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第十六話 街道の戦い

 モルドレッド軍は夜明けと共に行動を開始した。

 接収した港と退路の確保のための兵を残し、領都アルビオン占領のため約千五百の兵が街道を進むのであった。それを率いるのは王室親衛騎士団第二騎士小隊隊長であり、その副官として副隊長のサミュエル・レインウォーターが居た。


「はぁ。なんでこんなことになったかねぇ……」


 サミュエルは嘆いていた。

 28歳にして王室親衛騎士団の一小隊の副隊長となった彼は、事なかれ主義を信条とする実直な男であった。上官の命令に逆らわず、無駄な仕事を減らすために与えられた仕事もそつなくこなし、無駄な争いに関わらぬために自身の主義を主張すること無く過ごしてきた。その結果、上官からの、本人曰く“過大評価”により若くして副隊長を務めるに至っている。

 どんな仕事もそつなくこなす彼は、十分に評価に値する能力を持つも、本人は権力争いや要らぬ嫉妬を買いたくないためにこの人事には人知れず迷惑がっていた。

 そんな彼も、騎士団内での粛清から自信と部下を守るためにやむなく騎士団の裏切りに同調するのであった。回りからの信頼も厚く、不振がられる事も無かった彼は、今回の作戦の参加を任じられる。

 しかし、そんな彼もさすがに今回の作戦には嫌気がさしていた。


「こんな、誰かの恨みを買うような事は避けたいんだけどね……」


 それは、彼の主義から来る言葉である。


「それに、自分だって騎士だ。騎士道に反するような事はしたくない……」


 これは、彼の心から来る言葉である。


「でもなぁ。逆らえば粛清だしなぁ……」

「副隊長、自分たちなら大丈夫です」

「こんな騎士道から外れる真似をするならいっそ!」


 真面目な彼を慕う部下は多く、部隊の半数ほどがモルドレッドのやり方に反感を持っていた。しかし、隊の隊長を含む残りの半数はモルドレッド派であった。


「でも、死ぬのはごめんだしな……」


 彼は決めかねていた。自信の事なかれ主義を捨て、良心に従うか。逆らわず、流れに身を任せて凶行に走るか。


「どうしたもんかね」


 領都へ向かいながら彼は思案するのであった。




 同じころ、サリヴァン・カルヴァートはエルフの将官、アテネの率いる部隊と共に街道を南下していた。エルフ軍総数二百の槍兵、弓兵主体の部隊である。


「すまない。人間族の貴公らにこのような事を……」


 アテネは申し訳なさそうな表情を見せ、そう言った。


「何をいう。姫様のおっしゃった通り、民を救うのは騎士の務めだ。モルドレッドに与した堕ちた騎士たちの蛮行、王国騎士を代表して謝罪する」

「騎士殿は、信頼に足る人物だ。騎士殿の主もまたそうだ。わたしはアテネ、貴公らの協力にエルフを代表して感謝を」


 二人は固い握手を交わす。このアテネもまた、騎士道の精神を持った実直な性格である。


「サリヴァン・カルヴァートだ。この戦、勝つぞ」

「もちろんだ」



 街道を進む中、先発していた斥候から連絡が入る。


「モルドレッド軍を発見! 総数約千五百、まっすぐ此方に向かってきます」


 サリヴァンは想定通りの敵兵の数に思わず顔をほころばせる。


「敵軍は士気も高く、騎士と従士が主体の軍です」

「これも想定通りか……。アテネ将軍、手はず通りに行こう」

「承知した。後方の殿下の部隊に連絡を! シルフィアーナ少佐の隊と連携して事に当たって貰え」


 エルフ軍の兵数は二百であり、千五百のモルドレッド軍と正面から戦うのは無謀である。


「街道の起伏の頂上に部隊を伏せて先制攻撃を仕掛る。ここが最適だ」

「了解した。隊列を組みなおせ、敵はすぐに来る。気取られるな!」


 エルフ軍は、国外の戦争に遠征することは無い。故に、エルフ軍最大の弱点は実戦不足である。しかし、常日頃の訓練の賜物か練度は高く士気も十分だ。だが、今回は兵力差からか兵士の表情には陰りがある。


