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第二十三話 工房都市の真価

 同盟軍を乗せグラスゴーへと向かっていたドレーク艦隊は、途中襲撃してきた敵艦隊と砲火を交えこれを撃滅していた。大きな被害もなく勝利できたのは、フランシスカの手腕があってこそだろう。

 だが、問題がなかったわけではない。敵船への移乗戦闘の途中、サリヴァンたちと刃を交えたフードの女である。

 水兵を惨殺されたフランシスカの命により、船内を捜査されたが、女を見つけることはかなわなかった。

 それを聞いたフランシスカに、やり場のない怒りがこみ上げたのは言うまでもないだろう。

 それが関係したわけではないが、制圧された船は自沈処理がなされた。砲撃戦によりマストが折れ、単独航行が不能であり、牽引するにも時間がかかるためであった。

 また、今回の戦闘での死亡者も、自沈する船に乗せられていた。

 死体は腐れば疫病のもとになるためである。狭い空間を大勢で過ごす船内で、疫病がはやればどうなるかは明らかである。ましてや、これから向かうのは籠城戦を展開している城塞都市であり、そこに死体を持ち込むわけにもいかなかった。

 結果、死者も船とともに海に沈めるのであった。

 グラスゴーへ向けて船を走らす船上にて、サリヴァンはフランシスカが自沈する船に向けて敬礼をしているのを見た。


「先に逝け、あたいもいつか……そこに逝く」


 こうして、予定外のことはあったものの一行は無事にグラスゴーの港に入るのであった。



 グラスゴーの港に入ると、すぐさま物資の運搬が行われる。

 同時に、サリヴァン、アテネら司令部はグラスゴー防衛の指揮官との会議に入るため、グラスゴー中央にそびえ立つ本城に案内される。

 北部最大の都市ということもあり港から本城までは遠く、移動には馬車が用意されていた。馬車に乗るのはサリヴァン、アテネの両指揮官と、それぞれの補佐を担当するジル、サミュエルとシルフィアーナの計五名である。

 道中、サリヴァンらは窓から見えるグラスゴーの町について語っていた。


「さすが、北部最大の工房都市といったところか……」


 アテネがそうつぶやくと、サリヴァンが言った。


「国内のミスリルのほぼすべてがここで加工される。王国にとっても重要な都市の一つだ」


 サリヴァンの説明に頷くシルフィアーナであったが、あることに気付く。


「騎士様……。国内のミスリルがここで加工されているなら、この都市には加工したミスリル武具、および加工するためのミスリル鉱石が保管されているのでは? つまり、ここは王国最強の装備が揃う軍事的最重要拠点なのでは?」


 シルフィアーナに緊張が走る。

 国力に劣るアルビオン王国が、これまで列強と渡り合ってきたのは言ってしまえばミスリル武具のおかげである。

 そのミスリス武具の加工場であるグラスゴーを抑えているということは、王国の軍事力の根幹を抑えているも同様ではないのかと考えていた。


「その通りだ。掘削されたミスリル鉱石はすべてここに保管されており、ミスリル武具の多くも同様だ」


 それを聞き、シルフィアーナは声を荒げて言った。


「でしたら、そのミスリル武具をもってすればモルドレッド軍を打倒するのは容易いのでは!?」

「無理だ」


 サリヴァンは一言断言すると、サミュエルが説明の言葉を続けた。


「ミスリルは掘削、加工、保管に国王の許可が必要だからね。国王の許可なく掘削はできず、加工も出来ない。また、掘削されたミスリル鉱石と武具は特殊な封印術式により保管されている。それを解除する鍵は国王により管理されており、それなしに開錠することは不可能なんだよね」

「では、ミスリル武具を使用することはできないのですね……」


 残念そうに言うシルフィアーナに、ジルがある一言を言った。


「そう、我々はな……」


 我々……すなわち同盟軍“は”使用できない。


「それは……! つまり!」

「そうだ。王位を簒奪し、王都ごと鍵を手中に収めているんだ。モルドレッドは」


 サリヴァンの言葉に、シルフィアーナが息をのむ。そして、アテネが言う。


「この地がモルドレッドの手に落ちるということは、一つの都市が敵に落ちるのとは意味が違う。この地が敵に落ちれば敵は最強の装備を手に入れる。反対に、我々がここを守り切れば、ミスリル武具とは言わずとも大量の武器、兵器を得られる。すなわち、ここでの戦いがこの騒乱の行く末を分かつ……」


 四人の口が同時に開く。


『分水嶺だ』





 グラスゴー本城に到着したサリヴァンらは、すぐさまグラスゴーの代官のもとに通された。

 五人が通されたのは、どうやら代官の執務室のようであった。落ち着いた色合いの部屋には、調度品も質素であり、その部屋の主もまた凡庸な人柄であった。


「よくぞまいられた。この地を預かるゴライアス・エルウッドです」


 年は四十を半ば過ぎたゴライアスは、見た目からもわかるように凡庸な男であった。

 だが、誠実にして実直。己を正しく評価し、分をわきまえることのできる男である。そして、そんな男だからこそ、王国の要地であるグラスゴーの代官となりえたのである。


「貴殿らの活躍はこのグラスゴーにも届いている。ぜひ、お力を拝借したい」

「光栄であります、閣下。早速、状況をお聞かせ願いたい」


 差し出された手を握り返しながらアテネが答えた。


「ええ、まずはこちらへ」


 執務室中央に置かれたテーブルの上に、地図が広げられていた。グラスゴーを中心とした一帯の地図である。


「まずは……そうですね、双方の兵力から説明しましょうか。わが方の防衛部隊は、グラスゴー駐留兵千五百に加え、ドワーフ兵千人の計二千五百になります。敵軍は、約四千から五千です。グラスゴーから東に数キロの地点に陣を構えています」


