20話 非現実、否現実
「いやぁ、助かりましたわ二人とも!! サンキューな!!」
二人と合流後。俺たちは土蜘蛛を討伐し、道の途中にある駐車場で一息ついた。
二人を巻き込むのは忍びないと言えば忍びないが、そもそも一人で戦うとそこそこ時間がかかっていたであろう土蜘蛛とのタイマンを、メタクラックとヘルズがいれば余裕なんだし、なら問題ないでしょという精神で強行突破した俺はそこまで申し訳なさを感じていない。それこそ俺たちは深い絆で結ばれているから遠慮など不要なのだ。まあ、戦闘中あらぬ限りの罵倒をくらわされたのは言うまでもなく、何ならやってることが通り魔のそれだということもあって二人に一撃ずつ重いのくらって吐きかけたので、それなりに心身ともに削られてしまったわけだが……それも許容範囲だ。
「おいメタクラック、こいつの教育どうなってんだ! 常識がなってないよ常識が!」
「それ俺に言う? ヘルズだってそこそこ長い仲でしょ。そっちにも原因がある」
っとまあ、地面に横たわりながら天に向かって誰かさんを罵っている二人だがそれも許容範囲。俺も悪いことをしたという自覚はある。土蜘蛛を倒してもまだ怒りが収まらない二人を理解できる程度には。
「しかもこいつ毒持ちだったし……当たったら死んでたよ」
「ほんとそれ。家に解毒薬なんてないからね。まじでふざけんなって感じ」
「すまんすまん。一応謝意はあるから許してくれ」
水を飲みながら左手で謝罪のジェスチャーをする。俺も毒に関しては正直かなり驚いた。まさかやつの唾液が大木をも溶かすほどの溶解液だったとは……おかげで駐車場前の山に植えられた大木が溶け何本か折れてしまっている。まるで高熱の鉄球を氷に落としたかのように。
これも婆ちゃん家の庭で対面したときに面倒ですぐに逃げた弊害だな。もし少しでも戦っていればやつの生態に関してもある程度しれてたし、報連相もできていた。そこに関しては謝意もある。
「貸一つね。メタクラックくんと私の両方」
「ああ、いつか返すよ。倍にして」
土蜘蛛のドロップ品を拾い、ヘルズに渡す。今回のドロップ品は二人が手伝ってくれたのでドロップ品も三等分だ。いや、普通なら三等分だけど今回に限り押し売りしたのでその誠意もあって二等分。当然俺を含まないヘルズとメタクラックの分だ。あくまで誠意と謝罪の意味も込めて、なのでこれは借りを返したことにならない。流石にそれはメリットとデメリットがあってないからな。
「それにしても、お前らこんなところで何やってたんだ? ここら辺は魔物狩り切って大した奴いなかったろ」
それはともかく、聞きたいのは二人がどうしてここにいるのかだ。もともとヘルズは前回同様街の方に行くと言ってたし、メタクラックも俺とは正反対の方向に行くと言っていた。特にメタクラックは学校の通学路を辿ってみるとかなんとか言っていたはずだ。二人とも学校から結構離れた距離まで行くとのことだったし、俺が一番家から近い距離で狩りをする予定だった。そんな二人が俺より先に家に帰って、しかも二人一緒にこんな場所で、ってのは謎だ。メタクラックはヘルズから渡された土蜘蛛の魔石を袋に入れつつ答える。
「別に魔物狩りにここにいるわけじゃないよ。確かめたいことがあって上に上ってたんだ?」
「確かめたいこと?」
「そう。ダンジョンが近くに出来てるかもって思ったからさ。ヘルズと一緒に見てみようと思って」
「ダンジョンって何の話だ?」
聞いたことのない言葉に思わず首を傾げる。いや、ダンジョンという言葉に関しては当然聞き覚えがある。ゲームじゃ当たり前に出てくる要素だし、近頃で言うと遺跡や洞窟、なんて呼ばれ方をしていることが多い。
でもそれはゲームの話だ。今しているのは現実の話。この世界にダンジョンなんてものは存在しない。
「その反応を見るにまだ見てないみたいだね。この世界に出現したダンジョンについて」
「なっ、あるのか!? この世界にダンジョンが!!」
「ハハッ、めっちゃテンション上がるじゃん。まあ気持ちはわかるけど」
ヘルズが面白おかしく笑っているが、そんなことはどうでもいい。そりゃダンジョンなんて聞いたら驚くだろ。テンションだって上がる。だって、あのダンジョンだぞ!?少年少女たちが一度は夢に見る、探検という名のロマンを生む最高の聖地だぞ!
