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メール

 大学から自宅へと帰って来た私は無意識のうちに眠っていたようだ。覚醒直後のぼんやりとした意識の中、横になっていた体を起こしてみると、眼前の丸いテーブルにはコップに注がれたお茶と共に三九八円の唐揚げ弁当が封を切られることもなく置かれていた。


 今日の十四時前、駅から自宅へと続く帰り道において、頭上高くに存在していた太陽の存在を朧げながら思い出し、現在、自宅の窓から見えている秋の夕暮れは、意図しない睡眠で失った時間の価値を私に教えているような気がした。また美しい夕暮れは刻一刻と迫り来る日没を意識させ、眼前に広がる有限の光景に私は尊さを感じた。


 円卓に置かれたお茶をグイと飲み干し意識がはっきりしてきたところで、今日の辛い出来事がを思い出してしまった。   


 本日は一限目から授業だったので、いつも通り徒歩と電車で大学へ行って授業を二限目まで受けて帰りの電車に乗ったのだが、その帰りの電車において、遠足の帰りと思われる幼稚園児の集団が甲高い声を上げながら途中の駅で乗車して、車内は一気に騒々しくなった。引率の先生たちは静かにするよう子供たちに注意していたが、突然発生した車内の喧騒は中々収まる気配がなかった。


 子供たちが楽しそうに騒いでいる光景は微笑ましいものと思えなくもない。しかし、彼らが生み出した喧騒は私の脆弱な想像世界を打ち壊し現実を見せつけてきたのだ。純真無垢な数十の子供たちが人間のふりをした猿を見るような顔をして、周りと調和出来ていないだろう私に視線を向けているという現実を。


 針のむしろに座るような状況を十数分間耐え忍んで自宅の最寄り駅へ着いた時、頭には鈍痛を抱え全身には極度の疲労を感じていた。家に到着して服を着替えたりした後も一向にそれらは治まらず、少し体を休めようと横になってスマホを操作していたはずなのに、いつのまにか眠りに落ちていたようだ。


 床に転がっているスマホを手に取って受信ボックスを開いてみると、城野さんから二通の新着メールが届いていた。三日前に城野さんの存在を知ってから、日が経つにつれて彼女に対する好意や興味は強くなり、それに比例して送られてくるメールがもたらす幸福も増大していった。一通目のメールは<祝! 初出演>というタイトルで、


『ついにスマイルが、あの有名な音楽番組に出演することが出来たよ。これも応援して下さる皆さんのおかげです。また呼んでもらえるように、これまで以上に私も頑張るから、もっとたくさん応援してね!』


 と書かれていた。二通目は<さらちゃん!>というタイトルで、


『楽曲を披露した直後、ミスをして落ち込んでいた私に、さらちゃんが優しい言葉をかけてくれたんだ! うれしかったなあ。言葉の内容は秘密だよ笑』


 と書かれており、添付されている写真には、はにかんだ笑顔の城野さんとアイドルスマイルの柊木さんが映っていた。


 ファンに対する感謝や意思表示、仲の良いメンバーとのエピソードや写真、おはようメールのような日常の些事を書いたもの。このようなメールが送られてくるだけで、城野さんに関する情報を入手出来るだけで、今日のように辛い出来事があったとしても、また明日の人生を頑張ろうと思わせてくれる。軽い気持ちで始めた有料メールサービスだが、私にとって欠かすことの出来ない存在になりつつあった。


 彼女が定期的に更新しているSNSやブログを見ることでも幸福は感じるが、これらのサービスは無料である。有料メールサービスのように金銭を払ってサービスを得るという行為は、月額1000円を払うことによる損失はあるけれども数段上の幸せを与えてくれているような気がする。


 昼飯にと考えていた唐揚げ弁当は晩飯へ回そうと決め、歯を磨きに洗面所へと向かう。そのあと用を足して元の場所に戻り、また新しいメールが来ているのではないかと期待して受信ボックスを開くが、先程と変わりなく少しがっかりした。


 その時に、先ほど送られてきた<祝! 初出演>というタイトルを再度見て、なぜ音楽番組のあった月曜ではなく三日後の今日に送られてきたのか疑問に思った。


 その疑問を解消するべく、城野さんや「スマイル」に関する情報をスマホで調べることにした。色々なサイトを漁っていると読者数が多く情報量も豊富なサイトを発見したので、そこを中心に探していく。


 求めている情報を探している間、ふと窓を見ると、夕暮はもはや風前の灯であり、ほんの数分で太陽が完全に沈んでしまうことを予期させる風景であった。


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