 ゴライアスの説明を聞いたアテネが言う。


「我々が率いてきた兵は千五百です。こちらの兵と合わせれば十分に敵に対抗できるかと」


 だが、ゴライアスは渋い顔をする。


「実は、斥候からの情報によると敵の援軍が近づいているようなのです。それも、現在の敵とほぼ同数の敵が……」


 それを聞いたサリヴァンは少し考え、言葉を発する。


「しかし、それだけの兵力をいったいどこから捻出したのか疑問だ」


 スコットランド地方では、グラスゴー以外にも各所でにらみ合いや小競り合いが発生している。

 モルドレッド軍、同盟軍ともに軽々に兵を動かせるような状況ではなく、双方が友軍との合流が困難な有様であった。


「どうやら、帝国傭兵が主体の軍のようです」


 それを聞き、サリヴァンは納得する。


(なるほど、帝国傭兵か。やはり、帝国が出張ってくるか……)


 ここで少し、今回の戦いについて説明しよう。

 今回の貴族の反乱に端を発した騒乱は、あくまでもアルビオン王国の内で発生した出来事なのである。モルドレッドの暗躍によって発生した反乱は、紆余曲折のすえアルトリア派とモルドレッド派に分かれた内戦となった。

 そして、大陸の諸国はこの状況をただただ静観しているはずがなかった。

 まず、ガリア王国がモルドレッド陣営に接触を図った。“我々には支援の用意がある”と。

 しかし、モルドレッドはこれを固辞した。あくまでも、これはアルビオン王国の問題であり、他国に介入させるわけにはいかなかった。

 自国の問題を解決させるために他国を頼ったとあれば、王国の威信にかかわるからである。ゆえに、表立っての支援はされなかった。

 そう、“表立っての”である。

 次に、動いたのは神聖ヴァイマル帝国である。

 帝国は、国家としての支援、兵や物資の提供などはせず、自国の傭兵をモルドレッドに斡旋したのである。

 表立っての支援は断られる、しかし、一枚噛みたい。恩を売ることは出来ずとも、友好関係のきっかけは作っておきたい。そのためである。そして、この動きをよく思わない国がある。ガリア王国である。

帝国との小競り合いが絶えないガリアは、少しでも味方を欲していた。特に、強力な海洋戦力を誇る味方を。ゆえに、帝国傭兵に対抗しアルトリア陣営にガリア傭兵が派遣されている。


(帝国は大陸西部への進出を狙っているはず、そのためにはアルビオンが邪魔になる。この国の海洋戦力がだ。だからこそ、同盟とはいかずとも、不可侵条約くらいは結びたいはず)


「いずれにせよ、厄介であることに変わりはないな」


 ジルが、頭をくしゃくしゃと掻きながら言った。


「なんたって、敵を率いるのは騎士団長だろう?」

「ええ、騎士団団長アンドレア・バントック卿……。今、グラスゴーを包囲しているのはあの方です」


 王室親衛騎士団団長、アンドレア・バントック。

 王国最強の騎士団の団長であり、王国最高の騎士と呼ばれる男である。


「兵力差以上に厄介かもしれんな……」


 騎士団長アンドレアの武勇は王国内外に響いている。一筋縄でいく相手ではなかった。

 サリヴァンがそうつぶやくと、室内に沈黙が訪れる。


「……ひとまず、話を進めましょう。我々の兵力は四千、敵は約五千弱に増援がそれとほぼ同数。というのが現状です。そして、これに対する方策ですが……」


――――ドン!


 その時、ゴライアスの言葉を遮るように執務室の扉が豪快に開け放たれた。突然の出来事に室内に居た全員がそちらに注目する。

 その視線の先……否、皆の視線の少し下に闖入者の姿があった。

 背の丈は人間族の十歳前後の子供ほど、長い緑髪に白衣を着た少女だった。

 サリヴァンは一瞬、なぜ子供が?と考えたが、すぐにそれを否定した。

 その少女の耳が人間族と異なり、少々尖っていたためである。

 そこで、サリヴァンの好奇心に火が付く。


(ドワーフ族か。彼女も、おそらくこの街の同盟軍の首脳陣なのだろう。この街は、ミスリルの加工のために多くのドワーフが住んでいる。何もおかしなことはない。いや、それよりもあの耳は……興味深いものである)


「リラウィニカ殿……。入室の際はノックをするのが礼儀ですよ」


 ゴライアスが闖入者であるドワーフ、リラウィニカに呆れた調子でそういうと、彼女は悪びれもせず堂々とした様子で答えた。


「知らんな。吾に人の規律を解いても意味は無し、じゃ」


 そういうと、侍女を伴い皆の集まっている机にどかどかと近づいていく。その様子を見ていたジルが心の中で思った。


(ドワーフは粗野で乱暴者であるというのが共通認識だが……これはなかなか)


「ふむ……」


 リラウィニカは六人の囲んでいる机まで来ると、侍女が手に持っていた台を置きその上に乗った。


「……」


 その様子を黙ってみていた六人に、リラウィニカは言った。


「どうした? 話を続けてよいぞ」

「はぁ……」


 あっけからんと言い放ったリラウィニカに、ゴライアスはため息を吐いた。

 すると、困惑気味に言った。


「あー、紹介します。こちらは、グラスゴー工房連盟盟主の一人であり、魔導兵器開発の第一人者であるリラウィニカ殿です」

「よろしく、の」


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