今度は何を企んでるのやら
――アルカディア学園・双子の部屋――
テレスとの戦いを終えて戻ってきた双子とリアン。
戦いで得たリアンへの経験値を早速確認しようと、双子は何処からか持ち出して来たメカニックな腕輪をリアンの右腕に装着する。
「えっと、これは何?」
「僕が独自に開発した、個々の能力を確かめる機械だよ。ただ、この学園含めてそこら辺の測定機械とは違うのがこれは『個人の現時点の潜在能力までを予測して算出してくれる装置』なんだ。僕はポテンシャラーって名付けてる」
「シャルって昔からこーなの。戦いよりも何かを作ったり合成するのが好きでさー。よく飽きないよねって、いつも言ってるの。それよりだったらさ、ルルはやっぱ世界のレイドモンスターと戦ったほうがまだマシかなって思うけど、リアはどう思うー?」
「えーと。ど、どっちもすごいかなって……」
アラームのような機械音が『ピー』っと音を立てる。どうやらリアンが引いている内に測定が終了したようだった。
「ちょっと待ってね。測定結果をこの紙に模写して……っと。ふむ……やはり、かな?」
腕輪から放たれたレーザー状の光で書きだされた測定結果に、シャルは顎に指を添えて一人で唸ったり納得したり、神妙な面持ちになったり、ころころと表情を変える。
「ねーシャル、一人で納得してないでルル達にも教えてよー」
「そうだね。じゃあ――結論から言おうか」
シャルルは目線の高さに持ち上げていた紙を部屋の机に置くと、改めてリアンを見つめる。
「単刀直入に聞くよ。リアン、君は自分の実力を『隠してる』よね?」
その言葉に、リアンは瞳孔が開き、ひと際身体をびくりとさせた。
「――見てほしい。これが今回の潜在能力込みの測定結果だよ。テレスと戦った事でかなり能力値を上げる事ができた」
――ポテンシャラーによる能力判別結果――
括弧内は能力限界値である。
STR(腕力、攻撃力) G+(C)
VIT(体力、防御力) E (C+)
AGI(敏捷、俊敏性) F-(B-)
INT(魔力、知力) A (SS)
RES(抵抗、免疫力) B+(S+)
DEX(器用、制御力) Bー(A+)
LUK(第六感、直感力)C+(S-)
現平均ステータス『C+』と算出。
最終平均ステータス『S+』と予測。
『属性適応値(Cが標準値となる)』
火属性=D
水属性=B
風属性=C
地属性=E
光属性=A
闇属性=F
無属性=B
「えっ普通に強くない!? これ今からでもがんばれば一軍いけるだけの実力あるんじゃないの!?」
「ルルナは最初の頃言ってたよね。『白い髪の女性にはとてつもない魔力が宿る』って。あれは僕も実は知ってたんだけど、あの時はそんな空気じゃなかったし敢えて突っ込まなかった。……でも、今は違う」
誤魔化しや言い逃れはさせない――。そんなシャルルの探求眼が、リアンの身体を動かせずにいた。
やがてリアンは観念したのか、俯いたまま近くにあった椅子に腰かけるとおぼろげながらも静かに語り出す。
「……ここに来た当初は本当に何にもできなかったの。序列だって3万台から抜け出した事はなかったし、何より私も戦うよりも合成したりする方が好きだったから」
シャルルは少し長い話になると思ったのか、合成机に向かうと何やら飲み物を作り始めた。リアンに背は向けながらも小まめに振り返り、話はしっかりと聞く姿勢を見せる。
「今から一年半くらい前だったかな……。レイラから頼まれてた薬の材料を採取しに行こうと思ったら、今まで見た事もない強いモンスターが現れて……」
「多分、突然変異種だね。名前の通り滅多に見ないモンスターで、種類によってはそれらからしか入手できない素材もあるから、結構求める人がいたりするんだよね。――はい、ハーブティー」
仄かに昇った湯気のカップを手に取り、座ったシャルルがゆったりと啜るのをリアンが見て、彼女も続けて一口だけ飲む。
「私はもう逃げられないと思ったの。その時初めて、死という恐怖が芽生えて……死にたくないって思ったら無我夢中で魔法をモンスターに唱えてて、気付いたら倒れてた……」
「そうだったんだ……。じゃリアはそれがきっかけで魔法を本格的に扱えるようになったって事なのかな?」
「うん。最初は勿論嬉しかったんだけど、丁度その頃はレイラが逆にスランプに陥ってた時期で、私から見ても全然進歩できなくて、ずっと伸び悩んでたの。それからレイラが森の奥で必死に練習する姿を見てたら、私はその事を明かすのが怖くなって……」
