33話 審判! スポーツマンシップのかけらもねえぞ!
『前半終了ーー!!! 試合開始から45分が経過しました! これよりハーフタイムへ入ります!!』
ヘルズが倒れてから10分後。短いような、でもとんでもなく長く感じた10分が経過した。審判の笛が鳴ると、俺たちは二人してその場に倒れ込む。
「はぁっ、はぁっ、キッツイ! 吐く! マジで吐くぞこれ!?」
「はぁっ、誰だよっ、こんな作戦考えたやつ! 頭おかしいよ!!」
その節はどうもすみませんでした。正直もっと簡単かと思っていたけど、想像の10倍くらい難易度高かったです。
一応、あれから耐え続けることには成功してボールは取られずに済んだが、それでも相当体力を奪われた。本来の予定では、途中からオーガが何もできないと判断して静止する、と思っていたんだけどな。実際は10分が切れるまで襲い掛かられてずっと動く羽目になってしまった。想定の甘さが招いた結果だ。
「普通ボール取れないってわかったら動き止めるだろ……なんであんなに積極的に攻めてくるんだよ」
「多分向こうに体力切れなんてものはないんでしょ。それか俺たちの体力をこれでもかと奪おうとしてるのか。まあ、あの作戦自体どうしてもこっちが後手に回るからな。攻めるタイミングはとことん攻めるって向こうの考えは理解できる」
たしかに。あんまり考えてなかったが、守りに徹する分向こうはガツガツ攻めてくるよな。元々アグレッシブなチームなうえ、俺たちから攻撃しに行くことはないんだから。そう言うの含めてちゃんと考えとくべきだったか。ってか今さらながらもっとやりようがあったかもしれん。これは反省して次に生かそう。立ち上がり、メタクラックの手を取るとそのままベンチへ。ヘルズはどうやら俺たちの行動を見ていたようで、寝ころんだまま視線をこちらに寄せた。
「お疲れさん二人とも。中々楽しそうだったね」
「大変そうだったねの間違いだよ。今回の試合中で一番きつい10分間だった」
「ね。俺の作戦がイマイチだったわ。マジですまん。やっぱ普段から性格悪くないとこういうのうまくハマらんもんだね。次から気を付ける」
「「……まあ、それはたしかに」」
メタクラックとヘルズの視線が交差した。まるで視線の先に心当たりがあるような反応だ。違うよ。君たちのことだよ。どっちかじゃないよ。両方。
「とはいえ、何もしないよりは全然マシだったんじゃない? 体力使った分点数は抑えられたでしょ」
「まあな。こっちはゴーレム3体やられたけど、向こうは1体やられて-2点。ゴール決められるよりはこっちの方がいい。その分体力奪われたのは予想外だったが」
「そこはハーフタイムで回復させるしかない。幸い、今回は通常よりも長い60分もある。俺たちの体力はかなり回復するはずだ」
通常サッカーのハーフタイムはプロや国際試合では15分、高校や中学生の試合では10分と決まっている。それがダンジョンに限り1時間。その時間があれば、メタクラックの言う通り体力回復に努められるだろう。理想を言えば、モン○ンみたくスタミナが回復する活力剤的なものがあればいいんだが……そう言うの持ってないし、誰からドロップするのか分からない。そもそもあるのかも不明だ。回復ポーションはあくまで傷を治すものだから、飲んでも効果はない。その分この一時間という時間は重要と言える。特にーー、
「……? なに? 私の顔に何かついてる?」
「いいや、何でもない」
どっかの誰かさんのような怪我人にとっては貴重も貴重。回復具合によって、後半の起用が決まるわけだからな。
ハーフタイム。1時間という時間で俺たちは色々と話し合いを始める。と言っても、1時間もあるので作戦については一旦置いといて、それより休憩が重要だ。ヘルズはあれからベンチに寝ころびながら簡単な仮眠を取っている。俺はベンチをヘルズの対面に置き話し合いの場を作ると水分補給をして一服。メタクラックは何か考え込んだ様子でじっとコートの方を見ている。
その状態で10分、20分と時間が過ぎた。体力を回復することに重きを置いているからか、俺たちの間に大した会話はない。こんなこと普段じゃありえないことだ。みんなで映画を鑑賞した時くらいか。そのくらい、二人とも体力の消耗が激しかったと言える。しばらくしてメタクラックが頬杖を付きながら唸った。
「ねぇキュウタ。もしさ、今の間にコートに落とし穴とか作ったら後半開始と同時に消えるのかな? それとも残る?」
「また妙な作戦考えてんなお前……。でも俺は今のところ後者だと思うぜ。前半終了時に俺たちの足跡は消えてないし、そもそも試合開始前からすでに色んな足跡が残ってたからな。いや、色んなじゃなくて俺たちが作った跡か」
「どういう意味?」
「ここがダンジョン化する前の状態がいまだに残ってたってこと。一か月前に俺がどでかいオークを倒したときに作ったスライディングの跡がまだ残ってたんだよ。おそらくダンジョンに大した修復機能はないんだと思う」
「ほう」
「でも、一般的な常識を持ち込むとするなら、穴を作っても修復される可能性はある。たとえばゲームや漫画ならダンジョンには自己修復機能が付いているものばかりで、特に大きな損傷ができた場合は粘土みたいにゆっくりくっついていくシステムが存在する。したがって俺や二人が一か月前に作った足跡とかスライディングした跡はダンジョンに落ちた石ころみたいな感じで修復はしないが、大きな穴を作ってしまえばその時は修復する可能性もある」
