スパイの才能?
「えええー! コトリ、いなくなっちゃうの?」
「ウン、ちょっと実家がゴタゴタしててねえ」
ピリカにそう言うと、ピリカはとても寂しそうであった。
「そうなんだ……」
(とっても寂しい……)
この子は、本当に心優しい子である。
「ねえ、ピリカには身寄りがないって言っていたけど……」
「実はね、私にはあと1つ秘密があるのだけどね」
あの、この前もあと1つって言ってなかった?
「私は昔のことをよく覚えていないんだ。
でも、私には兄さんがいたの。
それだけはなんとなく覚えてるんだ」
「思い出したいって思う?」
「うん、私きっと、兄さんのこととても大切に思っていたんだよ。
だから、思い出したい」
「そっかあ」
「うん」
なんだか無性にこの子のことが愛おしく思えてくるのだった。
私はピリカに抱きつく。
そうすると、ピリカも私の背中に手を回してくれた。
思わず涙が溢れ出た。
「コトリ……」
そんな私を見て、ピリカもまた涙ぐんだ。
「ピリカ、元気でね」
「うん、コトリも」
そう言うと、ピリカは笑って頷いた。
ピリカが笑っていれば、きっとこの世界は上手くいくんじゃあないかなあ??
というか、ピリカに何かあったら、魔王様がただではおかないだろうから、お願いだから元気でいてください……!!
◇◇◇
そうして、初任務は無事に終了したのだった。
「鳥ちゃんお疲れ!
初任務でここまで出来るなんてすごいよ?
というか初任務で、魔王城に乗り込んだ人もいないけどねえ、ハハハ」
「…………ど、どゆことおお!?? や、やっぱりそうだよねえ??
うぅ、おかしいと思ったんだよ!!」
「ねえ、鳥ちゃん、コレで分かったかな?」
「へ……?」
「鳥ちゃんが普通じゃないって」
普通じゃない……?
ウソ……? ぜ、全然分からんのだけど……。
確かにここには、何かしらずば抜けた能力をもつ人ばかりがいる。
もしかして私に何かとんでもない才能が……?
私は考える。
そんな様子を補佐っちは面白そうに見ている。
しかし、…………分からないのである。全くもって。
私が混乱していると、補佐っちは困ったように言う。
「まだ分からないの?」
「ええ? ウン」
補佐っちはそんな私に、仕方ないなあっといって話してくれた。
「あのね、鳥ちゃんは、適応能力、協調性、社交性、コミュニケーション能力、ハンパないじゃん? それに聞き上手で褒め上手、相談されやすい。年上に可愛がられて、年下に頼られやすい」
「お、おお! 確かに」
「鳥ちゃんって、苦手な人っていないでしょ?
気まずいとか感じたことないでしょ? 人間関係で苦労したことないでしょ?
驚くことに、鳥ちゃんのことを苦手、または嫌いな人は今まで一人もなかった。
こんなことはあり得ないよ?」
「そうなん?」
「そりゃ、人と関わって生きていればねえ、誰にも嫌われたことがないというのはあり得ないでしょ」
「そ、そっか」
「それに、鳥ちゃんは酒豪、どれだけ飲んでも酔わない性質なのだよ」
「知らなかった」
てか、何で知ってるのよ? とは今更もう聞かないけどさあ。
「飲みの席では皆口が軽くなる」
「ウン」
「あと鳥ちゃんはかなり器用」
「まあ、魔道具使うようになって、器用になったかなあ」
「ウウン、元々器用だったんだよ?
今までその器用さを使う機会がなくて、発揮していなかっただけで。
まあ、手先の器用さ以外もね。勉強で得意不得意って特になかったよね?
運動が苦手とか、音痴とか、絵が下手とか、そういうのもなかったよねえ?」
「ええっと、まあ、そうだけど!
ウン、ほんと、よく知ってるねえ!」
「だから鳥ちゃんなら、魔道具を使いこなすことができるって思ってたんだよ!
頑張って練習してくれて嬉しかったよ。
案の定、今回かなり使いこなせていたし。ウンウン」
そして補佐っちは言う。
「つまり!! 鳥ちゃんにはスパイの才能があるのだよ!」
「なるほどぉ…………」
なんとも言えないのであった。
適応能力や社交性……って、まあ、確かに今まで人間関係で苦労はなかったけど。
かといって、皆に好かれるタイプとかじゃないし。
あと手先の器用さとか微妙だし、それ以外も結局器用貧乏ってことじゃん。
なんか、嬉しくないんだよなあああ……。
私は才能を期待していたんだよお!
まあ、スパイの才能があるらしいけど、確かにソレ格好いいけど!
もっと具体的にさああ!
まあ、ソレは今はおいといて、話を戻そう。
というか、まんまと話逸らされていた!?
「てか、いきなり魔王城とかやっぱりおかしいんじゃん!!?
そういうのやめてよお!!」
「ウーン…………」
そう言うと、補佐っちは何だか難しい顔をする。
「鳥ちゃんにはやってもらいたい任務があるんだよねえ。あの任務には絶対に鳥ちゃんが必要なんだ。だから早く1人前になってもらわないとね?
あの世界が滅びる前に…………」
「え、ええぇ……。な、なんだろう、寒気がするよおお」
話戻さなければよかった……?
「気のせいだよ、それより、地球では1日だけど、給料はキッチリ7日分だから安心してね?」
あぁ、働くって素晴らしいんだねええ、本当に…………。
涙が出てくるよ………………。
――――
――
その後、私は久々に帰った我が家に感動した。
「ああ、何て普通の家。危険が1つもない。私が私としていられる場所……!」
「何言ってんだコイツ? とち狂ったか?」
天才でありながら毒舌な弟にそう言われるのだった。
あああ、ピリカの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわあああ。