こーなりゃもうね、シャルが来る前に終わらせてしまおう
――シービス電波塔・メインコンソール前――
ルルナとリアンがエレベーターに乗っていた所、シャルルが操作する前に上昇してしまい、戻って来るまで二人はどこからともなく現れたモンスターの処理に追われていた。
いくら倒しても次々と沸いて来るモンスターに、シャルルはともかくアムは焦りの色を隠し切れない。いつまでも雑魚の相手をしていて、『本来の目的』に達する前に疲弊してしまっては元も子もないからだ。
「ちょ――シャルル、これじゃキリがないぞ! いっそエレベーターが戻って来るまで一旦ここから離れてた方がいいんじゃないのか!?」
「うーん、そうした方が本来賢明なんだけどもね。持ち場を離れたと知ったらリアンはいいとして、ルルナがね……」
「う……たしかにアイツ今回は妙に張り切ってたからな。あんまり『怒らせたくない』気持ちはなんとなく分かる」
日々常々ルルナを見てるシャルルだからこそ、彼女を怒らせた時の面倒さは誰よりも彼が分かっている。そして、彼の本気で困っている表情を見たアムも、迂闊にここから離れる事の危険度を一瞬で理解した。
ちなみに、これらの会話は全て『戦闘の最中』で行っており一度口を発してから今まで攻撃の手を緩める事はなかった。
戦いを重なれば重ねる程にその喧騒を嗅ぎ付けてか、次々と四方から沸いて来るモンスター。
気付けば何十匹もの大群に囲まれてしまい、最初に4人が進入してきた出入口もほぼ魔物の影で埋め尽くされていた。これでは最初に考えていた一旦離脱もままならない状況で、残った唯一の手段は大人しくエレベーターの到着を待つ事だけだった。
「ああーもう! まだエレベーターは降りてこないのかあ!? こんな時に限ってどうせすぐ降りてこないんだろうし、もうこれ以上はきつ」
「来たようだね」
「あ、そ、そか……」
物事は都合よく働かない場合もあれば、時には都合よく働く場合もある。結局二人も何事もなくエレベーターに乗り合わせて、先行したルルナとリアンの後を追うのだった。
* * *
――――時間は少しだけ戻る。
少年の一人が思い切って飛び出したと同時に、やはりエレベーター前を徘徊していたモンスターはすぐに『新鮮な獲物の臭い』を嗅ぎ付ける。
そして僅かに遅れて同じく別方向に飛び出す二人の少年少女。一目散にスイッチ目掛けて突進すると、なんとか押す事には成功した。
が、勝負はここから。下層から到着するまでの間に持ち堪えなくてはならず、当然ながら3人にはまともに戦える力はない。唯一リーダーの少年がごまかし程度に魔法を使えるくらいで、生まれてこの方まだモンスターには魔法を撃った事などないのだ。
「こ……のお! 近寄んなあー!!!」
手の平に集めた火の魔力を精一杯掻き集めて、目の前のモンスターに無鉄砲に放つ。
小さなドラゴン目掛けて放った魔法は見事に命中し、それなりに大きな爆炎を上げる。
思ったよりも強い威力に少年は確かな手応えを感じたのか、逃げるどころかむしろこのまま退治してやろうとする気概すら滲んで見える。後ろで見守っていた二人にも希望の笑みが零れ、これならばなんとかなるのでは――と思わずにはいられなかった。
――――しかし、現実はそう甘くはない。
「え……?」
先に結果だけ言えば少年は避けられたのは、ほぼ『偶然』だった。
煙がある一点だけ晴れた所で、その奥で鈍く光る眼光と、不意に目が合ったのだ。
このまま黙っててはいけないと、少年の『本能』が察した。
そして刹那の内に煙の奥から吐き出される炎のブレス。
「――うわあ!?」
紙一重のタイミングで避けられた少年だが、マナの加護を碌に纏っていない少年の肉体では、少しでも触れていたら火傷どころか下手すれば骨ごと肉が削げ落ちていたかも知れない。