「だから今のところは後者?」
「そう。そもそもそんな巨大な穴作る余力なんてないし、作ったところで向こうから丸見えだ。下手な小細工はバレると思うぜ」
「……それもそっか。仕掛けるなら試合中か」
「そうなるな」
実際は、メタクラックの問いに対して『分からない』というのが俺の答えだ。
たとえ修復機能がなかったとしてだから何が出来るというわけでもなく、でも何らかの状況でダンジョンが修復するならそれはそれで納得できる。例えば試合開始前から巨大な穴を掘っておくってのもできなくもないからな。その場合、修復しててもおかしくはない。じゃなきゃサッカーコート全体を穴ぼこにして向こうがサッカーをできなくするっていう手もあるし、それをダンジョンが無視するとは思えない。今回のクエストは試合で勝つこと、でもそれはあくまでサッカーをして勝つ必要がある。そのためのルールも存在する、と考えると修復機能はついて然るべきと言える。
そんなことを考えていると、不意に大きな音が聞こえてきた。まるで何かを切るような、少し高くて、それでいて力強い音だ。場所は相手選手のベンチから。音からして決闘の練習でもしてるんだろうか。いや、決闘というよりは討伐か。俺たちを倒すための訓練的なことをしているのかもしれない。気になったのでそちらを見てみる。と、そこには実況のオーガ総長と、その正面に並ぶオーガ団員の姿が見えた。一体何をしているんだろうか。そう思った瞬間、
「ゴウ!!」
「「「!!」」」
オーガ総長がオーガ団員の首を刎ねた。同時に、先ほどと同じ大きな音が鳴った。刎ねられた首は地面に転がり、こちらの足元まで飛んでくる。一方、体は出血しながら膝から崩れ落ちるように地面に倒れた。それらは生命反応を放棄し黒い霧となって消えていく。
「……何してんだあいつら。一体どういう目的でーー」
そう思ったその時、行為の裏に隠された敵の目的が明らかになる。敵のベンチ裏の壁から一体のオーガが幽霊のように出てきたのだ。それも俺たちが傷つけた個体とは違う、出来立てほやほやの新品のオーガ。傷一つないうえ、心なしか顔も自信満々だ。まるで壊れた家電を捨て買い替えたかのような、そんな覇気が感じられる。
「なるほどね。あいつらさっき俺とキュウタが傷つけたオーガが使えないと判断して切り捨ててるんだ。そうして替えの選手をリポップさせてる。そうすればやつらの傷は実質完治したようなもんだし、体力もリセットされる。しかもハーフタイム中だし仲間が殺したしで討伐した判定にならないから俺たちには一点も点数が入らない。まったく……いかれてんな。でも魔物らしい」
メタクラックのお陰で確信へ変わった。オーガ総長がオーガ団長を殺すことで個体を新しくしているのだ。俺たちのゴーレムと違って向こうのオーガには回復機能がない。だからさっきの10分間で動けなくなったオーガが数体、残りオーガはそれなりの傷がついてる。それは俺とメタクラックが後半になるにつれて戦いやすいように傷つけたのもあるし、ボールを守るための防衛反応による仕返しでもある。周りに回っていい方向に進んでくれるかと思っていたのだが、それが逆に仇となってしまったわけだ。というか、あれありか?普通に反則だろ。
「おい、審判! あれただの暴力だろ! スポーツマンシップのかけらもねえぞ! 全員出場停止にしたほうがいいんじゃないか!?」
茶化すように言ってみる。
『いーえ、あれはただのスキンシップでーすから反則ではありませーん。よくあるでしょう? 厳しい監督が選手をお叱りするのを。あれと同じでーすよ』
「違うっての」
「やめとけよ、何を言っても無駄だ。審判は魔物に寛大なんだから。あれが奴らにとっての選手交代なんだよ」
「選手交代ってよりただの強制補充のようだけど。死んだ奴は交代できないんだから」
ちょうどヘルズも目を覚ましたらしくメタクラックにツッコミを入れる。まあ、あんなデカい音聞かされたらいやでも起きるわな。目覚まし時計って言うか……攻撃されたのかと思ってマジでビビる。ヘルズは頭につけていたタオルを外すとゆっくりと座り直した。
「ヘルズ……もう起き上がっても平気なのか?」
「うん。全然問題ない。既に試合開始前と同じ状態と言っても差し支えないよ」
「そうか。そりゃよかった」
傷はもう治ったらしい。小さな傷は目に見えて消えているし、顔色もいつも通りだった。頭には包帯を巻いているから実際のところ完治しているかどうかは目視ではわからないが。ただ、声や表情の感じからして嘘ではなさそうだ。なら心配は無用か。メタクラックはスマホに目を通す。
「残りは25分……か。まあ、敵も準備に取り掛かってるようだし、そろそろ作戦を立てよう。後半は多分前半よりもかなりシビアな戦いになる」
「ああ」
「あれを見ればわかるよ」
新品のオーガ11体。多分それだけじゃないんだろうな、あの様子からして。とりあえず今の状況含め、色々と整理するところから始めた方がいいだろう。俺たちは後半に向けて色々と話し合いを始めるのだった。




