緊急依頼が舞い込んで来ましたっ!
――――『緊急依頼クエスト』を受注しました。受注した魔法騎士の皆さんは至急現地へと向かってください。
「う、うそー……。受注できちゃいましたぁ……」
アルカディアの構内にある依頼掲示板の前に立つルルナは、まさか自分がこの依頼を受けられるとは思わなかった。
最初はシャルルに言われてぶつくさ文句を言いながらも向かっていたが、丁度周りに人気も無く、一人黙って大型掲示板をぼんやりと眺めていたら正にタイミングよく『真っ赤な文字』で新たな依頼が表示されたのだ。
腕に装着しているアルカディアラインでも依頼を受注する事は出来るが、この場所にある掲示板の方がアルカディアラインよりも5分程早く表示される為、直接ここに足を運ぶ生徒は珍しくも無く、むしろおいしい依頼目当てで張り付く人も稀にいる程である。
しかも今回の依頼に限っては双子達が目当てにしていた『あのモンスター』の討伐。これを浮かれずにしていつ浮かれるかと言わんばかりにルルナはダッシュで部屋へと帰り、その勢いのままドアを開けた。
「みんなーこれ見てー!!」
「な、なんだい。いつも以上にテンションが高いね」
昇格査定開始日まで残り三日。今日も今日とてダンジョンに潜らなければいけないグローリィは、時間に追われて一分一秒とて時間が惜しいと出立の準備をしていた。
「なんてこった……これは流石のアタシもびっくりだよ……」
「なんて随分とまたご都合的な展開だ……流石の僕も驚嘆せざるを得ない……」
「んもー! 折角ルルが一番乗りして依頼をゲットしたんだからよろこぼーよー!」
――
――――
事の顛末は今から約一時間ほど前に遡る。
まず双子は三軍日課のアイテム合成をしていたら、相変わらずルルナは開始早々に根を上げた。それを見ていたシャルルだが、今更言ってどうにかなる性格ではないのは彼が一番良く分かっていたから放置していた。
問題はその後だった。『ちょっとお花を摘みに行ってくるね』と言ったルルナは、いくら待てども待てども、そのまま戻ってくる事はなかった。
仕方なくため息をつきながらもシャルルは自分達の部屋に戻り、迎えてくれたのはリアンとアムだけ。そこにさっきまでいたルルナの姿もなく、こんな大事な時にどこへ行ってしまったのかと思い始めた所で、現在に至る。
「『特別緊急依頼任務』なんてものあるんだねー。しかも内容がさ、サンダードラゴンの討伐だって! これってルル大手柄じゃない!?」
鼻高々プラスドヤ顔で依頼書を掲げるルルナに、メンバーからもこれはあまりにも『出来すぎ』ではないかと疑いの眼差しが向かれシャルルですら怪訝な顔のままに依頼書を受け取り、書面の内容を確認する。リアンとアムも、シャルルの後ろから覗き込むように凝視し、全員が釘付けとなった。
◆緊急依頼書:サンダードラゴンの討伐◆
・依頼期限:全ての竜が討伐されるまで
・依頼主からの説明
シービス地方各地に点在する巨大電波塔の一つに、突如サンダードラゴンが居付いてしまった。電気を主食とする奴等は根こそぎ電力を掻っ攫って食べ続けているようで、今現在でも電波障害が発生している。
救援依頼を各地に送るも丁度タイミングも悪く、手頃な冒険者や兵士達は皆何かしらの用事で出払っていてすぐには駆け付けられず、止むを得ずアルカディア学園にも派遣依頼を回す次第になった。報酬はサンダードラゴンを倒した者から順次送る。数にしたら確認できた数だけでもおよそ3~4体にまで及ぶ。既に警備兵達も向かっているが、何しろ相手が相手で簡単には解決しそうにもない。電波塔は我等が『シービス都市』における重要施設となっているため一刻も早い対処と解決を望む。
――この文に最も早く反応したのは、リアンだった。
「シービス地方……。シービスってここから北にある沿岸の都市よね。私とレイラもこの港からアルカディア学園に来たから、なんとなく覚えているわ」
「僕は数回しか行った事はないけど、北のウィンダーリ大陸を結ぶ大事な場所だもんね。機械文化もそれなりに発達してる近代都市としても有名だし、確かにここを落とされたら何かと不味そうだね」
アルカディア学園に設置されている機械技術も、この都市から提供を受けた技術を流用している物も多く、この都市なくしてアルカディア学園は存在し得なかったとまで一部の者達からは囁かれているらしい。
そんな技術が発達している先進都市は自分達の生活水準もさることながら、外部からの干渉、襲来に関しても万全の体制を敷いている事としても有名である。つまりは『並のモンスター』に後れを取る事はない……筈だったのだが、今回は都市部ではなく中心地から離れたシービス都市郊外に点在する『電波塔』にモンスターが居付いたようだ。
「アタシも緊急任務なんて久しぶりに受けるな……。てか電波塔なんて転移陣から行けたか?」
