第二十話 同盟の集結
エルフ族長マナウィダンの部屋に、エルフ族の有力者たちが集まっていた。
「アルトリア姫に付くことにします」
族長の言葉に集まった面々は納得した表情を見せた。
「そう言うと思っていましたよ」
ヘルメスがあきれたような顔でそう言った。
「アルトリア姫は信頼に足る方です。一緒に戦ったわたしの名に掛けて、証明します」
アテネが言った。
「すぐに他の種族に呼びかけましょう。モルドレッドの脅威を、アルトリア姫の誠実さを……」
ヘルメスがそう言うとマナウィダンは席を立ち宣言した。
「これよりエルフ族はアルトリア陣営に参加します!」
エルフ族がアルトリア陣営に付くことは瞬く間に王国全土に広まった。
モルドレッド軍の敗北と共にその知らせを聞いた他種族と反モルドレッド派の貴族たちはアルトリア陣営に参加を表明し、国内は二つの派閥に分かれることとなった。
そして、モルドレッドは自身に従わない者たちの粛清を決定、各地で戦端が開かれることとなる。
また、ドレーク艦隊の離反により王国軍の数少ない常備戦力である海軍と空軍の一部が離反しアルトリア陣営に参集した。これに対してモルドレッドは、神聖ヴァイマル帝国より国内に職を求めてやってきた帝国傭兵を採用し戦力の増強を図る。対してアルトリア陣営はガリア傭兵を採用するのであった。
アルトリア陣営本拠地、バーミンガム領都の領主の館にて。
ここにはアルトリア陣営に参加した勢力の代表者や名代が集まっていた。
「反モルドレッド同盟代表のアルトリアです。まずは、こうして皆様が集まっていただいたことに感謝します」
国内の各地域ではすでにモルドレッド軍との戦闘が行われており、集まった者たちの数は少なかった。
「まずは現状を確認しましょうか」
会議の場を仕切るのはバーミンガム領公爵、エレイン・カルヴァートである。
「現在、モルドレッド軍とは各所で戦端が開かれています。主な地域は三つに分かれます。一つはここイングランド地方」
そう言うと、席についていた初老の男性が立ちあがり言った。
「リバプール領を預かる、ドバイアス・リプセットだ。現在、この地方にはモルドレッド軍四千が集結しておる。それに対して、我々の戦力は四千弱。ほぼ互角と言っても良いだろう。海上戦力はドレーク艦隊がこちらに付いた事でこちらが圧倒的に優位だ。しかし……」
「問題は航空戦力です。こちらが保有する竜騎士隊は約四十騎ですがモルドレッド軍はその倍、約八十騎の竜騎士戦力を保有しています」
竜騎士は、竜種の魔法生物に騎乗し戦闘する騎士である。その戦力は圧倒的であり、空の王者を駆る竜騎士は戦場では欠かすことのできない戦力である。主に、翼竜を騎竜にしており、火竜などの上位種が他種族をその背に乗せるのは稀なことであり、上位の竜種を騎竜とする竜騎士は多くの竜騎士の憧れとなる。
「竜の力は地上でも、空でも脅威です。防衛線を構築し、守勢に回るのであれば十分守り切れますがロンデニオン攻略はこの戦力では難しいでしょう……」
その言葉を聞いた一人の獣人族の少女が言う。
「獣人族族長の名代、アニスだ」
獣人族の少女、アニス。
獣人族とは、人の身体に獣の耳と尻尾を持ち獣のごとき身体能力を持つ種族である。強靭な四肢と、華奢な見た目に反してすさまじい膂力を発揮する。
「三つの主戦場の一つであるアイルランド島では、モルドレッド軍の竜騎士と同盟軍の竜騎士がほぼ同数が戦っている。アイルランド島のモルドレッド軍を壊滅させれば、こちらに竜騎士を派遣することが可能だ」
アイルランド島には獣人族、ケンタウルス族が多く住んでおり、翼竜の産地としても知られている地域である。
「防衛線を構築すれば陸上戦力に余剰戦力が出る。それをアイルランド島に派遣する事は可能ですな」
ドバイアスの言葉に、一人の男性が異を唱えた。
「アイルランド方面同盟軍を代表してやって来たカルロスだ。援軍を派遣するにしても、ただ陸上戦力を派遣するだけでは竜騎士には対抗できないぜ」
カルロスと名乗ったのは三十代の騎士風の男性である。
「竜騎士は通常戦力では相手に出来ならん。いたずらに兵力を損なうだけだ」
