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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第52話 それでも立つ

 魔王の傷は、確かに残り始めていた。


 胸の内部にはルークの衝撃。脇腹にはエマの斬撃。肩にはレイの傷。アルドの術式が再生を乱し、ミナの攻撃がその隙を広げている。


 それでも、魔王の魔力はまだ落ちない。


「これだけ戦って、まだこんなに魔力が残ってるの?」


 ミナが息を整えながら呟く。


 アルドが魔王を見たまま答える。


「魔石をどれだけ集めたんだ、あいつ」


「お前たち4人を、確実に殺せるだけだ」


 魔王が低く言った。


 次の瞬間、床が沈む。


 魔力が一気に圧縮された。


「来るぞ!」


 バルクが叫ぶ。


 黒い光が広間を埋めた。


 アルドの障壁。


 セリアの防壁。


 ミナとフィンも重ねる。


 4枚。


 それでも押し込まれる。


「ぐっ……!」


 ミナの膝が落ちた。


「ミナ!」


 ノアの治癒がすぐに飛ぶ。


 だが魔王は止めない。


 さらに出力を上げる。


 障壁が1枚砕けた。


 続いて2枚目。


「これ、保たない!」


 フィンが叫ぶ。


「分かってる!」


 アルドが杖を握り直す。


「バルク!」


「任せろ!」


 バルクが障壁の内側から飛び出した。


 黒い魔力を真正面から突破する。


 全身が裂ける。


 それでも止まらない。


 セリアの治癒が先に重なっている。


 バルクの拳が魔王の胸へ入った。


 衝撃。


 魔王の身体が初めて大きく後ろへ滑る。


「今だ!」


 レイが追う。


 最短の一閃。


 魔王の肩が深く裂けた。


 そのままエマも入る。


 同じ傷を狙わない。


 低い姿勢から脇腹へ。


 もう一太刀。


「ぐっ……!」


 魔王が腕を振る。


 エマが吹き飛ぶ。


 ノアの治癒が先に届いていた。


 完全には治らない。


 それでもエマは立つ。


「まだ!」


 魔王の表情が変わる。


 今までなら、この一撃で止まった。


 だが止まらない。


 傷ついても。


 吹き飛ばされても。


 また来る。


「なぜだ」


 魔王の声に苛立ちが混じる。


「なぜ、倒れぬ」


 ルークが立ち上がる。


 口元から血が落ちる。


「倒れてるよ」


「何?」


「何回も」


 拳を握る。


「でも、また立ってるだけだ」


 隣でバルクが笑った。


「いいこと言うようになったな」


「先生、今それ言う?」


「今だからだろ」


 魔王が咆哮する。


 再び魔力が膨れ上がる。


 今度は広間全体ではない。


 1人を確実に潰すための集中攻撃。


 狙いはアルド。


「まず貴様からだ!」


 黒い槍のような魔力が撃ち出される。


 速い。


 アルドが障壁を張る。


 貫かれる。


「アルド!」


 セリアの治癒が飛ぶ。


 だが間に合わない。


 魔力槍が胸へ迫る。


 その前へ。


 ルークが飛び込んだ。


「おおっ!」


 拳で軌道を逸らす。


 完全には止められない。


 魔力槍がルークの脇腹を抉った。


「ルーク!」


 ノアの治癒は、もうそこにあった。


 ルークがアルドを庇うと読んでいた。


 傷が広がる前に、治癒が食いつく。


 だが。


「……っ!」


 ルークの膝が落ちた。


「治しきれない!」


 ノアが叫ぶ。


 血が止まりきらない。


 傷が深い。


 セリアもすぐに重ねる。


「下がって!」


「まだ……」


「今は下がって!」


 ルークは悔しそうに拳を握った。


 魔王が笑う。


「ようやく1人」


 その言葉に、レイの目が細くなる。


「違う」


「何?」


「まだ1人も終わってない」


 エマがルークの前に出る。


 ミナも杖を構える。


 ノアは治癒を続けたまま顔を上げる。


 バルク、レイ、アルド、セリア。


 4人も並ぶ。


 全員、傷だらけ。


 それでも誰も倒れていない。


 魔王の顔から笑みが消えた。


「……ならば」


 さらに魔力が集まる。


 広間そのものが震え始める。


 アルドの表情が変わった。


「まずい」


 今までとは違う。


 魔王が、残った魔力を一気に使おうとしている。


「次で全部潰す気だ」


 ノアは仲間を見る。


 ルーク。


 エマ。


 ミナ。


 先生たち4人。


 誰がどこまで動けるか。


 誰が何をしようとしているか。


 そして。


 このままぶつかれば、間に合わない。


「……少しだけ」


 ノアが呟く。


「もう少しだけ、先が見えれば」


 その瞬間。


 周囲の音が、僅かに遠くなった。

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