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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆シャニア◆


 いつもの紙袋を持って建物から出て来る彰斗。

 

――でも、「いつも通り」では、もうない。

 

 ちょっとだけ、男の子の顔になっていたから。

 



 転移ポイントに現れた彰斗の姿を見て、私は思わず笑顔になる。


「いらっしゃい彰斗。あ、今日は箱が多いのね?」


「はい。いつものと、今回は新作が結構出てたので……これはリネア様用です」


「さすがね!」


 そう言いながら、私はイレーザの方を見る。

 彼女はいつも通り、静かに頷いただけだった。


 テーブルに並べられるケーキ。

 甘い匂い。

 この空間だけ切り取れば、今日も平和だ。


 ――だからこそ、話さなきゃいけない。


「じゃ、食べながらでいいよね。

 今日はね、新種の話」


 彰斗はフォークを持つ手を止めず、ただ視線だけをこちらに向けた。

 いい反応だ。動揺しない。逃げない。


「まずは、彰斗が遭遇した――ダークネスウルフ」


 私は軽く指を鳴らし、魔力投影で影の狼を浮かべる。


「召喚型。魔核を持たないウルフを呼び続ける。

 本体を倒しても、召喚体は残る。

 ――生物の概念からちょっとはみ出してる子だね」


 彰斗は、黙って頷いた。


「次。これは私が確認した子。

 グレイヴハウンド」


 骨のような輪郭を持つ獣影。


「負傷者とか、疲労が溜まった集団を嗅ぎ分ける。

 倒された魔物の残滓を吸って、どんどん強くなる」


 フォークが、ほんの一瞬止まった。

 いい。ちゃんと危険性を理解してる。


「三つ目。

 ブラッドホーンディア」


 鹿――のはずの影。

 でも、角は赤黒く染まっている。


「本来は草食。

 でも、魔素濃度が限界を超えると、攻撃性が反転する。

 魔素濃度の変化そのものを示す魔物として有名」


 彰斗は、もうケーキを食べていなかった。


「最後。

 ミラーラット」


 小さな影が、二重三重に揺れる。


「実体は一匹。

 でも、視覚と魔力感知を撹乱する。

 初心者ほど“群れに見える”」


 私は、そこで一度言葉を切った。


「……で。

 これらが、同時期に確認されてる」


 沈黙。


 彰斗は視線を落とし、しばらく考えてから、静かに言った。


「……添島さん達だけでのフィールド狩りは、もう危険ですね」


 あぁ。

 やっぱり、この子は“見ないふり”が出来ない。


「うん。正解」


 私は、思わず嬉しそうに笑ってしまった。


「だからね。

 彰斗が力を使うって決めてくれるの、ずっと待ってた」


 彼が顔を上げる。


「僕が間違ってました」


「うん。自分から気付けたから問題なし!」


 少しだけ、悪戯っぽく。


 その横で、イレーザが淡々と口を挟む。


「彰斗。服の完成は2日後です。

 戦闘用の調整込みで、それ以上は早められません」


「判りました。

 ……じゃあ、ヴェインエッジの試し斬りは3日後でも良いですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、私は確信した。


 この子はもう、戻らない。


 隠す側には。

 逃げる側には。


「ふふ……」


「シャニアさん?」


「ううん。なんでもない」


 ケーキの最後の一口を頬張りながら、私は思う。


 ――あぁ、楽しくなってきた。


 これは力に溺れた破滅じゃない。

 暴走でもない。


 選んだ力を、使う覚悟を決めただけ。


 それがどんな波紋を生むのか。

 どこまで世界が変わるのか。


 それを一番近くで見られるなんて――


 管理者冥利に尽きる、でしょ?


リネア    「ついに、シャドー系があちら側にも出現しました」

アステリオン 「予測よりも遅かったですね」

リネア    「はい。想定以上に適応者達の成長が早かった為、魔素の回収が捗りましたから」

アステリオン 「残りの調律庭園の変化はどうですか?」

リネア    「確認をしたところ、シャニアの所だけのようです」

アステリオン 「そこは想定通りですね。では再調整に向けた演算処理を始めましょう」

リネア    「よろしくお願いします」


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