第72話 友達の家に行く時って謎にテンションが上がるよね。
舞賀家。
舞賀家別邸。
以前に赴いたのは、(以前と言ってもこの世界線では未来系だけれども)本邸の方であったので、絢爛豪華さにはそちらの方が目を張るものがあるけれど、いやはや、やはり金持ちの家である。別邸といえども、我々庶民のうさぎ小屋など目にも入らぬ巨大さであった。
門の両脇に警備員がいるのは当たり前で、以前本邸の方の警備員に友達の方がお世話になったので、やや、恐怖を覚えながらも、舞賀さんに付いて行った。
「ひっろいですね」
まず出てきた感想はこれだった。
別邸の迎賓室、料理場。大体どこもかしこも広々としていて、そのどれもが俺の家には合わないであろう装飾が施されている。
「ははは。本邸の方が大きいから。ここはそこまででもないよ」
俺は本邸の方に先に行っている。確かにあれは別世界だった。ここは町一番の大地主という感じがするけれども、向こうの方はこれと比べるには烏滸がましいほどだった。
けれども、大きいのには変わりない。舞賀さんの傷つけまいとした謙遜も行き過ぎだと感じて、心の傷が抉られる。
「ボクの部屋もね。そこまで大きいものにして貰っていないんだ。あまり大きいものは好きではないからね」という言葉も嘘なのは分かっている。
この家の広さが分かる長い廊下を下り、高そうな装飾が設えられた襖をそろりと開ける。
ここが舞賀さんの部屋らしい。第一印象はとにかく広くて、そしてそれに見合うものがないという印象。必要最低限の勉強机と、ベットが置いてあるだけだった。広い独房というのが正しいかも知れない。貴族の独房とかいう矛盾した表現になってしまう。
だからなのか、取り立てて注目するべきものがなくて、俺は入ってすぐに立ち尽くすだけだった。すぐに気まずい瞬間が訪れてしまったのだ。
そんなんだから、俺は耐えかねてソワソワと肩を揺らし始め、それを察知した舞賀さんは挙動不審になりながらも口を開いた。
「えっと……。取り敢えず、座って、ああ、座るものがないね……。ごめんなさい。持ってくるからさ。ちょっと待っててほしい」と気まずさ回避なら一流だった。
知っている女の人の部屋に取り残された俺。
え?どうすれば良いんだ?
匂いでも嗅げば良いのか?
流石にそれは違うだろうし……座るところもないし、このまま立ち尽くす訳にもいかないよな?なら、座るべきだよなあ。どこに?座れそうなところと言えば……、ベットの上だった。
無理無理無理無理無理なんですけれど。
女の子のベットに座るだなんて……。小心者の俺では無理だった。いや、だがしかしだけれども、(春の接続詞祭り)そこにさりげなく座る人がモテるだとかあるかも知れない。
なら、座るべきなのだろう。じゃあ行くぜ。座るぜええええ。
「何しているの?」
ピシャリと襖を開けて、座椅子二つと丸机を持ってきた舞賀さんが登場した。
俺はベットに飛び込む体制で静止していて直感的に終わったと思った。
「用意したので腰掛けてください………。ボクはお茶請けなんかを持ってきますから……」
華麗にスルーされた。彼女みたいな人間にこの状況を突っ込めるほど強靭な精神力はなかったのだ。俺は無性に恥ずかしくなり、用意された座椅子に腰を据えた。
据えてみたものの、いかんせんやることがない。こんな格式高いお家でスマホを弄るのはなぜだか御法度のようで、恐れ多くてできないし、かといって、目ぼしいものはないから心は据えられず、どこか上の空ではあった。
舞賀さんと二人きりは気まずいと思っていたものだが、今では彼女が来るのが待ち遠しいとも思っていた。調子に乗って鼻歌でも奏でてみようかと思った。
「あの……。何してるんですか……」
本日2回目だった。思わず、鼻歌なんて奏でてしまっていた。X JAPANの紅を。
うう。恥ずかしい。
やっぱり彼女が来るのは、待ち遠しくなかった。
「えっと。お茶とお茶請けを持って来て見ました……」
気まずそうにそれらを持ってきた。抹茶かな?それと和菓子。大福だった。
俺はこの空気感を紛らわせるためにそれを搔き込む。
「え。何これ。う、うまっ。生まれて初めてこんな美味しいもの食べた」
「ははは……。喜んで貰えてよかった……よ。多分…それ高いものだから」
高い?たかいの?この家の高いなんて、やばいんじゃないの?
俺はちょっと不躾だと思うものの、尋ねてみる。
「えっと、いくらなんですか?」
「多分…合わせて5000?6000、7000?わからないけれど、それくらい……」
俺は固まってしまった。俺は人生でこれより高いものを食べることはないだろう。
そんなものを知らされてしまったら味の感動よりも、値段の恐怖に襲われてしまう。俺はこれのためにきたのか。いやいや。違う違う。
「そ、それより、あれじゃなかったのか?生徒会選挙の演説練習するんだろう?」
そうそう。俺の目的は彼女の演説を聞きに来たんだった。
思わず、お茶を頂に来たと勘違いしてしまったじゃないか。
「そ、そうでした……。じゃあ。あの、読みますから、お願いします……」
急にもじもじと恥ずかしがり始める。
おい。ステージにも立っていないのにこの調子ではこの先が思いやられる。
「えっと……。ボク……じゃなくて、私が生徒会副……じゃなくて、生徒会会長に立候補した理由は、親に言われたからに他ありません……じゃなくて、学院の崇高な理念に惹かれ、その理念を発展の一翼を担いたいと切に願ったからに他ありません……。そしてうんたらかんたら……」
ここから数分に渡る歴史の一ページに載せられる名台詞を吐いたなんていう訳でもなく、こんな調子がさらりと続いた。
これが生徒会選挙の1日前のクォリティだというなら、完成までは気の遠くなる話であった。
え?どうするの?ダンスもしたこのない人を明日宝塚で踊らせますと言っているようなものなんだけれど。この人、陰キャなのが駄目だと思っていたけれど、その他も駄目なんじゃないかと思い始めてきた。
こいつはドジっ子キャラというのが最もだとこの時点で思ったことだった。




