33、祈念
リアンカの部屋に入ると、いつも安心を与えてくれる笑顔のリアンカが執務机に座っている幻影が見える。
「姫様••••••。」
寂しさからつい呟いてしまうカイトの声を拾い、ハンナが気づいた。
「カイト様、今日は早いのですね。」
「今日は午後休みなので、午後は姫様の近くで過ごしたいと思いまして。」
リアンカが昏睡状態となって早一カ月。
ハンナもカイトも目を離した隙に、この世から居なくなっていまうのではないかとの不安から、極力リアンカの側で過ごす事が多くなった。
カイトはリアンカの寝室へ入ると、テーブルに用意してあるポットで紅茶を入れ寝台に置いた。
リアンカは昔から"カイトの紅茶を飲むと元気になる"と言っていた。
ならばこの紅茶の匂いを嗅いで目を覚まして欲しいと、願をかけていたのだ。
「今日も出来は良くないかもしれませんが、紅茶が入りましたよ姫様。」
早くその目を開けて欲しい。
早く声を聞かせて欲しい。
あの日、最大出力で魔力を出し切った直後にリアンカは疾風の最上位魔法、烈風魔法を放った。
その威力はエンペプトと呼ばれる、スタンピードにて発生する魔獣のリーダーを飲み込み一瞬で塵にしたほどだった。
だが、その代償は大きかった。
魔獣消えた後、そこに残ったのは蒼白くなったリアンカが倒れている姿。
急ぎ城へと戻り医師に診せると"魔力喪失にて昏睡状態"であると言われた。
いつ意識が戻るかも分からなければ、このまま戻らないかもしれない、と。
そこには絶望と喪失感と後悔しかなかった。
だが、一縷の望みをかけ、カイトは祈り続けた。
愛しい人をどうか助けて下さい。どうかこの手の届かないところへは連れて行かないで下さい、と。
そしてハンナもまた、リアンカの体を清潔に保ち髪の手入れや爪切りをしたりと、目覚めを願ってお世話をし続けた。
「姫様、姫様にまだ報告していない事があるんですよ?
直接姫様に報告したいので、早く目を覚まして下さい。
じゃないと、当日に間に合わなくなってしまいますよ?」
カイトやハンナ以外にも、王や王妃、弟などのリアンカの家族や、メイドなどの使用人の一人一人が真摯に祈りを捧げていた。
そしてその祈りは城を飛び越え国中へと広がった。
リアンカの人好きのする笑顔や分け隔てなく接する姿は、国民の間で心優しき王家の姫として人気があったのだ。
リアンカ危篤が国民に伝わると、教会や城の見える路上にて祈りを捧げる国民の姿が多く見られるようになった。
そしてその祈りの中で、誰もが願った。
"リアンカ姫様が一日でも早い回復を"
その祈りは黄泉の岸にいる主にも届き、その純真な祈りに感心した。
"ほぉー、人とは本当に興味深い。国中から望まれる人の子か•••。
あの子はまだ身体に入れないようだな。リミットまでもう少しか•••少し手を貸そう。"
いつものように紅茶を入れリアンカの側で過ごしていたカイトは何か違和感を感じた。
「•••••••姫様?」
「どうしたのですか?」
ハンナはカイトの声を聞き側に寄ると、リアンカをひたと見つめているカイトを怪訝そうに見た。
その時、リアンカの口が少しばかり開き深呼吸をした。
まるで魂が体に戻ったの如く、深い呼吸を繰り返したのだ。
「姫様!?私医師を呼んできます!!」
ハンナは医師を呼びに喜びや驚きを胸に抱き駆け出し、部屋を出て行った。
カイトは愛おしげにリアンカの頬を撫で
「随分と長い事寝坊していましたね。待ちくたびれてしまいましたよ?」
そう口に出すと、静かに涙を流した。
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