第30話 星宮は底なしに優しい。
「ほら、あなたに使われてやったわ」と華月さんはモノトーンに言って平然と人を投げた。
俺と維川さんの取っ組み合いは佳境を制し、あともう少しってところで、第三者が放り込まれた。物理的に。
その物理に俺が押し潰されて、身動きが取れなくなる。
華月さんは味方なの?敵なの?
「華月さん!?誰これ、ちょっと」
「ヤンデレよ。名前を覚える価値もないわ」
俺はその人を退かせて確認する。
「日御池さんじゃん。これ。なんで気絶してんの」
「五月蝿かったから、気絶させた」
「意味わからんわ」
「そう?五月蝿いものは叩き落とすべきよ。そこの暴れている女とかね」と華月さんは日御池さんを見つけて首根っこを掴んで、持ち上げた。
「はい?」と日御池さんは驚く。
「天誅」とちょっとジョーク気味に言って手刀で気絶させた。
いや。おかしい。おかしい。手刀で気絶できるのは科学的には違うんだぞ!?
華月さんは漫画の中から来たのか!?
「ほら、これで静かになったでしょう?」
「やばい。サイコパスじゃん」
「あ?」と睨みつけられる。
猛獣に睨みつけられた子猫みたいな感じに怯える。
対照的に部屋の隅っこでスマホを見ていた聖良さんが目を輝かせて
「結音ちゃんすげええ」と机を乗り上げて持ち上げた。
「あら。いたのね」
「やめてくださいよ〜。え、嘘だよね」
「私は神よ。嘘なんて言うわけ無いじゃない」
「確かにー」
「おい。じゃあ。神だったらこの二人をどうにかしてくれよ!?この人らから事情聴取しなくちゃ何も進まないんだけれど!?」
「あー。それもそうね。じゃあ。彼女らが起きるまで勉強までしますか?」
「賛成」と聖良さんは言う。
ただのイエスマンしかいないから反対も虚しい。
ああ。華月さんはことの収集もつけないまま参考書をし始めた。
ああ。俺はど、どうしよう。とりあえず、星宮でも呼びに行こうかな。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
星宮に事情を説明するところまでは順調だった。
その部室に連れて来るとなると、「いいやあ。今はね……」と吃らざるを得ない…。だってその犯人は伸びているからである。
「いいや。どんな人が相手でも僕は怖気付いたりしないから」と一歩も引き下がるつもりがないらしいので、仕方がなく案内することにした。
「な、カンナちゃんと。海桐花ちゃんが……。犯人だなんて…」と驚嘆しつつも「なんで伸びているの?」と次にくる疑問は想像ついた。
と言うか、日御池さんの下の名前って海桐花って言うんだ知らなかった。
いやいや。そうじゃなくて、星宮が俺の目を見つめて答えを待っている。
いや。俺じゃないし。どうしようもないんだけれど。
「華月さんに聞いてください」と逃げることにした。
「あら、薄情ね。助けてあげた結果でしょう。そこのくたばっている奴らが襲ってきたのよ。正当防衛だわ。見てみなさい。抗争の結果。あなたのズボンがお釈迦になってしまっているわ」と無惨に二等分されたズボンを指した。
全部罪を擦りつけるのは申し訳ないけれど、まあ。仕方がないよね。神である華月さんが言っているんだもの。
「まあ。これに納得いかないんだったらそこの被告人たちに聞けばいいわ。もうすぐ起きると思うわ。3、2、1」
パチンと指を鳴らせば、二人はムクリと体を起こした。
「あ、あれ」
「何?私は誰。ここは」
華月さんは預言者かなんだったのだろうか。しかし、彼女らがピッタリと起き上がったのはいいのだが、記憶無くなっちゃってんじゃん。
「そんなネタもう流行らないわ。早くしなさい。私の貴重な時間がくだらないことに消費させられるのは堪えられないものがあるわ」と一蹴するのはギャグゲームとしては最悪なのではないのだろうか。いや、この小説は俺のハーレムゲームの予定なのだけれど……。
「「はい。すみません」」
さっきまで暴れ回っていた二人が背筋正して正座しているのは滑稽だった。
まるで俺が偉くなったみたい。
「そうだ。君たちは……特に維川さんは俺にしたことを謝ってもらおうか……」
「四季くんは出る場面じゃないよ。旭くんだから」と星宮は迎えられて、俺は華月さんに睨まれたので、退場する。
聖良さんと同じく部屋の端っこまで向かったなら蹴り飛ばされた。
居場所はないらしい。
「えっと。あの。どうしてこんなことを?」と困惑した様子の星宮が彼女たちに話しかける。
華月さんが鞭で星宮が飴って感じがした。
上手い具合にいいコンビだった。
事情聴取にはもってこいだった。
だから二人は顔を見合わせて、話す準備をしていた。
「えっとですね。私は旭くんがとんでもなくそれは普遍的に好きなんです」
「私もー」
「で、だから、だからです」
「そうですね」
「……」
「……」
「他は?」と華月さんが居ても立ってられなくて口を出す。
寡黙になった彼女らに有効な口だった。
俺もそう思ったよ。けれど、思ったままにしなくちゃ。
「ちょっと、黙ってもらえる?結音ちゃん」と珍しく険しい言い方をした星宮がいた。
華月さんは星宮の方を一瞥もせず、参考書を見ながら「そう」と呟いただけだった。
「えっと。ごめんね。こっちの問題だから、気にしなくていいから。その……、僕が好きすぎるからって…」
「はい。私は一貫して誰にでも優しくて……。そんな姿が好きです。どうしても」と日御池さん。
「テニスしている姿とか、カッコいいなあって」と維川さん。
彼女らはまるで理想のカレシを語るがごとく、素敵な思い出を語り始めた。
ひしひしと恋心が伝わってくるのがわかった。
「そうなんだね。ありがとう」と星宮本人にも伝わっている。
「そこまで思ってくれるのはありがたいよ。でも、君たちがこれからも好きになって、でもそれは一方的になってしまう。僕は好いてくれる人は好きになりたいと思う」
「……」
「……」
二人は黙った。
星宮。星宮くんさあ。そんなことしたら、恋をやめさせるどころか、どんどん深いそこへ落ちていかない?ヤンデレが好きならいいんだけれど。
「だから、そんなことやめて、僕とどっか遊びに行こう」とか星宮は躊躇もなく言う。寧ろ嬉しそうに。
「「はい」」と言って彼女らと星宮はどこかへと消えた。
これで一件落着なのか?まあそうなんだろうけれど。
なんだか納得いかない気がする。
恋心を巧みに利用したまあいわば折衷案である。そこに星宮の意思はない。
或いは仲を取り持つことが星宮の意思なのかもしれない。
「どっちも嫁にするのかしら」
「えっ!?」
「まあ。法律上は問題ないと思うけれど……。今更振るなんてできないわよ」
確かにそうであるが……。
見るからにメスの顔を見せていた。俺が見るはずの。
あれ?ハーレム計画を星宮に越されたことにならない?わなわなと手が震えているのが分かる。
「じゃあー。わたくしもー」と急に出てくる聖良さん。
「あなたは消えるべきよ」
辛辣すぎるよ。
「旭くんは優しすぎるわ。いつか。その優しさにしっぺ返しを喰らうわ。どうして優しさというものは自然淘汰されなかったかしら」と。
その答えを今の僕では導き出せそうになかった。




