そこに山があるから(?)
――テルワール山道・入口(ダンジョンランク『C』)――
◆ミッションクエスト:【ウィンドドラゴンの討伐】
午前に思わぬ情報を得た双子だが、今最も重視すべきは情報収集ではなく、目の前の結果のみ。少しでも時間を無駄にしたくない今の4人はすぐに支度をして、また新しいダンジョンに足を踏み入れていた。
この道は『霊峰テルワール』へと続く最初の関門でもあり、テルワール山道、テルワール山岳地帯、テルワール地下洞窟と呼ばれる三つの難所を乗り切る事でようやく大本命である『テルワール本山』へとたどり着く事ができる。
一軍クラスの実力者でも山頂にたどり着く事は至難の業で、最深部のテルワール本山に至ってはアルカディア学園未管轄エリアとなっていて、最悪死亡したとしても学園からの蘇生措置が施されず、誰かが直接生き返してくれるまで永久に死んだままという、非常に危険極まりない場所なのである。
故に本格的な踏破を目指すにはそれなりの物資を蓄えて準備をしないと、どんな屈強な実力者でも無策では体力も魔力もすぐに尽きてしまい、アルカディア学園の中では屈指の高難度ダンジョンと言われている。
「あれーでもおっかしーなぁ? ルル達が最初この辺に遊びに来た時は学園が管理してるとかそんな話なんて聞いた事もないよーな? ここってたしか『エルフの聖地』って呼ばれてる場所だよね?」
「僕もそれがちょっと気になって個人的に調べたら、今から約十年前に『聖地巡礼』として頂上を目指した大規模なエルフの民がこのダンジョン内で死んじゃったらしくてね。それ以来エルフ側の要望でアルカディア学園の管理下に入ったらしいんだけど、実際に管理されてからはまだそこまで年月は経ってないみたいだよ。……ってリアン大丈夫かい? えらく緊張してるような気が」
「だ……大丈夫。多分……」
「もーリアそんなに心配しなくても平気だよー。別にてっぺん目指すんじゃないんだからさー。それにね、何かあってもアムっちがちゃんとみんなの壁役になってくれるから!」
「ぐ……言ってる事は合ってるが、なんだか釈然としない……。それに今回の標的は七属性の中でもアタシの一番苦手な『風属性のモンスター』だからアテにならねーぞ」
面倒事は最初にやっつけてしまおう。と最初に言いだしたのはシャルルで、その中でもアムが最も厄介視していた『風竜の雫』を今回は思い切って最初から取りに行く段取りになった。
それは逆に今回の目標物をいかに手早く入手できるかどうかで、残りの『竜の雫』の手に入れ易さが大いに変わって来るという意味でもある。
「そう言えば……僕が一人でここに来た時に助けたあの人は元気なのかな」
「ほぇ? 何それ? ルル初耳なんですけど」
「まあ大した話でもないし、話す時間もほとんどなかったしね。偶然ここに来たから思い出したってだけさ」
「ふーん」
「さあさあ、思い出語りもこれくらいにして……と」
ここに来た本来の目的を思い直し、改めて目の前のダンジョンを見据える。
「今更言うまでもないけど、僕等の今回のメインターゲットは『ウィンドドラゴン』だ。倒せたらリアンとアムの評価ポイントはうなぎ上りな事は間違いないし、『風竜の雫』も手に入れられれば一石二鳥。という事で、このエリアのモンスターデータは各自アルカディアラインでも使うなりして確かめてほしい」
「ダンジョンランクも形式上は『C』扱いにはなってるけど、ウィンドドラゴンを初めとするドラゴン系統は一回り以上強いと思った方がいい。アタシもできるならまともに相手はしたくないし……」
「理想を言うならばもっと奥地を目指して上位の『ストームドラゴン』や、最上位に位置する『テンペストドラゴン』を狙いたいけど、ここを抜けるだけでも結構大変らしいし、現戦力じゃこの近辺のモンスターを相手するので限界。よって今回は身の丈にあった戦闘をしたいと思う」
「そんなに強いの……? な、なんだか私自信が……」
