだろうと、疑う者などいなかったからだ。



「――――なのに、だよ」



 そんな彼の約束されていた栄光の道は、たった一人の少女によって踏みにじられ。まるで大人が子供の振り回す玩具を軽くあしらうが如く、ウィルの野望は潰えた。



「プリスティア……ッ! あの女に、僕の全ては壊された……! 今やその名前を口にするのも憎らしいッ! 何なら今すぐにでもこの有り余る力で四肢を引きちぎり、あの高飛車で傲慢な顔を醜く歪めてやりたい所なんだよ!」



 本能と怒りに震えたウィルは拳に蓄えた魔力を振り上げる。偶然か狙ってか、丁度モニターに映ったその少女の顔を憎らし気に見つめると、その拳はそのモニターに向かう。咄嗟にシルフィアが制止するも、当然間に合う訳がなかった。



「やめ――」



 後少しでその拳が画面に触れる。その瞬間、ピタリとウィルの動きが止まった。



「でもね――。こんな私情で怒りを爆発させる程、僕は子供じゃあない」



 ウィルはおもむろに立ち上がり、何処かへ行こうとする。



「何処へ行くの」


「マネージャー達と最後の確認をしてくるとするよ。姉さんはここで留守番してて」


 

 ゆっくりと立ち上がって姉には目もくれず無言でドアに向かい、ノブに手を掴んだ所で、ぼそりと口を開いた。


 

「僕の邪魔は――誰にもさせない。誰にも」


 

 シルフィアの返答を待たず、ウィルレインはそのままドアの向こうへと去って行ってしまった。


『えーまたまたお待たせしてしまい、申し訳ございません。世情が世情ではありますが、これからも誠心誠意にふんt――』




「ったくもー……」

「なんだい、また殴ったのかい? しかも背後から」

「こやつにかける情けはなくってよ! オーホホ!」

「……その真似、本人が聞いたら割と怒ると思うけど」

「聞いてないからヘーキヘーキ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新待ってました!相変わらず人間模様の生々しい学園ファンタジー、面白いです、続けてください
2020/05/13 07:35 退会済み
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