「千五百か……。だが、ここで抑えなければ……」


 そう呟くサリヴァンにアテネが言う。


「キャメロットには民間人が多くいる。彼らを守りながら戦うのは得策ではない。かといって、領都の守りを空にするわけにはいかない」


 歯がゆそうな表情のアテネにサリヴァンは応える。


「事が上手く運べば勝機はある。あとは、ドレーク提督次第でさらに戦果をあげる事も……」


 希望的観測を述べつつも、彼らは戦いに備えるのであった。



 そして、開戦の時は来た。


「先頭集団、現在戦闘中! エルフ軍の奇襲です!」


 その知らせを聞いたサミュエル・レインウォーターの反応は薄かった。


「ふぅん、先手を取って来たのか。……戦略的には後手に回ったが、戦術的には先手を取って戦いを有利に進めたいというわけかな」


 サミュエルは、エルフ軍の総兵力を把握しているわけではなかったが、自軍よりも劣っているという事は把握していた。


「ここは敵地であり、敵軍は地理に明るいのは自明の理だよね。ならば、寡兵で攻めてきたってことはそれなりの勝算があるってことかな」


 そう言い、改めて現在の地形を確認する。

 モルドレッド軍の進んでいた街道は両脇を深い森に囲まれていた。街道はよく整備されているものの起伏があり、先頭集団はその最下点で攻撃を受けている。サミュエルは起伏の頂点にいるものの、エルフ軍は地形的にさらに上に構えており全容は把握できない。しかし、自軍の状況は俯瞰する事が出来た。


「敵の総数、構成は見えないか……。けど、銃声は無し、矢の数も少ない、敵は弓兵が百ってところかな。エルフは弓術に優れるから、護衛の槍兵含めて二百ってところか」


 自信の予想よりも少ない数に少々不信感を募らせるのであった。


「どうかね、副隊長?」

「はっ、敵兵の数が少なすぎます。伏兵、または別働隊の可能性を視野に入れ慎重に行動すべきかと」


 サミュエルは隊長にそう進言する。

 サミュエルは、自信が副隊長である事をあまり快く思っていない。年齢に不相応に高い地位は要らぬ軋轢を生む。それが彼の考えであった。

 そして、その考えは間違っていなかった。実際、彼の所属する部隊の隊長と折り合いが悪かった。


「ふん、臆病な。エルフの卑怯者どもが何をしようと関係ない」


 若くして副隊長に上り詰めた彼に、隊長は対抗心を燃やしていた。また、サミュエルが優秀なのも事実であり、それを自慢せず必要以上に謙遜する姿勢もまた隊長は鼻持ちならなかった。それでいて、彼の意見は的を射ておりそれがますます気に入らないという悪循環であった。

 しかし、争いごとをなるべく避ける彼であっても、自身の進言に隊長を不快させると分かっていてもそれを言わないわけにはいかないのが彼の悩みどころであった。


「しかし、指摘は事実である。後方に第二分隊を配置して備えさせよう。前衛の部隊は隊列を組み直してエルフ軍に攻撃を開始させよ」

「はっ」


 後衛は第二騎士小隊の各分隊が指揮をとっていた。また、前衛は士気の高い元反乱軍の騎士で構成されていた。しかし、サミュエルにはそれが気がかりだった。

 隊長から離れた場所で伝令に指示を伝えたのち、サミュエルはつぶやいた。


「前衛がやる気十分なのは結構だが、危ういんだよね。焦りが感じられる。まぁ、彼らの元上司があんなことになったら焦りもするか」


 そう言うと、彼はあることに気付く。


「そうか、だから元反乱軍主体の構成での侵攻なのか。彼らならばこんな作戦でも平気で、どころかやる気十分で実行できるのか……。モルドレッド陛下……これを承知で。いや、これのためにエルフ領への侵攻を……」


