19:脱幼稚園児戦闘
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天使のエルバエルを召喚した翌日。
目を覚ますと小麦の焼ける良い匂いが鼻腔をくすぐる。
久しぶりの良い匂いに目が冴え、テントを出る。
「おはようございます、幸村様」
「おはよう、エル様」
森の中でエプロン姿。
場所だけで考えたら全く合わない姿。
だがさすが美人というべきかとてつもなく似合っている。
むしろその姿こそが正解と言わしめんばかりの完成度に圧倒される。
「こちらにお座りください」
「ああ」
いつの間にか椅子とテーブルが設置されていた。
これらは俺が買ったものではない。
「こちら朝食になります」
「……えっと、これは?」
目の前に置かれたのは蜂の巣のような格子状に焼かれたものに白いものと色鮮やかな果実のようなもの。
「ワッフル生クリームのせとフルーツ盛り合わせです」
うん。
そうだと思ったよ。
なんでワッフルあるの?
それにテントにいた時に漂ってきた匂い。
あれさっきまでこのワッフルを焼いてた匂いだよね?
なんでこれを焼けるの!?
それに生クリームって野宿では普通食べれないものだよね!?
なんで食べれるの!?
おまけにフルーツ盛り合わせって場違いにもほどがある。
「コーヒーは今飲まれますか? それとも食後にしますか?」
「じゃあ、今貰おうかな」
「分かりました」
何コーヒーまで出てくるの!?
ここホテルのカフェテリアだったりするの!?
待遇良すぎるんですけど!?
「コーヒーです」
「ありがとう。エルは食べないの?」
「私はもう済ませてあります。なのでしっかりと幸村様のお世話をさせていただきます」
「……そうなんだ。じゃあいただきます」
「どうぞ召し上がれ」
ナイフでワッフルをカットしそのままで口に入れる。
ふんわりとした優しい生地に軽い食感。
生地は甘くなく、小麦本来の風味を感じ、お菓子ではなくしっかりと朝食として食べられるようになっている。
次に生クリームとともに口に運ぶと、生クリーム特有のミルクのコクと香りが口内を支配しつつも、ワッフルも小麦の存在をしっかりとアピールしてくる生クリームの絶妙な甘さ加減。
これは最高と言っても過言ではないほどの一品。
「これものすごくおいしいよ。今まで食べた中で一番だよ」
「そう言っていただけて何よりです。ついでに私もおいしく召し上がられますか?」
「……ま、まったく、エルはじょ、冗談がうまいなー」
「フフフ、そうですね。フフフ」
朝っぱらから何言ってくるんだ、この天使は!
驚きのあまりワッフルの味が吹っ飛んでしまったじゃないか!?
それに最初のはいいとして最後のフフフはなに?
目が標的を狙う獲物のような感じがしたのは気のせい?
なんか怖い。
「エルはこの後どうするつもりだ?」
「私は幸村様がなされることについていくだけです。なにせお世話係ですから」
「俺は森の中を歩き回る予定だけど、エルはついてこなくていい。いや、ついてこないでほしい」
「なぜですか!? 私は必ずお役に立てますよ!?」
「そうだろうが俺は嫌なんだ。精霊と契約するつもりだしさ」
「それならなおさら私がいた方が効率的に……」
「確かにそうかもしれないが、俺は俺に興味を持ってくれる精霊と契約を結びたいんだ。理解してくれるか?」
「……わかりました」
「理解してくれてうれしいよ。じゃあ食べ終わったことだし早速言ってくるよ」
「幸村様、お待ちください」
そう言うとエルが右人差し指俺の口元に持っていき触れてくる。
彼女の指には生クリームがついていた。
「クリームがついてましたよ」
「ああそうか。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
言葉を発しながら見ていた先は俺ではなく自身の右人差し指。
何を思ったのか、少しためらいながらもその右人差し指を口に持っていきパクリとする。
「幸せの味がします」
「ソレハヨカッタナオレハイクヨ」
急いでテントに行き、マジックバックを片手に持ち、森の奥へ駆けていく。
ある程度距離が離れたところで感情を爆発させた。
「何恥じらいながらパクリとしてるんだよ! 『幸せの味がします』ってなんだよ! 満足げな顔してるんじゃねえよ! 俺をドキドキさせて何がしたいんだよ、このやろう!」
先ほどの出来事を頭から消し去るために、無我夢中で精霊と契約し始めるのであった。
3体ほど契約できたころ、突風に飛ばされた石のように飛んできた魔物を避ける。
