第104話 七条歩 VS 有栖川華澄 5
「……武器創造」
歩がそう呟くと、両手から大量のワイヤーが放出され……それが一気に武器の形をなぞっていく。そして、1秒と経たずに彼の両手には一般的なものだが、ブロードソードが握られていた。
「なッ……」
それを見た華澄は動揺してしまう。
あの技は知っている。見たことがある。いや、それは彼女だけではない。クリエイターを知るものなら誰もが知っている現象。
「あれは……!! 何と、あの《《一ノ瀬詩織》》選手と同じ技だああああああああッ!!!!! やはり、七条選手も使えたようです!!!」
ひとみがそう実況すると、再び場内にざわめきが広がっていく。
武器創造。それは、ワイヤーから新たな武器を創造する唯一無二の能力。前回の世界大会の覇者である彼女はその能力で、世界の頂点まで上り詰めた。
そして、この試合を見ているもの全てが悟る。間違いなく、七条歩は一ノ瀬詩織の再来だと。また、実力も彼女に匹敵するかもしれないと……そう思い始めていた。
「はああああああああああッ!!!!」
わずかに動揺した華澄だが、呆けている暇はない。あの能力の全貌がわからない以上、性能を発揮される前に叩き潰す。その思いから、彼女は歩の間近まで迫っていた。
(見た所、ただのCVA。LAなら破壊可能なはず)
一閃。
彼女の予想は的中し、歩の両手に握られている武器はガードした瞬間に砕け散っていく。
「もらったッ……!!!」
これで終わりだ。やはり、この状態の、クオリアに至っている自分に敵うものなど存在しないのだ。
だが、次の瞬間……華澄は右腕を切り裂かれていた。
「えッ!!??」
自身の右腕がわずかにだが切り裂かれ、顔に血液が飛び散る。生暖かい感触が顔にあると感じてやっと、彼女は自分の状況を理解した。
「……さぁ、まだまだいくよ」
歩は忠告だろうか、ボソッとそう呟くとさらに果敢に攻めていく。
(まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。まさか。彼の《《アレ》》は一ノ瀬詩織と似て非なるものなの!!??)
彼女は後退しながら、歩の怒涛の連続攻撃を防ぐ。
もちろん、ただのCVAではLAの強度に敵うはずもなく切りつける度に砕け散っていく。だが、歩は《《その砕けたと言う事象を踏み台にして》》新たなる武器を創造し続けていたのだ。
破壊される際に、武器はその性質を失いただのワイヤーに戻る。それを再構築で、再び武器創造を発動し、無限にも思える連続攻撃を実現しているのだ。
(この手数は……厄介ねッ!!!!)
華澄は苛立ちとともに、大きく矛を振るう。さらにはウォーターカッターも放つことで、歩を後方へと吹き飛ばす。
「くそッ!!!!」
そう洩らしながら、周囲の木々にワイヤーをくくりつけて勢いを殺す。そして、再び連続攻撃を仕掛けようと思った時には、すでに華澄は新たなる能力を解放していた。
「……水蒼世界」
そう呟くと、トライデントの矛先から大量の水が放出される。その勢いはとどまることを知らず、辺り一帯全てを水で飲み込んでしまう。
(世界も使えるのかッ!!)
とりあえず、今は触れるのはまずいと思い歩は木々へと渡り移るようにワイヤーを伸ばす。
「逃さないッ!!!」
もちろん、それを逃すような華澄ではない。すぐさま、ウォーターカッターを放ち彼を撃ち落そうとする。
(まずいッ!! 防げるかッ!!!?)
大量の武器を幾重にも生み出すと、目の前に重ねるように展開。並みの攻撃では突破することのできない防御。しかし、華澄の攻撃はそれをいとも簡単に貫通する。そして、わずかに軌道をそらしながらも、歩の右肩に被弾。貫通すると、そのまま後方へと水は散っていく。
「ぐううううううッ!!!!」
肩を抑えながら、後方へと吹き飛ばされていく。幾多もの木々にぶつかりながら、彼はやっとその勢いを止まることに成功する。
(くそ、距離は空いたが……これはまずいな)
水蒼世界。まさか、これが出てくるとは予想していなかった。LAを使用するだけで、脳の容量は一杯のはずだという思い込みが失策を生んだ。
大量の木々の下に流れる水は、全て彼女の意志のままに動く。つまりは、触れた時点で負けが確定する。もちろん、防ぐ手立てはないことはないが、どうしても後手に回ってしまうのは避けようがなかった。
貫通し、穴が空いた右肩からはとめどなく血が溢れ出す。歩は無理やり、それを縫合して止血する。穴の部分にはワイヤーを幾重にも重ねるようにし、その上部をきつく括ることで何とか出血を抑える。
水蒼世界に対抗するには、彼も奥の手をまた一つ出さなければならない。厄介だな、と思いつつも歩の表情はどこか晴れやかだった。
「……来い、村雨丸」
右手に柄だけを生み出すと、それを左側の腰に沿うように構える。まるで抜刀する直前の姿だ。しかし、そこに刃はなく柄しか存在しない。
歩は深呼吸すると、ゆっくりと存在しない鞘から刃を《《抜いた》》。
キィィィィインと甲高い音が周囲に響き渡る。
そして、抜刀し終わることには……その柄の先には存在しなかったはずの刃が生み出されていた。刀身からは冷気が漏れており、それがどんな能力を発揮するのか、一目瞭然だった。
「……凍結」
属性具現化である、凍結を発動。彼は下に降りながら、軽く刃を振るう。
すると、下に存在していた水は一瞬で氷と化す。
その上に着地すると、まっすぐに華澄の方を見つめる。
彼女は不敵に嗤っていた。まるで新しいおもちゃを見つけた子どものように、どこか無邪気な、だが闇も感じられるような……そんな表情だった。
試合は最終局面へと突入する。