 今回の侵攻の意図に気付いたサミュエルは、モルドレッドのやり方に嫌気を憶えた。


「事なかれ主義を貫いて、上に逆らわずに流れ着いた結果がこれか……。こんなものか……」


 自身の利己的な行動の結果と、それに逆らうことなく生きてきた自分の生き方に嘆く。その様子を見ていた部下の一人がサミュエルに話しかけた。


「副隊長……」

「ようやく決めたよ。もう、付き合いきれない。港に戻るから、賛同する騎士を集めてくれ。こっそりな……」


 その言葉を聞いた部下は、声を潜めつつも喜びの感情がこもった声で言った。


「その言葉を待っていました。すぐに!」


 そして、サミュエルは思考を巡らせる。


「おそらく、敵の指揮官は勝算があるから仕掛けてきたのだろう。ならば、それに期待しよう。港に戻りドレーク提督を説得すれば……。彼女ならばおそらく」


 考えをまとめ上げ、行動を開始する。まず、隊長にある進言を行った。


「隊長、敵の別働隊の動きが読めました。手勢を率いて裏をかこうと思います。許可をいただきたいのですが」

「どういうことだ?」


 不審そうに見る隊長に対してさらに言った。


「奇襲をかけようとする別働隊に対して、逆に奇襲を仕掛けて街道に追い出します。隊長は、追われてきた敵を討ち取っていただきたいのですが」


 自身に戦果をあげさせる形の提案に隊長自身も悪い気はしていなかった。


「よし、許可しよう。君も、世渡りが分かって来たのではないかな?」

「いえ。別働隊がいたら、赤の発光信号を飛ばします」


 ほくそ笑む隊長に対しての、軽蔑の心を隠しサミュエルはその場を離れた。




 一方、サリヴァン達のエルフ軍は、前衛部隊に弓攻撃ののち、間髪いれずに近接戦闘に入っていた。


「槍兵隊は敵との距離を十分に取れ、組み敷かれれば数で押し込まれる! 弓隊は魔法攻撃に切り替え、街道の脇を回りこもうとする敵部隊を押さえ込め!」


 アテネ将軍の指示が飛び交う中、エルフ軍は奮戦していた。

 しかし、戦況はモルドレッド軍優勢でありエルフ軍は何とか戦線を維持しているのが現状であった。


「流石に押し込まれるか……。そろそろ、潮時かな……」


 戦場を後方から俯瞰していたサリヴァンがそうつぶやく。

 それを聞いたエルフの魔法士の分隊が詠唱を開始する。


「広域攻撃魔法で一撃を加えて戦線離脱を図る。アテネ将軍に連絡を!」


 伝令の兵士が走り去るのを見て、自身の義手の具合を確認していた。


「やはり、違和感があるな。左腕での戦闘は無理か……」


 殿軍部隊を指揮するサリヴァンはこの作戦において重要な役割を負っていた。彼の練った作戦に第一段階において、敵に一撃を加えるのが必要であった。


「しかし、やはり予想通りだ。敵は士気が高い。否、高すぎる」


 士気の高低は戦況に大きく影響する。同数の兵力で、やる気のある部隊と無い部隊ではどちらが勝つかは明白だ。実戦はそう単純なものでもないが、戦況を左右する大きな要素であり、無視できないモノであるのは確かである。


「しかし、それを逆手に取らせてもらう!」


 前衛部隊が後退を開始したのを確認して、魔法士隊に指示を出した。


「攻撃準備!」


 その言葉の直後、上空に魔法力が集まり、魔法陣が描かれ始めた。

 それを見た敵の騎士たちは、盾に施された防護魔法術式を展開した。しかし、一部の騎士と従士たちは後退を始めるエルフ軍の追撃に気を取られ、指揮官の防御指示が耳に入っていなかった。


「やれ!!」


 直後、上空の魔法陣から火球が放たれ、防御をしていない兵士たちを襲い始めた。


「ぐぁああああ!!」

「火が! ……火がぁぁああ!!」


 魔法の火に焼かれ、敵軍の動きが止まる。その隙に乗じてアテネ隊は敵軍と距離を離した。


「予想よりも減らせなかったか……」


 敵の対応が早く、戦果は少なかった。

 魔法は強力であるが、弱点もあった。強力な魔法ほど、発動までのタイムラグがあり対応の隙が生まれてしまう。魔法分野において、他国の先を行くアルビオン王国軍は攻撃魔法、防御魔法共に他国を圧倒していた。おそらく、このエルフの攻撃魔法も他国の軍では防御魔法を展開してもそれを打ち破って敵を焼き払ったであろう。


「王国の魔法が優れているのは誇らしい事であるが、敵に回すと厄介であるな」


 複雑な感想を述べつつ、サリヴァンは部隊を後退させる。

 初戦は、損害は双方ともに痛み分けであったものの。エルフ軍は半ば敗走であり、士気も大きく下がっていた。一方モルドレッド軍は被害こそあったものの、エルフ軍を敗走させ士気は一層高まっていた。いや、高まり過ぎていた。

 そして、それがこの作戦の成功につながる要素の一つでもあった。


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