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僕は無双が出来ない。  作者: 朝夜
5.二軍試験開始(この章は不本意ながら僕が紹介する事に)
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浄化

 レイシアはそれを迎え撃つべく構え、ルルナも小細工は一切無しに正面から立ち向かっていった。

 

 彼女はいつ肉体の限界が訪れてもおかしくはない。だが、それを庇うような動作や様子は微塵も見せず、何処までも主に忠実であろうとした。

 

 魔力を高めた両剣からは鋼鉄でさえ軽く一薙ぎするだけで、真っ二つになってしまうだけの硬度を持ったマナが込められているも、それすらもルルナはやはり軽々しく『素手』で受け止める。魔界の力など何処吹く風か、その強さを優に超える『デタラメの魔力』を込められた杖でルルナは応戦し、仕掛けるタイミングを計っていた。――そして、そのチャンスは意外にも早く訪れる。

 


(私はもう限界。だからこれが……最後……)



 レイシアが半端な攻撃ではやはり無理だと判断し、身体の内側からとめどなく送られて来る【闇】の力を剣に集中させると、少しだけ距離を取り、助走をつける。

 機械技術によってもたらされた制御力で魔法の力を精密に結集させ、間違いなくそれが『最後の一撃になる』と、彼女に込められた『意志』も同時にルルナは感じ取ったのだろう。今度は素手ではなく、杖を握りしめて待ち構えた。

 


「……行きますッ!!!」



 一度、二度。虚空を左右に斬り裂いて放たれた【闇】の刃をルルナがいなすと、今度は瞬間的に真上に飛んだレイシア。

 

 機械と魔法の結集体でもあるレイシアの総てを乗せた一撃だった。――それでも尚、その刃は最後までルルナに届く事は無く、振り下ろした両剣を杖の先端で器用に受け止めると、そのまま魔法を撃って手に握られていた武器だけを彼方へ弾き飛ばす。

 

 

「馬鹿な……こんな事が……!?」

 

 

 ロベルティにとっては信じがたい光景だった。ただ絶句するしかなく、開いた口も塞がらない。

 

 

「シャル! 今だよ!」

 

「――かの者を捕え、拘束せよ。……【高重力拘束魔法グラビティバインド・スペル】」

 

 

 そして双子にとっては、これで終わりではない。無防備になった隙をシャルルはずっと図っていたのだ。目的は、他でもないルルナの為に。

 

 ただ魔法で捕縛するだけでなく、重力も兼ね備える事でより拘束性を強め、身動きを取る術を完全に失わせる。

 

 

「き、貴様等! 何をする気だぁ!!?」

 

「貴方と僕は知っている。この機械兵……いや、少女はとてもどす黒く、淀んだ【闇】に侵されている。だから――――」

 

 

 双子に迷いなどなかった。成すべき事はただ一つ。目の前でもがき、苦しむこの少女を助ける。

 

 

「その闇を――――全て『取り除く』」

 

「ちょっと痛いけど……我慢してねレイシア!」

 

「やめろ……。やめろぉォォッッッ!!!」

 

 

 最愛の娘を亡くしてからずっと願い、憎しみに囚われ続けていたロベルティは、新たなユートゥルナの姿を思い、そして描いていた。だが、それは今終わろうとしている。一人の少女の光によって。

 

 

「水と光の清らかさと、無垢なる想いで、邪なる闇を振り払え――【聖・浄化魔法ラ・ピュリフィカション】!」

 

 

 水と光と無。三つの属性が合わさる事で初めて生まれる浄化の魔法は、アルカディア学園に属するエース級の魔導士でも簡単に扱える魔法ではなく、使用者に多大なる負担を強いられる。

 

 そんな大魔法を苦も無く、そして無詠唱で唱えられるルルナの魔法力を味わった者は、この世でも片手で数えるくらいしかいないだろう。

 

 しかし、ルルナの魔法は決して敵を倒す為だけではない。誰かを救う為、あるべき物をあるべき姿に還す為に放つ事もある。

 

 

「……流石だね。僕にはあんな風に誰かを浄めるなんて、そんな純粋な心は持てない」

 

 

 魔王だから悪なのではない。勇者だから善なのではない。互いにその血を色濃く引きながらも、心は皮肉にも相反した。そんな光景をまざまざと見せつけられ、シャルルはただ溜息を漏らすしかなかった。

 

 

「これでよし――っと」

 

 

 温かい光に包まれ、ゆっくりと倒れるレイシアをルルナは優しく抱きしめる。念のため心臓の鼓動を確かめるが、命に別状は無く一安心していた。

 

 片や、全てが終わってしまい、がっくりと膝をつき、俯くロベルティ。

 

 ルルナにはロベルティに対し、言いたい事が山程あった。何から問い詰めたらいいか分からないくらいに頭に血が昇っていたが、まずは一発殴ってやりたい。そんな気持ちのまま歩み寄ろうとした。

 

 

 

 

【――終わったな】

 

 

 

 

 そう思っていたルルナの足は、僅か二歩で止まる。

 

 

 ロベルティの背後に気配も無く突如現れたのは、謎の男だった。深く黒い霧と共に何の前兆もなく出現し、えも言われぬ気配を纏っていた黒髪の男に、気付けば双子揃って身構えていた。

 

 

「貴様は目的を果たせなかったようだな?」

 

「……た、た頼む! 私にもう一度チャンスをッ! レイシアはこんな所で終わっていい器ではない! だから――」

 

 

 ロベルティは最初に見せていた余裕や威厳なども全て捨て、ただあられもなく縋った。『もう一度レイシアが動くならば』と。

 

 

「ぁが……ッ?」



 対して、男が出した結論は単純だった。

 

 

「貴様の役目は『終わり』だ」

 


 無慈悲に男が差し出した手。それはロベルティの『胸』を貫くと、その顔には満足気な笑みが浮かんでいた。

 

 

「中々の余興だった。それなりに【闇】を蓄えられたし、足しにはなるだろう」

 

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