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僕は無双が出来ない。  作者: 朝夜
2.ギルドを作るんだってさ
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初陣ってやつ?

 ――アルカディア学園・双子の部屋――



 かちゃかちゃと、何かをはめこんだり取り外したりするような無機質音が部屋に響くのは、双子を初めとした4人がこれから始まる戦いに向けて武器や防具の最終チェックをしていたからだった。

 その間会話はおろか、誰かが一言すら発する気配もなかったが、かと言って別段緊張しているような様子や素振りもなかった。


 しかし――ただ一人を除いては、だが。



「そろそろ時間だね。みんな準備はいいかな?」



 ルルナとアムが軽快に返事をする中で、唯一反応がなかったのはやはり『彼女』だ。



「リア、やっぱり緊張してる?」


「……ごめんね。自分から言い出したのに、レイラの顔を想像するとどうしても力が無意識に入っちゃって……」


「まあ……無理もないよね。僕等は部外者だから平然としてられるけども、相手が幼馴染とあれば尚更怖いだろうね」

「どうするのリア? やっぱりやめたい?」


「……大丈夫。ちょっとだけ怖いけど……私が行かなきゃ話にならないもの!」



 他の三人は既に準備を終えて、後は椅子に座っていたリアンが立ち上がるのを待つだけだった。

 そして、縋る様に両手で持っていた杖を握りしめたままで――彼女は決意し、立ち上がった。



「――よし、みんな準備はできたみたいだし行こう。リアン、場所はどこだったっけ?」


「いつも私が相手をしてたのは、訓練用の荒野フィールドよ。だから今回もそこだと思う」


「分かった。――行こう」




 * * * 




 ――アルカディア学園・疑似荒野フィールド――




「……なんでリアン一人じゃないの?」



 顔を合わせるや否や、不快感を露わにしながらイラついた口調でしゃべるのは他でもない、金の髪を横風に受けながら話すレイラだった。

 本来ならばレイラの指示通りに一人でこの場所に訪れ、彼女達の成すがままにされる予定だったが、今回はまるでうって違った状況だった。

 

 リアン一人だけではなく双子とアムも合わせて同じ人数の4人同士で対面し、それぞれが武器を持って立っている。そしてその表情からも、真っ向から立ち向かう意志のある凛とした面持ちで『いつでも戦える』と言わんばかりだ。

 


「レイラ……聞いて。私はここに来て初めて仲間ができて、やっと気付けたの。……自分のしてきた事が、どれだけ惨めで情けなかったのかを」



 するとリアンは眉を鋭く曲げて、強い気持ちを持った顔でレイラに一歩近寄る。



「レイラ、私は――」



 しかし彼女の言葉は最後まで言い切る事なく、遮られてしまった。――他でもない、レイラが突然地面に向けて撃った『魔法』によって。



「――なめてんじゃないわよ。次変な口開いたら今度は『当てる』からね?」


「待ってお願い! 聞いてほしいの!」


「……知ってんのよ。アンタが本当は魔法を扱うのが上手な事くらいね」



 リアンが言おうとした事を先に言われてしまい、彼女としてはまさかの一言にただ絶句するしかなかった。何故、どうして、他でもないレイラがそれを――と。

 そんなリアンの反応を、レイラはただ呆れた顔で返すだけ。



「知らないとでも思ってたの? だからアンタのそんな能天気な性格に心底イライラすんのよ。……私達の地元のセルシリアにいた時からねッ!」



 杖の先端をリアンに向けて構えると、レイラは本格的な詠唱に入って魔法を撃とうとする。

 詠唱時間と彼女から漏れる魔力の余波自体は大した事はない為、威力自体はさほどでもなかったが、不意を突かれて直撃でもしてしまえばいくら初級魔法程度でも大怪我は免れない。

 そんな事を知ってか知らずか、レイラは次の瞬間には既に魔法を放っていた。

 互いの距離はほとんどなく、かなりの近距離だ。慌てて他の誰かが助けに行こうにも、到底間に合わない。

 

 そしてリアンに当たろうとしている魔法は――結果としてそうなる事はなかった。



「……ほら、やっぱり『上手』じゃないのよ」



 同じく杖を構えたリアンの防御障壁によって煌めく光と共に霧散したからだ。



「私は――もう逃げたくないの。今になってレイラにどれだけ失礼な事をしてたのかやっと分かったし、何よりこのアルカディアにいる意味がなくなってしまうもの」


「……少し見ない内に随分逞しい心に成長したものねえ? ――だけど」



 妙に自信ありげなレイラの指示で前に出たのは、彼女の取り巻き連中だった。

 女子生徒2人は剣と槍をそれぞれ持ち、残る一人の男子生徒は両手にダガーを持って交戦の意志を見せる。


「ここにいる生徒達はみんな二軍昇格を目の前にしたそれなりに実力のある生徒よ? 急造でこしらえた『頼もしい仲間達』で、リアンを無事守り切れるのかしらね?」


「リアン、これ以上の会話は無駄だ。僕等も戦闘陣形を取るよ!」



 シャルルに促されると名残惜しそうに後方のレイラを見ながら、彼女もようやく最後方に下がる。

 すると相手方の男子生徒は余程戦いたくてウズウズしていたのか、すぐに最前列にいたアムに対して斬りかかった。

 