「……成る程ね。元々心を通わせられる人がレイラくらいしかいない。その彼女よりも先を行ってしまったと知られてしまったら、彼女との関係すら断たれてしまうかも知れない。……だからリアンはずっと自分を押し殺して来て、レイラが一日でも早く二軍に上がれるように我が身を捨ててまで尽くして来た。……って事かな?」
こくりと、言葉は漏らさずに動きだけでその胸中を明かす。
「事情は分かったよ。……ただ、僕があくまで第三者として言わせて貰うならば、それは誰も得しないと思う。当然レイラにも失礼だし、リアンにとっても何も生まない極めて不毛な行為だ」
「ちょっとシャル! そんな言い方ないでしょー!? リアだって幼馴染だからこそ簡単には言えなかったんだしさ!」
「でもここはアルカディアだ。自分の力を示す事が、最も自分を証明する事に繋がるのなら、それに反するリアンこそ早々にこの地を去るべきじゃないのかい?」
「だから、そんな言い方しなくてもさっ!」
「――いいのルルナ! 大丈夫、私が一番ダメなのはずっと分かってる。いつか明かさないとも思ってたけど、怖かった。……でも、シャルルがきっぱり言ってくれて私はやっと気付けたの」
それまで座っていたリアンが立ち上がると、シャルルとルルナを交互に見据えながらはっきりと自らの意志を告げる。
「一週間後またレイラに会う。……だからそこで謝りたい」
「会って謝るだけなのかい?」
「……いえ、私も戦う。謝るだけじゃない、ただやられてるだけじゃない。戦って私の気持ちを伝えて……またレイラと一緒に歩みたい」
「戦うからには、当然勝つ気でいるんだよね?」
「え……? そ、そうなのかな」
「向こうの人数は?」
「多分4人だと思う」
「って事は僕等を入れても3人か……ふむ」
「……ねえシャルまた変なコト考えてるでしょ?」
「いや、大した事じゃないさ。向こうが4人なら、こっちも『同じ条件で戦う』のが礼儀ってものかな、と」
「まさかシャルル達も一緒になって『アリーナバトル形式』で戦うって事!? ダメよ! 貴方達じゃ実力差があり過ぎるわ!」
「その点は大丈夫。元々目立たずに学園で勉強する事が僕等の条件でもあるから、今の『序列通りの能力』で戦いに臨むよ」
「やっぱ戦うんじゃん。……でも、考えてみればルル達ほとんどモンスターとしか戦った事ないから、コレはコレで案外楽しみかもっ!」
「僕等の序列通りの能力だとGクラスの能力しかない。よって、戦いの鍵を握るのはリアンって事に変わりはないから安心していいよ」
――何を安心すればいいのか。むしろ不安しか募らない。とリアンは思いながらも、一つ気になった点があった。
「でも今のままじゃ私達3人よ? もう一人は何処から連れてくるの?」
「それに関しても色々『僕なりの考え』があってさ。パーティを引き連れてダンジョンに挑むにせよ、今回みたいにスレイヤーズマッチないしアリーナバトルをするにしろ、近い内『ギルドを設立する必要がある』と思ったんだ」
このアルカディアでは勿論の事、学園内外においてもギルドという存在は双子達の今後の生活を円滑に送るには必要不可欠なものだった。
ギルドを設立すればわざわざ外部から野良パーティを結成しなくても目的や意識を共有し合ったメンバー同士で冒険に出る事もできる上、スレイヤーズマッチでもギルド内で発足したチームで戦いに挑む事ができる。実際、結果を出している上位のチームは大概ギルドに所属しているからだ。
更にそれなりに規模のあるギルドには装備やアイテムの管理や作成も行う『専属クラフター』なども所属する事で、ギルド内で全てが完結するように万全の体制を敷いている。
いくら目立たずに学園生活を送るといっても、単に縮こまって個人だけで動いていても得られる物はやはり少ない。
――ならば、とシャルルが日頃考えていたのが、まさしくコレだったのだ。
どこかできっかけを掴んだならば、ギルド設立に乗り出したい。そしてそのきっかけは、シャルルにとって『今』だと判断した。
「で……だ。差しあたって、リアンにちょっとお願いがあるんだけど」
さっきの強気な態度とはうって変わって、申し訳なさそうにリアンを見つめるシャルルの瞳が、彼女を嫌な予感を更に際立たせた。
だが内容を聞きもせずに「嫌だ」とは言えない。
「僕等のギルドの『設立者兼リーダー』になってほしんだけど、いいかな?」
「……え? 私が?」
こくりとシャルルが頷く。
「どうして!?」
「ほら僕等目立てないから……ね? お願いこの通り!」
「ほえー。シャルがここまで頼むなんて珍しいね」
シャルルがリアンの前で両手を合わせて、懇願する。
間もなくして――リアンの絶叫が部屋中に響き渡るのだった。




