少女よ、ハングリー精神を抱け!
「ちょっとシャルいきなり何言ってんの!? まさかここの物置にある『アビリティシード』使ってフルドーピングでもする気なの!? そりゃまあ全種類あるし300個くらいなら今あるから全部食べさせたら、すぐにでもできるけども!? いくらなんでも急ぎ過ぎだと思うかなー!」
「お、落ち着いて……。早口で言わなくても分かるから……」
――アビリティシード。
つまりは食べただけで個々の能力を直接上げる事の出来る、所謂『ドーピングアイテム』で、当然超レアアイテムだ。力を上げるパワーシード。素早さを上げるスピードシード。魔力を上げるマジックシードなどなど。
勿論、一個や二個投与しただけでは実感はほとんど沸かない。――が、それが一種類につき数百個、しかも全種類数千個となれば話は全く別だ。それどころか、学園内でなら十二分に無双できる能力に急上昇するのは間違いない。
「誰もそんな無理矢理とは言ってないでしょ……。それは本当の最終手段だし、もっとやりたい事があるからね。」
すたすたとシャルルが部屋の入口にまで歩きだす。
本腰を入れた時の行動は、案外シャルルの方が読めなかったりする。
「じゃあちょっと掃除してくるね。3分で済ましてくるから」
からの、不意な掃除宣言。
そして呆気に取られる二人を置いて平然と出て行き、ドアを閉める。
* * *
「ただいま」
「早!」
帰って来て扉を閉めるまで、ジャスト3分。
今や『何が起こったのか分からないが』状態のリアンは、まさかと思いながらも恐る恐る尋ねる。
「まさか本当に学園内を掃除してきたの?」
「うん。学園内は大分綺麗にしたから当分言われないとは思うけど、もしまた言われたら僕がやってあげるよ」
「シャル張り切ってんね……」
「乗りかかった船だからね。こうなったら僕もとことん付き合うよ」
「ふ、二人ともそこまでしなくってもいいんだよ? 気持ちはとても嬉しいんだけども……」
「いいの! ルル達がしたいからしてるだけだし、それにアイツ等に一泡吹かせたいの! リアを殴った事、絶対後悔させてやるんだからね!」
「ルルナの場合、後者が本音だろうけどね……。でも、それはそれとして僕等にとっては本当に初めての友達だし、何より『これこそが本来の目的』だからね」
「そそ。だからリアと仲良くなれて、今とっても嬉しいの! リア、本当にありがとうね!」
それは、どこまでも純粋なルルナの笑みだった。
学園に入ってから虐げ続けられてきたリアンは、誰かと会話をして心から笑みを交わし合った事など一度も無かった。
だからこそ、彼女が忘れかけていた温かい気持ちは、いつしか凍てついていたリアンの心と体にとても良く沁み渡る。
「僕等がどうこう言っても、最後に決めるのは本人だ。リアン、昇格試験はたしか三ヶ月に一度だったよね?」
「うん。残り一ヶ月半くらいしかないって言ってた気がする」
「リアンがその実戦トレーニングとやらに付き合わされるのは?」
「えっと今から一週間後かな」
「具体的には何をするの?」
「魔法の効果確認……だけども」
「……誰の魔法を、誰が『どうやって確認』するんだい?」
「レイラの魔法を……私が直接受けるの。今回はスレイヤーズマッチ形式の試験だから、できるだけ他の人にも見せたくないからって……」
双子は絶句するしかなかった。
要するにリアンは『単なるサンドバッグ』だという話だ。二人が実際に戦う所は見てないが、これまでの話と流れで相当な実力差があるにも関わらず、わざわざリアンをその対象にする正当な理由が見当たらない。
だからこそ近い内、レイラから真正面からたっぷりと話を聞かなければならない。その胸中はシャルルもルルナも同じだった。
「ねえリア。怖い気持ちもあるのは分かるよ。けど、ここにいる以上は本来上を目指さないといけないと思うの。それはレイラだってきっと同じ。誰かの為に行動するのもいいんだけどさ、リアはもっと自分の為に行動してもいいってルルは思うんだけど、どうかな?」
「私が……自分の為に?」
「そうだよ。リアだってレイラだってルル達だって同じ人間なんだからさ、もっと素直になってやりたい事やってもいいんだよ! 大事なのはハングリー精神! ……で合ってたっけ?」
「僕に振らないでよ……。意味としては大体合ってるけどね」
ルルナがリアンを説得している間――シャルルはじっとリアンを見ていた。
別に何かを疑ってる訳ではない。今では純粋に友として気遣う心があるからこそ、シャルルは冷静にリアンに眠る『他の何か』を見ていた。
「まあまあ、ここでいつまでも話し合ったって仕方ないさ。ちょっと荒療治になるかもだけど時間もないし、この際仕方ない。ちょっと『ついて来てほしい場所』があるんだ」
シャルル一人だけで話を進めながら今いる部屋から移動を促されると、リアンと双子が次に向かったのはシャルルの私室だった。
様々な本棚には無数の本がびっしりと詰まり、反対の壁には豪華な細工が施された『武器』が立て掛けられている。
「ね……ねえシャルル。この部屋にある武器ってほとんど図鑑とかで見た事あるんだけど……みんなSSクラスの『伝説級の武器』だよね? さ、流石にレプリカだよね?」
「うーんレプリカっちゃレプリカだね。ここにあるのはあくまで本物の材質を基に合成したものばっかだからね。まさか本物を持ち出す訳にもいかないし。あ、性能は本物と全く変わらないから安心していいよ」
「そう……なんだ。あはは、やっぱりこれは夢なのかなー???」
リアンの中の常識という概念が、『非現実』という名の下に音を立てて崩れていく。
だが彼女にとっては、この程度の非現実などほんの序章に過ぎなかった事をすぐに思い知る。




