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Arms Creator-アームズ・クリエイター  作者: 御子柴奈々
最終章 Arms Creator-Re:who I really am
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第107話 七条歩:追憶 1



「う……ここは……?」



 目を覚ますと、彼は真っ白な部屋にいた。身体中にはあらゆる器具が取り付けられており、微かに痛みを感じる。だが、クオリアを使ったと言うのにいつものような倦怠感は残っていなかった。むしろ、徐々にその意識はクリアになっていく。




「……歩、起きたのか」



 この時代には珍しい紙の書籍をパタンと閉じると、紗季はにっこりと微笑みながらこう言うのだった。




「おかえり、歩」


「……ただいま、紗季」



 彼女の笑顔に当てられたのか、少し恥ずかしそうにそう言い返す。



「あ……華澄は??」



 死んでもおかしくなかった。それほどまでに苛烈を極めた試合だった。いやあれはもはや、試合と呼ぶべきなのどうかも怪しい。一見すれば、唯の殺し合いにしか思えないからだ。



「無事だよ。意識は歩よりも早く回復していたよ。見舞いにも行ったけど、元気そうだった。それに、以前にあった暗さは無くなって、すごく明るくなってたね」


「……そうか。それは良かった、本当に」




 彼女はきっと解き放たれたのだろう。



 あの試合、クオリアのぶつかり合いで華澄の深層心理に触れた歩。戦闘中はそこまで気に止める余裕はなかったが、落ち着いた今ならばしっかりと思い出せる。



 幼い頃からの宿命。いや、呪いと形容した方が適切だろうか。しかし、家のために尽くすと言う想いに心から反発していたわけではない。その想いを受け入れ、自身を犠牲にするのは厭わないと思っていた一方で、彼女は自由な人を見ることで悲しさを覚えていた。



 もし、普通の家庭に生まれていたならば。もし、クリエイターでなければ。



 どんな人生を歩んでいたのだろう。人並みの幸せを享受できたのだろうか。毎日学校に行き、友達と話し、好きな人ができて、そして自分が選んだ人と結婚する。



 華澄は時にそんなことを夢想するようになっていた。でも、それは所詮偽り。そんなことを思うたびに、やるせない気持ちになり、訓練に打ち込んだ。誰にも負けはしない。この家を背負っているのは私なのだ。誰にも負けない。この世界のどんなクリエイターにも負けない。絶対に。




 そんな時に出会ったのが歩だった。



 そして、彼を見ると憎しみと嫉妬で己が支配されることに気がついた。何も背負っていない唯のクリエイター。しかも、CVAはワイヤーだ。だと言うのに、この規格外の強さはなんだ? 表層では気丈に振る舞っていても、彼女は自分の心が堕ちていく感覚を味わっていたのだ。




 しかし、あの試合で彼女は知った。自分の心には純粋に試合を楽しめる心があるのだと。切磋琢磨できるライバルと、こんなにも熱く戦えるのだと。もう、あんな想いはしなくてもいいのだと。




 歩は彼女の人生を知った。でも、その先を紡ぐのは誰でもない華澄だ。きっと、彼女なら大丈夫だろう。そう思うと自然に笑いが出てくる。




「……ははは。俺も、誰かの役に立てたのか」


「なんだい藪から棒に。あ! そんなことよりも、華澄は僕にだけ教えてくれたんだが……彼女、君の心を覗いたらしい。そして過去も全て知ってしまったと……」


「……そうか。意識の本流は相互作用インタラクティブだったのか。クオリアによる意識の結合は、戦闘中にこそ高まるのか? BDNFがそれを……」


「ちょっと、待ってくれ歩。考察したいのは分かるが、今は別件がある」


「別件?」


「班長、紫苑さん入ってください」



 紗季が後ろを軽く見て、そう言うと病室の扉が開く。そして、入ってきたのは司と紫苑だった。紫苑の方は菓子折りと果物を入れたカゴをその手に持っていた。



「はいこれ、お見舞いの品」


「よぉ、思ったよりも元気そうだな」



 二人は後方から椅子を持ってくると、そのまま紗季に並んで腰を下ろす。そして、司が代表として口を開く。




「歩、単刀直入に言うが……お前の過去について教えてくれないか?」


「過去……ですか? それはまたどうして」


「お前の能力、あれはもしかしたら詩織の残したものかもしれない」


「詩織さんが??」



 はっきり言って、歩は過去のことをあまり覚えていなかった。断片的な記憶と、詩織に世話になったのだけはよく覚えているのだが。



「……詳しくはまだ言えないが、どうしてもお前の過去について知らなきゃならない。頼む、教えてくれ」


「……まぁ、ここにいる人にならいいですよ」




 歩はどこか遠くを見るように、視線を上にあげる。



 遡るのはCVAが発動した時。あの時に、七条歩の人生は始まったのだ。

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