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【神話生物】事件 後編 1

【それ】は、刀を持っていた。


刀を持って、振っていたのだ。


別段その行為自体に特別な意味はない。


人を斬るため。


技術を磨くため。


ーー或いはもっと神聖なもののため。


理由はおそらく凡百のそれと何ら変わらない。


しかし、それはおそらく天文学的確率で起きた奇跡であり、理解できないことであったことから、ニャルラトホテプは嬉々としてそれを眺めていた。


「私の事、分かりますかネ?」


【それ】はその声を聞いて即座に理解した。


目の前のそれは、斬れない。


おそらく瞬き一つで自らの命を簒奪することのできる上位存在であると。


ーーしかし、その冒涜的な強さを前にして【それ】が呟いた言葉は、ニャルラトホテプの関心を引いた。


「--斬りたいのう……」


「--、なるほどネ! なるほどなるほど。いいでしょう。キャスティングに変更を! 貴方は……未来に役に立つ」



時は幕末。


文明開化は、もう目前。


この日、一人の、いや。


【剣豪】ぬらりひょんが生まれた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


side 安倍怜音



夜だ。


夜が降りてくる。


ぬらりひょんだ。


杖を突いて、ゆらりゆらりと、影のような男がやってくる。


ここはステージ上。


ーー数多の陰陽師の死体の山河が生まれている。


大人はみんな死んだ。


トーナメントに参加していた学生も、一部を除いて全員死んだ。


「ほう、生き残ったか」


ぬらりひょんが杖に仕込んだ刀を抜く。


ーーみんな死んだ。


残念ながら、このルートではダメだったらしい。


ここから先は消化試合。


ただ無残に殺されるだけの、地獄。


「--、ち。姫川を軸に祟り神をメインに据えて、シルク・ストロベリーをアイツに当てると全滅か。元々期待してなかったが、このルートだと蘆屋が機能しないし、ニャルラトホテプの想像通りのシナリオになる。没だ」


「……? 何をほざいておる?」


「いやなに、俺の【観測拒否アルベレイター】の予想は決して外れてくれない。……それだけだ」


「ーー問答は、もはや無用か」


そうして、安倍怜音は瞬時に刈り取られた。








気付けば、歓声が聞こえる。


いつの間にか、第二試合が始まる直前まで行ってしまった。


ーー思わず舌打ちする。


もう時間は無い。結局のところ、あのルート以外道はないようだ。


ルートを再度確認する。



「さて、さらに瞬きほどの時の中で幕を閉じた第二試合!!!! 次の試合は【五星附】」



「【観測拒否アルベレイター】、ゲームスタート」









夜だ。


夜が降りてくる。


ぬらりひょんだ。


杖を突いて、ゆらりゆらりと、影のような男がやってくる。


ここはステージ上。


ーー会場は混沌に包まれている。


あの妖怪はなんだと慟哭が聞こえる。


ステージの上では、安倍怜音だけが立っている。


「ほう、生き残ったか。いや、やはり侮れんな安倍家。--貴様一人で、儂を食い止めようというのか」


「……」


爆発音が聞こえる。会場の外では、誰かが戦っている。


空を見上げれば--、餓者髑髏の花嫁が、何かと戦っていた。


それだけではない。


あの【永弓凍土】小笠原雹香、【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋が。



最悪の【流星の魔法少女】と戦っているではないか。


「やっぱりこのルートが上手くいくのか。大多数が死なないルート。最小限の犠牲。……4人か」


肩を落とす安倍怜音。


「何を言っておる、安倍の切り札よ」


「いやなんだ。知ってるか?俺の【観測拒否アルベレイター】の予想は決して外れてくれない。残念なことに、未来では【流星の魔法少女】を止めるのに全力を注がなければここにいるやつらはみんな死ぬ。そして全力で食い止めようとすると、ぬらりひょん。お前がやってきて代わりに皆殺しにしようとするんだ。--するとだ、お前を足止めしてお前を倒すやつがここに来る時間稼ぎをしなけりゃいけない。それが……俺の人生の終着点らしいぞ。ふざけてるよな」


「ーー、理解できん。問答は、もはや無用か」


「あぁ、無用だ。もうこのルートに行くしかないんだから。このルートだけが最低限だ。死ぬのは4人。……俺と、時晴、小笠原、……須藤与一」













「さて、さらに瞬きほどの時の中で幕を閉じた第二試合!!!! 次の試合は【五星附属術浄学園】から登場するのは問題児!! 彼が7歳の頃には既に才能の鱗片はあった!! しかし雑過ぎた!!! 力のままに力をふるい、未だに残った自然や人間への傷跡は無限大!! そして彼が出した結論は、「それでいい」!!!! 現代兵器を用いて戦う新しい陰陽師、【獅子強攻】安倍怜音あべの れおん!!!」




計算は終了した。


ルートは確定した。


スマホから目を離して顔を上げると、道着を着た坊主がいた。


 


音も気配もない。


 


当たり前だ。寺で生み出された暗殺術。その担い手がここに一人。


 


「東寺仏教流の妖怪退治!!! 健全な肉体に健全な精神! 悪意鏖殺、妖即滅!