竜騎士を倒すには同じ竜騎士か、対空兵器が必要となる。
「少し良いじゃろうか?」
発言をしたのは子供のように背が低く、豊かな髭を蓄えた老人である。
「ドワーフ族族長、ノッカーじゃ」
ドワーフ族。
スコットランド地方に自治領を持つ種族である。ドワーフ族は男性と女性でその見た目が大きく異なる。男性のドワーフの特徴は豊かな髭、筋肉隆々の肉体が特徴的である。反面、女のドワーフは見た目は華奢な少女であり、エルフ族の様な印象もある。男女共通の特徴はやはり身長である。エルフ族に長身が多い事に対してドワーフ族は人間の子供ほどの身長である。これは、成人したドワーフも同様であり、種族全体が低身長である。また、非常に豪快な性格をしており種族全体が大酒飲みとして有名である。
そして、鉱山技術、金属加工技術に長けており、もともとマスケットや魔導具などは魔法に疎いドワーフ族の発明である。アルビオン王国においてもドワーフ族はミスリルの発掘、加工を任されておりその技術力は王国一である。
「ドワーフ族には、対竜騎士兵器の用意がある」
その言葉を聞き、その場に居た面々が驚きの声を上げた。
「しかし、問題があるのじゃ。現在、スコットランド最大の工房都市グラスゴーがモルドレッド軍の攻勢にさらされておる。現状ではそれらの兵器を運び出すのは難しいのう」
ノッカーの言葉に諸将の注目が集まる。
「と、言うより。わしがこうしてここに来たのは援軍の要請のためじゃ。ドワーフ族は劣勢に立たされておる。スコットランドにはミスリル鉱床が多くあり、発掘中の鉱山、加工するための工房、完成したミスリル武器もある。グラスゴーが落ちればそれらがモルドレッド軍の手に渡ってしまう」
それを聞いたアルトリアは、今後の方針について大まかに決めた。
詳細を決めるためその後も会議は続く。
代表たちによる会議が続く一方、サリヴァンはシルフィアーナと共にバーミンガムの街に来ていた。
「うわー! すごいですね! お店も人もいっぱいです!」
シルフィアーナは瞳を輝かせながら市場を見渡していた。サリヴァンはその後ろをゆっくり歩いている。
「バーミンガムは交易拠点でもあるからな。者も人も多く集まってくる。ご当主が交易に力を注いでいるのも大きいな」
交易品を扱う店に立ち止ったシルフィアーナに説明をしていくサリヴァン。
「騎士様は物知りなのですね」
「いや、この程度は……」
周囲の人間からは若い男女が仲睦まじくしているのを見て微笑ましい表情を浮かべるが、少女がエルフ族であるのをみて少々驚いている。
「何か食べるか?」
「良いですね!」
二人は、とある屋台に向かう。
「いらっしゃい!」
その屋台はフィッシュアンドチップスと書かれていた。
「何のお店なんですか?」
「魚とジャガイモの揚げ物だ」
「ジャガイモ?」
「新大陸の食べ物だ」
品物を受け取った二人は、適当な場所を見つけると腰を下ろした。
しばらく黙り込んだまま食事をしていると、シルフィアーナが口を開いた。
「騎士様……」
「どうした?」
シルフィアーナは神妙な面持ちで会話を切り出した。
「わたし、初めて……人を殺しました……」
会話の内容は、サリヴァンの予想よりも重い話であった。
「モルドレッド軍に占領された港町にはわたしの友達もたくさんいました。だから、みんなを助けないと、って……武器を取って戦いました」
サリヴァンは、自身の初陣を思い出しながら耳を傾けた。
「みんなそうです。わたしと一緒に戦ったみんなは仲間を助けるためにって……」
「殺したとき、どう感じた?」
サリヴァンの言葉を聞き、シルフィアーナは悲痛な表情を浮かべた。
「何も……何も思わなかったんです。人を殺したのに……何も感じなかったんです……。違う種族だからでしょうか……人間族だから……何も感じなかった」
「俺の初陣もそうだ」
それを聞き、シルフィアーナはサリヴァンの顔をじっと見た。
「俺は獣人族を殺した。罪の意識を感じないどころか狩猟の様な感覚だった。他の騎士達に、戦場の空気に飲まれて何も感じなかった」
その言葉を聞き、シルフィアーナは黙り込む。