「直接は無理だね。だから今回はシービス都市まで転移陣で行って、そこからは直接自分達の足で行くしかない」
「うぇー歩いていくのー? やだー……」
「文句あるならルルナは留守番でいいん「行きますッッッ!」」
大体自分で勝手に依頼を受けといてこの体たらくはなんだ――――と言いたげなシャルルとアムの瞳は届く事は無く、能天気に準備するルルナとただ苦笑いするしかないリアン。結局緊急だろうが普通だろうが、4人の空気はいつもと変わらないのであった。
「詳しい話は依頼主から聞かないといけないし、時間も惜しい。早く行こう」
* * *
シービス都市は北の大地『ウィンダーリ大陸』とアルカディア学園が存在する『サントルース中央大陸』を海路で結ぶ重要な街で、更に機械都市としての側面も持つ事で多くの人に知られている。
ルルナ達の住む世界テレスティアにおいて、魔法は遥か古代から受け継がれてきた神秘的な力でありながらも、個人差はあれど誰もが『先天的に持つ能力』として長らく続いて来た。
そして人間の歴史は積み重ねる程に常に進化し続け、それは魔法と言う一つの枠だけに囚われず新たな可能性を探り続けて来た。
その行きついた先が、主にマナを原動力とさせて動く『機械』という新たな文明だ。
魔法を扱える事自体は誰にでも出来ても、それを高度に扱ったり実用レベルまで用いるとなると話は全く変わって来る。
――遠くにいる誰かと話をしたい。だがそれは思念魔法を高度に扱える人でなければ無理である。
――人の手では簡単に切れない物を切りたい。だがそれは風魔法等を高度に扱える人でなければ無理がある。
他にも普通の人間では行使する事が不可能なものはいくらでもある。
そんな叶わぬ人達の願いを叶えるようにしてくれたのが機械技術だ。
機械は『目的さえ誤らなければ誰でも簡単に扱える』という魅惑の言葉を持ち、瞬く間に世界に浸透していった。
その最先端とも呼べるべき場所がここ、シービス都市なのだ。
「ほえーすごいねー。ルルは久しぶりに来たけど相変わらずいっぱいお店があったり高い建物がいっぱい。ねね、てっぺんから眺めたら気持ちよさそうだし一回上に行ってもいい?」
「いいけど置いてくよ。急いでるんだから」
「デ、デスヨネー」
雑談もそこそこにして早く行かないと、と急かすアムの言葉にルルナも今回は大人しく頷き依頼主の所へ向かう事にする。
シービス都市の依頼所は街の入口から割と近い場所に設置されて、初めて街に訪れた人でもすぐに見つけられるように配慮もされているのだ。
中に入ると受付カウンターの横には既にそわそわした雰囲気で立っている一人の男性がいて、周りの人と比べて明らかに様子も違う事から双子達も『あの人だ』とすぐに直感できた。
「おお、その制服、もしやアルカディア学園から来てくれた生徒諸君か?」
「はいそうです。電波塔がモンスターに制圧されていると聞いて」
「なら話は早い。早速現地へと向かってほしい」
「分かりました。では――」
「行ってきます」と言おうとしたシャルルの言葉は、そのまま放たれる事はなく喉の奥に封じられてしまう。
『――お願いします! 私の息子も必ずそこに居る筈なんです!』
背後からのただならぬ声に振り返ると、そこに居たのは一人の女性だった。
「なんだまた君かね。残念だが私に言ってもどうしようもないから、警察にでも捜索願を――」
「それならばとっくに出しています! でもあの子達が街の外に出向いて電波塔の方角へ向かってたのを見た人がいるって聞いたんです!」
「気持ちは分かるのだが、私に言われても……」
二人の間で話す内容と、言葉の節々を読み取れば、おおよその事情は皆理解できた。
しかし、今回自分達は子供達を救出しに来たのではない。どうしたものかと依頼主も困っている所に割り込んだのはルルナだった。
「あの、子供達は何人なんですか?」
「え……えっと。3人くらいだったと聞きましたけども……」
「じゃあルル達が探しますよ!」
やはりこうなるのかと、シャルルはため息をつきながら下を向く。
「ほ、本当ですか!?」
「おいおい君達! そりゃ子供達の無事を確かめたいのも分かるが!」
「大丈夫です! ドラゴンなんてパパッとやっつけてすぐに終わらせてあげるから!」
「そ、そうか。そこまで言いきるのならばさぞかし腕もあるのだろう。くれぐれも依頼を最優先にな」
「まっかせてください! よーし行くよー!」
自信ありげなルルナの様子を見てひとまず安心した依頼主と女性だが、すぐに二人の顔は青ざめる事となる。
「まあ、ルルは三軍だけどね!」
「僕も」
「私も……」
「アタシもだな(ぶっちゃけそんな余裕あるんか?)」
――――かくして、子供達の捜索も兼ねた新たなドラゴンの討伐が先行き不安なまま始まる。




