仲間がまた増えたよ!
――アルカディア学園・双子の部屋――
「え、えええっと……。ここは、どこだ……? アタシは学園にいるんだよな???」
あの後、シャルルの手によってアムが連れて来られたのは双子の部屋だった。
大した説明もなく「まあまあいいから」と半ば強引に引っ張られると、今度はリビングにあったソファーに座るよう勧められる。
「色々言いたい事は分かります。ただ、話す前に最初に一つだけ約束してほしいんです。『この事は絶対に口外無用』にすると。勿論ご家族、気のおける友人等にもです」
「だいじょーぶだよシャル! ヘーキヘーキ、これくらいでばれないって!」
「ルルナは黙っててね?」
「はぃ……」
おぞましい剣幕でルルナに詰め寄るシャルルを目の当たりにしたら、アムは有無を言わさず了承するしかなかった。
「あ……ああ! よ、よく分からねーけど大丈夫だよ! 友人なんてギルド抜けた時にほとんどいなくなっちまったし、家族だって田舎にいるから!」
「そうですか……。それだけ分かればまずは安心です。あ、そのハーブティー僕のお気に入りですので是非飲んでくださいね!」
お互いにカップに入ったお茶を口にしながら、シャルルは少しづつ自分達の正体や目的をリアンと話した時と同じように淡々と話し始めていくのだった。
――――
――
* * *
「……ふむふむ。あんた達があの大勇者アルクと、希代の天才魔王マリスの子供ねえ……。で、あんた達は勉強の為にここに来てると?」
「そうなの。でもね、パパに自分達の正体がばれたら3ヶ月お家から出入り禁止って言われてるから、ルル達まともに生活できないの! ひどくない!?」
「うーむ、よく分からないけどあんた達がとんでもないバケモンなんだなってのは伝わったよ。うん」
「信じてくれるんですか?」
「信じるも何も、あんな芸当見せられたら相当な実力者なのくらい分かるさ。それに……」
アムはリビングの壁に架けられた、一つの『大きな斧』に視線が向いていた。
「その武器『竜斧ドラゴングリーヴァ』じゃないか? 滅茶苦茶レアな素材とかなり腕の立つ鍛冶屋じゃないとまともに造れないレジェンドクラスの逸品だ」
「流石に良く知ってますね。必要とする素材が『七竜の雫』だからですか?」
「まあ、な……。斧使いなら誰もが憧れるヤツだし、見る事すら叶わない人達だって珍しくないからな」
「……持ってみますか?」
「え、いいのか?」
「正直作り過ぎて、倉庫にもまだあるんです。よかったら上げてもいいですけど……」
「いやそりゃ流石にいいよ! アタシにゃまだ早すぎるシロモノだ!」
シャルルはソファーから立ち上がり、壁に架けられている『ドラゴングリーヴァ』を取り外す。
「――はい、どうぞ」
「……すげー。こんなごつい見た目なのに全然重くねえな。流石伝説だよ……」
その言葉や表情には所々に尊敬の念が満ちていたが、一通り感触を確かめるとすぐにシャルルに返してしまうのだった。
「あれ、もういいんですか?」
「言ったろ、アタシにゃ早すぎるって。もしアタシがまた一軍の舞台に立てる時が来たら、そん時にでもまた触らせてもらうかな?」
「ほしかったらいつでも上げますよ」
「気持ちはありがたいが、こういうのは自分で手に入れてこそ。だからな」
「……そうですか。とても志の強い、気高き方ですね。僕ももっと見習わなければ」
「ねーねーシャル。斧の事はひとまず置いてさーそろそろ本題入ろうよー」
ルルナに揺さぶられて、シャルルはようやく思い出した顔をする。彼女の言う通り、シャルルがここに連れ出したのは自分達の秘密を守ってもらうだけが目的ではない。むしろ別の部分にあったのだ。
「実はですね。僕達これから三日後にとある模擬戦を控えてるんですが、相手が4人なのに対してこっちは現時点で3人しかいなくて、丁度困ってた所なんですよね」
「……んー。それはつまりアタシに4人目の仲間として戦ってほしいってか?」
「そそ! いいかな?」
「……いいのはいいけど、アタシは三万台以下の序列くらいの実力しかないんだぞ。少し前まではそれなりに戦えてたけど、今じゃさっぱりだ。それでもいいのか?」
「もっちろんだよー! ただね、もう一つだけお願いがあるんだけど……。それはシャルから言った方がよくない?」
「そこでまで言っておいて僕に振るのかい!?」
「だって最初に言いだしたのルルじゃないし」
うぬぬとシャルルが唸っている間にアムの視線もシャルルへと移る。
「えっとね……僕達今回の模擬戦をきっかけにギルドを設立しようって決めたんだけども、アムがもしどのギルドにも所属してないのなら、どうかなーと……」
「アタシが? あんた達のギルドに? リーダーはあんた達なのか?」
ふるふると双子は首を振る。
シャルルでもなければルルナでもない。――となれば残るは。
「あの……私です」
おずおずと手を挙げるのはそれまで黙って後ろで見守っていたリアン。
それを知ったアムのとても意外そうな顔が、双子を包む罪悪感をより増幅させる。
「へーアンタが。綺麗な白い髪だね。あ、言い忘れた。アムってんだ、ヨロシクな!」
「あ……私こそ自己紹介が遅れてごめんなさい。リー……ダーの、リアンっていいます」
「リーダーなのか? てっきりシャルルとばかりアタシ思ってたよ」
「それには僕等の個人的事情があって……。申し訳ないとしか言いようがないんだけども……」
アムにとっては単純に思っただけらしい。すぐに「ふーん」の一言で済ませると再び視線はリアンへと向き直る。
「で、お願いってなんだ?」
「えっと……私達がギルドを設ける事になったのは偶然だし、これから具体的に何をすればいいのかも決まってないギルドなんだけども……」
リアンは続けて言わず、少しだけ間を空ける。
アムも双子も、リアンの言葉を待っていた。
「私が、自分の為に何かをしたいって思った事は初めてなの。だからこそ、自分に今必要なのは『仲間』だと思った」
そしてリアンはアムの近くにまで歩み寄ると、深く頭を下げる。
「――お願いします。急で申し訳ないのは分かってます。それでも、少しだけでも私にどうか力を貸して下さい……!」
「ちょちょちょ! アタシなんかにそこまでしなくたっていいから!」
ここまで敬意を表されたのは初めてだったのか、恥ずかしそうに目線を逸らして頬を指先でぽりぽりと掻くアムだった。
「シャルルとルルナは聞いてたかも知れないけど、アタシは少し前まで一軍ギルドに所属してたんだが、前に大怪我しちまってその後遺症が未だに治ってない。だからアタシは迷惑かける前に抜けて、それからずっと一人だし、あんた達に助けて貰うまではどのギルドにも入る気もなかった」
アムは目を閉じながらも己の本音を誰に言うでもなく、独りごとのように呟く。
双子やリアンもそれに対して口を挟む事無く黙って聞いていた。
「……けど、あんた達は見返りも求めずにアタシの『土竜の雫』を守ってくれた。その時点で、アタシは何でもするつもりだったよ。義理には義理で返すのがドワーフの掟だって爺ちゃんも言ってたしな」
「え……! それじゃあ……!」
「ああ、喜んで参加させて貰うよ」
その言葉にルルナははしゃぎながらリアンに抱き着き、リアンは何度も「ありがとう」と嬉しそうに呟く。
偶然からの出会いでここまでの関係になるとは思ってもみなかったシャルルに、縁とはつくづく不思議なものだと独りごちながらも、安堵の溜息をつく。