「ははっ! そんなでかい斧持ってる割にゃ俺に押し負けてるじゃねえか。その程度の力じゃ大方低い序列なんだろうな!」


「……あたしの序列は30971位だよ。悪いか?」


「いや別に悪くねえよ。むしろ楽に『処理』できて助かるねえ!」



 男は力強く踏み込み、アムの斧諸共豪快に斬り裂くと、一見普通の体格からは想像できないパワーに身体ごと後方へと弾き飛ばされる。

 追撃に入らせまいとルルナが飛び出すが、そこから更に割り込んで来た二人の女子生徒の攻撃に阻まれ逆に押し返される羽目になってしまった。


 このままでは後方で控えるリアンの位置まであっという間に攻められるピンチになってしまうのは誰もが分かっていた。事実敵側の3人はこの優勢のまま、一気に終わらせようとしているのは明白だったからだ。



「――三人とも下がって!」



 そんな生徒達を止めたのは、他でもないレイラだった。

 シャルルに対して突撃しかけたすんでの所で叫ぶと、正にそのタイミングだった。


 

「……流石に普段リアンに対して高圧的な言い方をするだけはあるね。まさかレイラさんが僕のトラップに一番最初に気付くとは思わなかったよ」

 


 種が見破られては仕方ないと、シャルルは地面に潜めていた魔法トラップを『展開』すると、地面から突き出て来たのは漆黒に染まった一本の魔法刃だ。

 


「闇属性魔法『ブラッディエッジ』。物理的ダメージはほとんどないけど、この刃を受けたら精神を主体に身体のあらゆる部分に支障をきたす効果を持っている。……後少しだったけど、残念だね」


「魔力もろくに潜伏もさせられないのに、後ろから冷静に見てる私からしたらそんなのモロバレに決まってるでしょ? どうやらその頼りない感じからして、貴方も実力は相当低そうね」


「――ご明察。僕の序列はアムよりももっと低い32183位だよ」


「でもルルはもっと高いもん! 32180位だもん!」


「……へえ。やっぱりそうなの。リアンがやっと見つけた仲間ってのが、こんな雑魚な連中だったとはね。ふふっ、こんな簡単に処理されそうになって貴方達は悔しくないの?」



 想像してたよりも低い序列だったのか、レイラを初めとする4人は肩で笑い嘲る。その様子に憤ったのはリアンだったが、当の三人達は指でさされながらも逆上する様子は特に見受けられない。



「別にアタシの今の序列はなるべくしてなった順位だからな。笑われて当然だ」


「ルルだって弱いから仕方ないもんね。それでも頑張って戦うよ!」


(二人とも挑発スキルなんて使ってないのに自然と挑発をするとはね……。いや……こんな時にまで冷静に分析してる僕も大概……かな?)



 どこまでいっても個性的な彼等は普段通りの実力は出せなくとも、内から滲み出る内面まではやはり同じだった。

 そんな澄ました3人の態度が気に食わなかったのか、以前レイラがリアンを恫喝した時に一緒にいた2人の女子生徒は忌々し気な顔で攻撃を仕掛ける。

 


「なんか知らないけど最高にムカつく! 私達で速攻終わらせやるよ、この雑魚三軍がッ!」



 我を忘れたように攻撃をするも、流石は二軍昇格間近の生徒らと言った所なのか、最低限の冷静さは忘れずに行動する。

 


「あのチビ斧は俺が相手する。お前達は二人がかりで最初にピンク髪の生徒を狙え!」

「んな事いちいち言われなくても……分かってるっつーの!」



 女子生徒二人の目がルルナに向いた瞬間、直感的にシャルルは不味いと感じた。

 相手側の狙いは最も弱そうな敵を狙う事によって『数減らし』をする事だった。

 人数では対等に始まる故に、一人一人の戦力が何よりも重視される戦いではそのバランスの筆頭とされるのが『人数差』でもある。

 それを先に崩される事は、その傾いたシーソーの勢いはどんどん増していく事を意味する。

 救援に入りたいのはシャルルとしては山々だったが、一方でアムの方も思っているよりも苦戦していてそちらの方にもサポートしなければならない。後方で魔法を唱え続けているレイラも生徒達に頻繁に支援魔法を掛けていて、このまま長引けば長引く程双子達は不利になっていく。

 

 ――となれば、残った頼れる味方はただ一人しかいなかった。

 


(リアン。聞こえる?)


(えっ! あ、頭の中から声がー!?)


(僕だよ。説明してる暇はないから簡潔に言うよ。あの女子生徒がなるべく一つに集まったタイミングで飛び切りの魔法をルルナ諸共撃ってほしい)


(そ、そんな事して大丈夫なの?)


(ルルナならよけるから心配いらないよ)


(こらぁー! 言っとくけどルルにも聞こえてんだからねえー!?)


(なら余計都合がいいね。じゃリアン、任せたよ)



 一方的に魔法思念を切られたリアンだが、実際選択の余地がない状況であるのも確かだった。

 戦闘経験だけで言うならば、リアンのそれは双子の足元にも及ばない。――ならばと、彼女は思い切って賭けに出る事にする。

 例によって双子達の様子の異変に気付いたのはレイラだ。だが、リアンにまで狙いをつける事は今の優勢な戦況を捨て去るに等しい。

 せめて誰かが地に沈むまでは、と思いながら敢えてレイラは見逃した。

 

 だが、その選択をした事を後にレイラは『後悔する羽目』になるのは、当然まだ知る由もない。


 この時レイラの誤算は二つあった。

 


 それはリアンの魔法の威力を見誤った事。

 そしてもう一つは――。


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