「けどな、そのあと……。帰還してから後悔した。俺はこんなに非道な人間だったのかと……。今の君と同じだ」
シルフィアーナは黙ったままだ。だが、サリヴァンの言葉を真剣に聞いている。
「戦場の空気は異様だ。殺しが正当化される空間、殺した数が多ければ英雄になれる場所だ。正常な判断が出来なくても仕方ない。今、こうして懺悔しているなら君はまともだ」
「騎士様……」
二人の間に微妙な空気が流れ、この後すぐに解散するのであった。
数日後。
元王室親衛騎士団所属のサリヴァン・カルヴァート、ジル・エンフィールド、サミュエル・レインウォーターはアルトリアに呼び出されていた。
公爵の館の一室に設けられたアルトリアの私室には、部屋の主たるアルトリアと、館の主であるエレインが待っていた。
「本日集まって貰ったのは他でもありません。我々の今後の方針がほぼ決定しました」
最初に切り出したのはエレインである。エレインはそのまま言葉をつづけた。
「最初に言っておくのは我々の同盟の正式名称が決定しました。アルビオン解放同盟軍、今後はこの名で通します」
反モルドレッド同盟という名称ではモルドレッドの王位を半ば認めている節があるためである。
「私たちはモルドレッドを否定します。簒奪者より国を解放する、それが我々の目的となります」
アルトリアがそう言うと三人の騎士に向き合った。
「王室親衛騎士団には階級は存在しませんでした。王家直轄の騎士団は軍隊に対する一方的な指揮権を有しますからね。ですが、あなた方はもう王室親衛騎士団の騎士ではない。さしあたって、同盟軍内での階級を与えたいと思います」
同盟軍は国軍や、貴族の私兵、自治領の自衛軍などが主力である。彼らには当然自身の階級が存在し、指揮系統が統一されつつある同盟軍内では当然階級によって統率される。
「同盟軍内では将校が不足しております。あなたたちの様な人材を私ごときの護衛として遊ばせておく余裕はありません。さしあたって、少佐として部隊の指揮をお願いします」
それは、異例の待遇と言える。
王室親衛騎士団は国軍とは一線を画す騎士団であるが、その一騎士が左官待遇というのは分不相応ともいえる。少佐と言えば大隊、中隊規模の兵力を指揮する立場である。
「光栄であります。しかし、自分は先日までモルドレッド軍に所属しておりました。そのような者に過分な階級は……」
サミュエルは申し訳なさそうに言った。
「先日の行動はあなたの部下から詳しく聞いております。民間人解放に尽力した功績に報いねばなりませんし、あなたの戦術眼、戦略眼は同盟軍には必要です」
そう言うとアルトリアは机の上に広げられた地図に視線を移した。すると、エレインが説明を始める。
「現在、ロンデニオンに籠る敵軍に動きはありません。敵軍には我々を一掃するだけの兵力はありません。勝算の無い戦はしないのでしょう。対して、こちらも攻城戦を展開して勝利するだけの兵力も用意もありません。しかし、ロンデニオンを落としモルドレッドを抑えない限り我々に勝利はない、つまり……」
「つまり、攻城兵器と兵力を集める。それが今後の方針ですね、ご当主」
サリヴァンが、エレインの説明に割って入った。
「そうです、サリヴァン卿。城攻めに当たり、必要となってくる攻城兵器と工作部隊、これはスコットランドで攻勢にさらされているドワーフ族を救援することで得られるでしょう。そして、城攻めには敵の空軍戦力を無力化する必要があります。その為の竜騎士を得るためにアイルランドを抑えます」
ロンデニオンの守りは堅牢であった。いたずらに攻めよせて落とせるものではない。
「まずはスコットランドをモルドレッド軍から解放します。貴官ら三人にはアテネ将軍率いる部隊と共に海路でスコットランドに向かって貰います」
スコットランド最大の工房都市グラスゴーに向かうには陸路と海路があった。陸路に向かう途中の主要な都市は同盟軍の支配下にあるが、陸路で向かうには距離が遠いのである。
「部隊の総数は千五百です、詳細はアテネ将軍と詰めてください」
その後、細かな打ち合わせの後にその日は解散となった。