「俺たちは冒険中、そのダンジョンを見つけたんだ。けど、見るからに雰囲気がヤバめでさ。触ったら死んじゃいそうな空気まとってたからこれは色々と情報交換必須だってことで一旦家に帰ったんだ」
「そしたらメタクラックくんも同じで既に家でテレビ見てた。一人でホワイトボード書きながら情報整理してる途中だったんだ。そこから二人で色々と考察を重ねて考えれるだけ考えたんだけど、何分テレビの情報も曖昧でそこまで当てにならなかったし、情報が少ないという結論に至った」
「そこで、俺たちで一番近くのダンジョンはどこだろうって話になって、実際に見てみようかと」
「ちょうど地図もあったしね」
地図……はたしかに出発前に見つけてはいたが。それもただの地図じゃなく、俺とメタクラックが小学生の頃に総合の授業で作った地域活性化のために作った簡易的な地図だ。どこに信号機置いたら安全かとかそう言うのだった気がする。でもここら周辺の地理に関しちゃある程度知ってるし、誰も使わないだろうってことでお蔵入りになっていた。それを使えば周辺の地理は何となくわかる。わかるがーー、
「ごめん、マジでどういう状況かわからん」
地図に関してはどうでもよくて、問題はダンジョンについてだ。二人がダンジョンを見つけたっていうのが何とも謎過ぎる。
まずどうしてダンジョンだってわかったんだ?見た目ただの洞窟だろう。それか遺跡とか空き家とか……なんにせよそこに魔物が潜んでいたとして、これがダンジョンだ、なんてわかるはずもない。だって洞窟に魔物がいたからってそれはただの魔物が根城にして巣穴であってダンジョンとは全く意味合いが違うのだから。遺跡も空き家も同じだ。中に魔物がいてもそれはただの魔物がいる場所、でしかない。
「まあそりゃそうだよね。急にこんなこと言われても分からないか。そもそも論、この世界のダンジョンはキュウタが想像するダンジョンとは全くの別物だからね。まずはこの世界で言うダンジョンがどういうものなのかを説明するところからだ。結果から言うとこの世界のダンジョンって」
「いや、ストップストップメタクラックくん。最初から説明しても理解できないって。メタクラックくんの説明そこまでわかりやすくないし、ただでさえ話が難しいのにメモもなしに口頭で言っても二度手間だよ」
「えぇ? じゃあどうするんだよ。どうせ説明するでしょ」
「メタクラックくんは物理の授業を受けたことないの? 水平投射とか音と波とか。あれって実物ありきで説明することが多いでしょ? 実物があると本人が視覚で情報を取り入れるからイメージしやすいし、口頭で説明されるより脳に余裕が生まれる。それにより自分で推測するという選択肢が生まれるんだ。だからーー」
「ーーせめて実物見ながら説明したほうが楽って? まあ言われりゃたしかに一理あるけど。なんか偉そうでムカつくな」
メタクラックが若干不貞腐れてるが、その気持ちはすごくわかる。このなかで一番頭がいいのはヘルズだ。メタクラックもヘルズと学力は変わらないし、何なら知識量だけならメタクラックの方が上だけど、地頭及び容量の良さに関してはヘルズの方が一段上だ。そしてその五段下くらいに俺がいる。言い方云々に関しちゃ普通にヘルズが偉そう。まあ、俺の頭を考慮してのことだし、大変ありがたい配慮ではあるが。
「悪いメタクラック。俺も実際に見てから説明してくれるとありがたいな。正直色々と疑問だらけで何がどうなのかさっぱりだし」
「こいつ馬鹿なんだよ……すっごい馬鹿。だからメタクラックくん。この馬鹿にちゃんと説明してさしあげて!!」
「おい、言い過ぎだろ。馬鹿は一言に付き一回までだ。それ以上は反応するぞ」
「馬鹿の顔も一度までってやつだね!」
「……」
何とも懲りない性悪女に目を細めて睨むが、当の本人はクスクスと笑うばかり。相変わらず性格が終わっている彼女を友達にしている俺たちは最高に器が大きいと思うがどうだろうか。驚くことに、こんな奴がモデルだからね。しかも清楚で売ってる清純派品行方正キャラだからね。もし今のやり取りをネットにあげたら大炎上間違いなしだ。まったくもってヘルズに都合のいい世界になったものである。メタクラックは立ち上がり、服に着いた砂を落とした。
「イチャイチャして仲がいいのは大変喜ばしいことですけど、そう言うのは他所でやってくれるとありがたいね。気まずくてしょうがない」
「誰がイチャイチャだ。ムカムカの間違いだろ」
「ウハウハの間違いだね」
「どっちでもいいよ。それより、実物見て説明するってのは俺も賛成、説明が省ける。でも、行くなら早くだ。あんまりもたもたしてると日が暮れる」
メタクラックは空を見た。天気は昼から晴れたままだが、時間的にそろそろ暗くなる。たしかめるなら早い方がいいだろう。
「場所は近いのか?」
「すぐそこ。坂野原運動場」
「運動場? 俺が一か月前に行ったあそこか?」
「そう、お前がここ近辺の魔物を大量に集めて血まみれにした血濡れの祭り場だ。歩いて3分くらいだね」
いや、めちゃめちゃ近いな。てっきり坂野原運動場をさらに登った先にある山の洞窟だとばかり思っていたんだが。しかし、それだと尚更疑問だ。
坂野原運動場はその名の通りただの運動場。見た目は学校にある運動場と大差ないし、置いてあるもんだって大したものはない。整備品とかサッカーゴール、あとトイレくらいだ。近くにダンジョンと呼べるような場所なんて全く見当たらないはず。ヘルズが立ち上がり歩き始めるとそれにメタクラックも付いていく。とにかく、それら諸々納得させるためにも実物を見てってことだろう。元から難しい話ってのはヘルズも言っていたし、余計なことは考える必要ない。俺は雑談をしながら二人についていくのだった。




