七
「郁! なんでこんなところにいるんだ!?」
武者の手で燃え盛る屋敷の中から助け出された郁は、松明を掲げて立つ久遠の顔を目にした途端、緊張が解け座り込んでしまった。
久遠は他の武者たちと同様に鎧を身に纏っている。
「旦那様こそ、なぜここにいらっしゃるんですか」
「夕刻、検非違使庁に鬼火が出たという報告と鬼らしき者が出没したという通報があったものだから、皆で手分けして周辺を見回りをしていたところだったんだ」
この屋敷の近所を通りがかった際、鬼火がぽつぽつと浮かんでいるのが見えたので、検非違使たちは屋敷に乗り込んだのだという。
郁に続いて運び出されてきた幹次は、意識を失ってはいるが、呼吸はしていた。特に目立った怪我はしていないようだ。
よかった、と郁は胸を撫で下ろす。
「それで、なんでお前がこんなところにいるんだ?」
煤で汚れた郁の顔を懐紙で拭いながら久遠は再度尋ねた。
「あの鬼斬りの太刀のせいです」
大きな溜息を吐きながら郁は手短に事情を説明した。
「あの太刀はずっと唐櫃に封印したまま、朽ち果てるまで放置しておくべきだったんじゃないでしょうか」
恨めしげに久遠を睨みつつ郁はぼやいた。
「そうだろうか。もしかしたら、鬼斬りの太刀が刺さったことで鬼の動きが封じられ、討ち果たすことができたのかもしれない」
「あれだけたくさんの矢を射かけられたら、いくら鬼でも死にますでしょう」
「いや、それが面妖なことにいくら矢を討ってもそう簡単に鬼は殺せないのだ。だからこそ、鬼斬りの太刀が必要なのだ」
「あんな錆びた刀が――」
反論しかけた郁の口を押さえると、耳元で久遠が囁く。
「太刀が錆びていることは内緒だ」
「鬼の死体の右腕に、まだ太刀は刺さったままになっていますけど。わたし、あれが家宝の太刀だって他の武者の方に申し上げてしまいましたよ」
「あれは……そうだ。鬼に刺さった途端に錆びてしまったということにしておこう」
適当に言い繕い出した久遠を、郁は苛ついた表情を浮かべながら上目遣いで見つめる。
「とにかく、お前が無事で良かったよ」
子供を宥めるように郁の頭を撫でつつ、久遠が微笑む。
「わたしはもう一生、太刀なんて触りません」
固い決意を込めて、郁は宣言した。