まだダンジョンに足を踏み入れたばかりなのに、パーティの面々に漂うのは重い空気ばかり。
しかし、こんな時でも彼女はやはり『彼女』だった。
「だーいじょーぶ! いざとなったらルルがウィンドドラゴンなんて吹っ飛ばしてあげるから、リアはもっと気楽にしてていいんだよ!」
「いや吹き飛ばしてしまったらここに来た意味が――――、『敵』だよ! 構えて!」
談笑する間もなく、一行に襲い掛かるモンスターの群れ。ここに現れるモンスターは風属性のモンスターが多くアムは必然的に苦戦を強いられるが、時間に追われている『現状』でモンスターを選り好みしている余裕もない。
現れたモンスターのほとんどは虫型。『イビルバタフライ』や『キラーアント』などはサイズこそは通常モンスターと比較してやや小さめで耐久力も至って低めだが、その分敏捷性は高く攻撃性も高い。
「魔法が当たらない……!?」
「単発系の魔法は7割避けられると思って! 厄介なのは僕が相手にするから、無理に当てようとしなくてもサポートに回ってもいい!」
そして最もこのタイプのモンスターの特筆すべき点はこれ等のどれにも該当しない。その事に最初に気付いたのはリアンで、後ろで戦況を見張っている中、おもむろにとあるモンスターが金切り声をあげる。
「あの蟻モンスター……仲間を呼んでいるの!?」
「蟻本来の習性を活かした奴等ならではの独自戦術だね。うかうかしてると一気に不利になりそうだ」
「あーもー! こいつらすばしっこくて攻撃が当たんなーい!」
「どいてなアタシがやる!」
前進と後退を素早いスイッチで切り替えて、攻撃の手は緩めない。後衛は数が増えると厄介な『キラーハント』を中心に火属性の魔法で効率よく撃破し、アムとルルナも飛行モンスターのかく乱行動に惑わされず狙いを一点に絞る。その後の対応も的確にできた4人は、最初こそ面食らったもののすぐに一掃する事ができた。
「ごめんね……私の戦いが不慣れな所為で手こずっちゃった……」
「初見なら仕方ないよ。一見多彩に見えてやる事は大体パターン化してるから、一個ずつ特徴を掴んでいけばすぐ慣れる。ほらルルナ、先行よろしく」
「ぶーぶールルばっかり損な役回りー」
「じゃ後ろでサポート役に回るかい?」
「やだ!」
ここまで来るといっそ清々しいと、ルルナの更に先を行くアムは今日も苦笑いをしながらもパーティの活路を切り開く。
「ねえシャルル。今私達が手に入れようとしてる『風竜の雫』って入手確率がとても低いアイテムなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「それって『数字で表す』とどれくらいなの?」
「えーとね。アルカディアラインで統計記録されてる『ウィンドドラゴン』の今年の累計討伐数はおよそ11400体。それまでにドロップした『風竜の雫』じゃ11個だったかな」
「え……。そ、それってかなり……」
つまり大まかに言っておよそ『千分の一』の確率。この4人の中では至って平坦な性格をしているリアンが絶句するのも無理はなかった。
当然上位種になればもっとアイテムの入手確率は上がるが、その分モンスターの個体能力は飛躍的に上昇し、入手以前の問題となってくる。しかもその相手が『ドラゴン系統』ならば言わずもがな。
「アタシだって、会うのですら結構骨が折れるのは分かってるからな。その点で言えば火と土の雫は下位タイプの竜モンスターが落とすからアタシ一人でも手に入れられたし、狙うヤツだってそれなりにいる」
「すごい……。でも、そんなレアアイテムを私達だけで手に入れられるの?」
「まあね。ちょっと反則的なやり方になるけど、倒せさえできれば後は何とかなるよ」
疑問をまるで含まないシャルルの言い回しに、またよからぬ何かを企んでいると察するリアンだが、ここまで来て今更突っ込む気にもなれず大人しくついて行くしかなかった。
……と彼女が思っていた『そんな時』だった。
「――おろ? みんなー。あっち側から今『竜の鳴き声』が聞こえたよ」