その魔物はゼリー状に青い体。
「スライムか。ちょうどいいな。初めて討伐した魔物だ。比較のし甲斐がある」
マジックバックからナイフを取り出す。
「まずは精霊魔法無しで相手しようか。それに攻撃をもらっても死ぬことはないだろうから、まず一発はもらってみるか」
ナイフを構え、突っ込んでくるのを待つ。
待つこと40秒ほど。
スライムが突っ込んでき、俺の腹部に体当たりする。
「うっ、痛いな。力とかが幼稚園児レベルから抜け出せたから痛みもそれに比例して無くなるのかなと思ったけど、痛いのは痛いままなんだな。今後も相手の攻撃には気を付けないとな」
再度ナイフを構え、突っ込んでくるのを待つ。
今度はすぐにスライムが突っ込んできた。
タイミングを合わせ、一突き。
正確に核を突き、一撃で仕留めることができた。
「おお! 今までは10回以上刺さないと倒せなかったのに一発で倒せたぞ! それに核には一度も攻撃出来なかったのに、それができたな! 高校生の力ってすげーな。当たり前のことが実はすごいことだったってこと……グッ! なんだ?」
いきなり腰に衝撃とともに痛みが走る。
振り返るとスライムがいた。
どうやら俺が感動している間にスライムが近づいていたらしい。
「それにしても3体同時にエンカウントか。今日までそんなことなかったのに珍しいな。まあ実力試しにはなるか。今度は精霊魔法有りでやろうか」
俺はナイフに風を纏わせる。
戦い方は先ほどと同じ突っ込んでくるの待ってからのカウンター。
にらみ合うこと30秒ほど。
2体が同時に突っ込んでくる。
「同時に来るのかよ! なら」
マジックバックからもう一本ナイフを取り出し、風を纏わせる。
「ちょっと無茶かもしれないが、2体同時に刺す!」
腹部付近に飛び込んできたところにナイフを刺しにいく。
結果としては半分成功半分失敗だった。
「右は上手くいったけど、左は空振ったはず。なのに討伐で来たってことは精霊魔法の威力だけで倒せたってことか? もう1体いるからこいつで検証しよう」
残りの1体が突っ込んでくる。
ツッコんでくる軌道からナイフを外し精霊魔法で纏った風の部分だけでの攻撃を狙う。
スライムはナイフに当たっていないのに弾き飛ばされたように軌道を急に変え、息絶えるのであった。
「こうなったってことはやっぱりさっきのも精霊魔法の風で倒せたっていうことだな。それにしても昨日までスライムを一撃で倒せる威力なんてなかったんだけどな。これもスキルのおかげか? 昨日取得した『精霊魔法Ⅰ』。スキルがあるだけでこんなにも変わるんだなと感慨深くなるがさっきそれを実感したばかりじゃないか。それに今ならああいうのも使えるってことか!?」
俺はナイフに纏っていた風を解除し、ナイフをマジックバックに収納し、両手を前に出す。
「いくぞ! ロックバレット!」
なにも現れない。
「気を取り直して次だ! ウインドスラッシュ!」
なにも起こらない。
「俺ならできる! ウォーターボール!」
なにかが現れ、なにかが起こる気配すらなかった。
「やっとありふれた魔法が使えるようになったと思ったのに、なんでまだ使えないんだよー!」
膝から崩れ落ち、へこたれる。
精霊魔法が使えるようになったのだから漫画やアニメなどでよく見るありふれた魔法が使えるんじゃないかと思い、昨日までも定期的にこのようなことをやっていたが、ナイフに纏わせることはできても魔法を撃つということはできなかった。
そして『精霊魔法Ⅰ』を手に入れたのだから念願のありふれた魔法が撃てると思ったのにこのざま。
精霊魔法に慣れていないせいなのか。
それとも熟練度の問題なのか。
そもそもスキルを上の段階へステップアップさせないと撃てない代物なのか。
全く分からない。
「いつまでもへこたれていても仕方ないか。取り合えず、今まで通り精霊魔法をナイフに纏わせることはできるが撃つことはできないこと。撃つことができない原因が分からないということが分かった。このことが分かっただけでも良しとしよう」
俺は立ち上がり、当初の目的である精霊との契約に向けて森の中を歩き続けた。
魔物とたびたび出会ったが、すべて一撃必殺で対処できたため、精霊との契約は順調に進めることができた。
「日もだいぶ傾いてきたし帰るか」
本日の成果は精霊12体との契約。
1日での最高契約数となった。
この結果には非常に満足。
だが精霊魔法については不満な感情を抱きながら帰路に就くのであった。
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