「う……嘘だろ?」
さっき少年が撃った魔法とはまるで比べ物にならない熱量とマナの力を秘めたブレス。姿形こそまだ小さいなれど、立派な竜の一族である事に違いはなかった。
そして、そのあまりの威力と迫力を前にして地べたにへたり込んでしまった少年に、もう一度腰を上げる気力は残されていなかった。
――勝てっこない。――逆らった所で死ぬのが早まるだけ。――もはや逃げる事すら許してくれない。
弱肉強食。強きは弱きに飲まれる。自然の摂理を今身を以って知ったこの少年に抗う事は許されず、蛇に睨まれた『蛙』になるしかなかったのだ。
エレベーターの到着を報せる音はまだ鳴らない。エレベーターの位置を示す扉上部のランプは最上層にかなり近くなって来たが、後数刻ばかり足りない。即ち、この幼竜が『少年を焼き殺す』には十分過ぎるくらいの猶予。気付けば他のモンスターも少年を取り囲み、『食事』の用意は最終段階に入ろうとしている。
「た、た……」
少年はただ一言『助けてくれ』と言いたかった。でもそう強く思えば思う程歯がガタガタと震えて、助けを求める声さえも発せられない。やはり一人のただの少年がモンスターに挑むなど無謀過ぎた。――だが、後悔は先に立たない。その代償は自らの命を以って支払うしかなかったのだ。
そして遂に、3匹の魔物が、少年の胸元目掛け飛び掛かり、その瑞々しい血肉を貪る。
――
――――事は、『無かった』。
『とおりゃああああああああっっっ!!!!』
目を閉じていた少年には、何が起きたのか分からなかった。
「え……あれ……?」
ただ一つ分かるのは、自分はまだ『生きている』という事。
少年はうっすらと目を開ける。するとそこにあったのは、彼にとっては知る筈もない、夕陽に照らされた桃色の髪が目立つ『誰かの姿』だった。
周りにいたモンスターは全て真っ二つにされていて、生命としての活動を完全に終えていた。
「ふーよかったあー。ギリセーフ、だね!」
「る、ルルナー。いくら慌てたってエレベーターは勝手に速くならないんだから……。そんな勢いよく扉から飛び出さなくたって……」
遅れて更に現れたのは、白髪の少女リアン。
「――お待たせ! 美少女ルルが君達を助けに来たよ!」
「び……びしょ……」
恐らくリアンは人生において今までも、この先も絶対に口にする事はない言葉を、目の前の少女はいとも簡単に言ってのける。やはりこの『少女』には、全てにおいて敵う事はないのだろうとリアンが全てを割り切った瞬間でもあった。
「あ……あ……あ……」
そしてルルナが助けた少年も、事態をようやく理解する。
「ん? 『あ』?」
「ありがとおおおーお姉さあああんッ!! オレもうダメかと……ッ!」
「もー全く。次からは勝手にこんな所まで来ない事! これルルとの約束! いーい!?」
ルルナの身体にしがみつき、喚きながらも彼女が発した言葉の一つ一つを深く噛み締め、二度頷く。
「る、ルルナ……! あれを……!」
そんな温かい空気とは別に、強張った声でリアンはある一つの場所を指差す。
すると、リアンの指す方向にいたのは――
「おおっと……遂に出たねー? 今日の『ほんめー』が。しかも二体!」
自らの胴体よりも大きな翼を持ち、その身に電を纏わせるワイバーンタイプのドラゴン、『雷竜』の姿だった。
アンテナの先端部分に器用に太く鋭いかぎ爪を掛け、虚空に向かって甲高い雄叫びを上げる。
そして二対に広げた翼をはためかせると、一気に飛翔し、それは迷いなく突っ込んで来たのだった。
「あちゃー。なんか怒ってるっぽい? もしかしてさっきのにアイツの子供が混じってたのかなあ?」
「もう、呑気な事言ってないのルルナ! 狙いは――――『私達』みたい!」