肉体のみで幽霊や妖怪と戦い続け、極秘とされた御留流!!! ついにお披露目されるのは、日本最強の肉体強化!!!【寺生まれのG】あずま 呉十郎ごじゅうろうだぁああ!!」


 


それは少年のような身長と容貌だった。


 


しかしある意味、飢えた獣のように笑う。


 


今にも自分を殺そうとする、血気盛んで無邪気な笑い。


 


胴着に隠れた肉体は、既に喜んでいる。


 


「よろしくお願いします! よい戦いを!」


 


スポーツマンのように合掌し深々と挨拶をする、東。


 





「……アリだな。【観測拒否アルベレイター】、ゲームスタート」









「その光る板が貴方の武器ですね! 未知の学問、科学。私のライバルのような存在です。しかし、私は必ずやこの肉体が天下を取ると信じておりますれば! さぁいざ!! いざいざいざ!!!」


 


拳を構えた少年。


 


そして、試合がーーーー。


 


「おい。クソ坊主。10分間遊んでやる。それで大方のお披露目は完成する。10分後俺はこの試合を降りる。この予言が当たったら、お前に役割を与えてやる。死ぬ気で実行しろ。でないと殺す」







安倍怜音は一人、心の中で独白する。








「未来なんて嫌いだ」


日輪様という存在を知って、みじめな自分を慰めるべく、安倍怜音が未来を嫌ったのは、8歳の頃だった。


元々安倍時晴という天才のせいで、その他安倍家嫡子は全員コンプレックスを抱いている。


その時晴を超えた天才が、ライバルの蘆屋にいる。


その蘆屋と安倍が、時晴を中心に結ばれようと躍起になっていた。


時晴に近い存在だった安倍怜音は、いつも天才と比較されていた。


「母さん。俺って誰にも愛されてないんじゃないか? みんな俺の事を怜音じゃなくて、安倍として見るんだ。陰陽師ってさ、クソだよ。みんなクソだ。俺たちも政治の道具なんだろ? 俺って生きる意味あんのかな」


彼は墓石にそう話しかけた。


「--どうせ、頑張ったってさ。天才には勝てないんだろ? こういうのあれっていうんだ。侍従の子が持ってきたゲームっていう科学製品のさ、「チート」って言うんだ」


墓石に水をかける。


なんとなく、お風呂で背中にお湯をかけてあげるような優しい手つきで。


「俺天才じゃないんだ。でもみんな天才なんだ。きっとズルしてるんだ。だからチート。俺さ、チート無しでこの安倍家に生きてる。だから誰も褒めてくれないし、誰も喜んでくれない。みんな誰かの特別なんだ。俺ね、つらいよ。母さん」


怜音の母は彼を生んですぐ亡くなった。


元々呪力が高すぎて、肉体が付いてこれず病気がちだったことで体力がもう残っていなかったのだ。


「母さん。どうすればいい? どうすればチート無しで……誰かに喜んで貰えるの?」





安倍家の教育はより苛烈になっていた。


蘆屋緋恋に対抗すべく。


安倍時晴という存在を支える存在を生み出すべく。


その苛烈さが鳴りを潜めたのは、彼が13歳になった時だった。



ーーもう、安倍怜音に期待する者は誰一人いなかったからだ。


安倍家として、才無し。


安倍怜音の今後は、一般市民として生きること。


陰陽師の道は、突然途絶えた。







「これが、スマホか」


市井に下った彼が手にしたのは、運命だった。


「へー、こうやって動くのか。……これ、陰陽術応用できねぇかな」


彼の才能は、純粋な陰陽師のそれではなかった。


ーー科学と陰陽師の両立。それだけが、彼に許された才能だった。


「演算機能でフルオートで術式を成立させればいいし、ショートカットしまくって手順省きまくればいいじゃねぇか。……インターネット? クラウド管理? これも、使えそうな」


その才能は、決して現在の安倍家では芽吹くことのなかった才能だった。


「--そうか。シミュレーションを使って相手戦力を自動計算してしまえば、それは未来を読むこともできるってことじゃ」





ーーそれが、新しい地獄の始まりだった。




「は?」




世界が滅んだ。


あっけなく、残酷に。


残念なことに、それは必ず訪れる結末として。



「ーー俺しか、世界が滅ぶことを知らないのか? 日輪様は、どうしてこの未来を予知して、何の対策もしないんだ? いや、まさか。未来でそう見えなかった? ”日輪様が世界の滅びの前に死んでしまって予知することができなかった”んじゃないのか?」


「俺しか、救えないのか? 才能のない、俺が?」


「--世界を、俺が……救えるのか?」







結論を言おう。


世界は救えた。


安倍怜音がシミュレーションで、250通りのルートを試し、1950回死亡した上で、たった1回の明日を手に入れた。


そして。


また世界が滅んだ。


命を懸けて、127通りのルートを試し、450回死亡し、世界を救った。


その結果、また世界が滅んだ。


一度さぼろうとした。


救いようがない未来が、あと一歩で訪れていた。





観測拒否アルベレイター】の予想は決して外れてくれない。


高度に演算された予測は、未来を読み解く。


その未来は、確実に起きる。





哀れな才能だった。


象徴たる日輪様が見ることのできる予知が、「見たいと思った未来を引き寄せてそこに向かう」という未来改変を伴う才能であって。



彼は全ての滅びの可能性を目撃してしまうのだから。


それも、必ず取り返しのつかない分岐点に必ず立たされて、未来の滅びを彼しか知らず、誰も理解してくれない。


ーー新しい地獄。




救いはない。


彼が止まれば世界が滅ぶ時間が早まるだけなのだから。


そして。


【剣豪】ぬらりひょんを放置しても、立ち向かっても。


ーー遂に安倍怜音の生存するルートは、存在しなかった。





「未来なんて嫌いだ」


未来に救いなどないのだから。








未来でのハッピーエンドの確率は、0%


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