【神話生物】事件 中編 6
side 土御門 松陽
何が起こった。
土御門 松陽は尻もちをつくように結界を背に座るように倒れていた。
顔を上げる。
額から血が流れている。よく見えない。
【流星の魔法少女】如月 桐火。
あいつだ。
あいつが、ヤバすぎる。
最初こそ問題なかった。
いつものように戦えたのだ。
土蜘蛛の弟子として、プライドを持って、陰陽術に絡め手を混ぜながら上手く戦えていたのだ。
相手は中学生くらいの年齢だ。戦いの場で怯えるばかりだった。結界を張って、震えて自分を守るだけだったのだ。
「う~! 怖いよプリズム!」
『安心してキリカ! 君は僕が選んだ魔法少女なんだ! 負けることはないよ! ネ!』
悪ふざけのような声が彼女のステッキから聞こえる。
使わなければただのおもちゃ、そう思っていた。
「分かったよプリズム! え~い、変身~~~!」
そう言った途端、彼女が光に包まれ、変身していた。
これも許容範囲内。
赤と白を基調にフリルがたくさんついたドレスを身にまとい、彼女は決めポーズを取った。
「闇夜を切り裂く尾を引く彗星、煌めく生きた流れ星! 百万の恵まれた素敵な命! 魔法少女キリカ! ビシッとバシッと、戦うんだから!」
「学芸会は、ヨソでやんなぁ!!!!!」
土御門松陽の右腕には陰陽装甲のガントレットがある。
これを使うことでパイルバンカーのように術式を相手の体内にぶち込むことができる優れものだ。
彼女の腹に、一撃を食らわせる。
「--獲った!!!」
まずは一撃。この調子なら勝てる。そう思ってた。
本当に、そう思っていたのだ。
「うぅ、痛い。もう、許せないんだから!」
『キリカ! あの技を使おう!』
「えぇ!? あの技を!? で、でも使ったことないし……ここで使っていいの?」
『いいよいいよ! だって。もう、”負けちゃった”んだから。使っていいんだよ!』
「そっか! そうだよね! 分かった! 【式神召喚】!」
そう言って、彼女は式符を投げた。
二人の女が、現れた。
「う、うぅー。ごめんよぉ桐火ー。ふがいないー」
【宴夜航路】迫野 小登里。
「くぅ……すまない、桐火……貴方に全て委ねてしまうなんて」
【聖伐執行】犬鳴 響。
二人が、何故か、ステージに立っていた。
「は?」
間抜けな声が、ステージに響いた。
「な。え、は? おい。おい、審査員。これは、これはどういうことだ!!! 増援だと? 明らかに不正じゃねぇか!!!!!!」
「いいえぇ? 不正じゃないんですよ。ネ?」
教師が、ステージに立つ人間たちに声をかけた。
「先生!」
桐火が嬉しそうに叫ぶ。
「ふふふ、良いですねぇ土御門松陽サン。その顔。良いことを教えて差し上げましょう。これはズルではありません。ルールに則った、正しい戦法です」
「ふざけ倒すんじゃねぇぞドグサレネズミが!」
土御門松陽は怒鳴り散らす。
「これは歴史あるトーナメントだ、こんなルールが周知されていない時点で、いや、そもそも1対1で戦うんだよ!! 味方をぞろぞろ増やして戦うイベントじゃねぇ!!!」
「いいえ? だってほら。前例あるでしょ?」
「は? 前例?」
「えぇ」
若流 夏がにっこりと、人差し指を天に刺した。
「須藤与一さんがやってたじゃないですか。味方をぞろぞろ増やして戦ってた戦法」
「ふざけるな!!!!! あれは式神を召喚したんだ!! 式神は人間判定じゃ……。は? おい、ちょっと待て。……は?」
「気付きましたか。ではSAN値チェックです。----別に、出場選手が負けたので調伏して式神にしてしまっても、問題ないですよね?」
「正気かテメェぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
若流 夏はにっこりと、狂気的な微笑みで状況を混沌に落としていく。
「本人たちは喜んでその身を捧げましたよ? 本人たちは承認しているのですから問題ありません」
「そんな非人道的な行為が認められるわけーー」
「隙アリです!」
「がッ!?!?!?」
背中から術をぶつけられる。
試合は、止まってなんかいない。
誰も待ったをかけていない。
「--あぁそうかよ。この、畜生どもが、全員土くれに還してやる」
怒涛のラッシュをかけ、土御門松陽は健闘した。
大健闘だった。
それこそ、審判もその様子を見て試合を止めなかった。
なんでもあり。
それで死ぬなら死ね。
妖怪退治や、怪異の撃退に手段はいらない。
死んだら終わり。死なない備えをした者だけが勝ち。
その理念と、不正者の殺意の無さが決定づけた。
「くっ、私の剣も通用しない」
「私の技も上手く決まらないよー」
【聖伐執行】犬鳴 響。
【宴夜航路】迫野 小登里。
二人が弱音を吐いて、【流星の魔法少女】如月 桐火が覚悟を決めた。
「……もう、あの技しかないかも」
「そうだな。やるしかない」
「やったるでのー!」
「うん、やろう! 合体だ!」
魔法少女、キリカが叫んだ。
「合体!」
犬鳴 響
迫野 小登里
《b》二人の命を捧げ、魔法陣が拡大する。《/b》
魔法の杖に、二人の命が装着される。
魔法の杖が、巨大な砲台に代わっていく。
美しい光景だった。
まるで天使に祝福された、芸術品へと、杖が変わっていくのだから。
「は?」
土御門松陽は動けなかった。
無理もない。
式神というのは、致命的なダメージを負っても様々な方法で回復することができる。
時間はかかるかもしれないが、それこそ蘇生だって出来るのだ。
だからと言って。
ただの陰陽師を式神にして、命を捧げて、力を得る。
明らかに、邪法だった。
「お前、イカレてんのか」
「違います! これはみんなの力を借りて戦う、友情のパワーなんです」
「--狂ってる」
「--我が名は●●●●・●●●、貴方を撃ち抜く、流星の如く! 星よ産まれろ、【潰える腕、訣別の大地、アーカムの名の下に(アトザ・メーテオブ・マドネス)】
流星が、光の速さで土御門松陽に突撃した。
その瞬間、記憶が飛んだ。
何が起こった。
土御門 松陽は尻もちをつくように結界を背に座るように倒れていた。
顔を上げる。
額から血が流れている。よく見えない。
【流星の魔法少女】如月 桐火。
あいつだ。
あいつが、ヤバすぎる。
「嘘、気絶もしてないなんて!?」
少女が悲鳴を上げる。
気絶もしてない?
ふざけるな。
ふざけるなよ不正者。
「--この程度、で……俺が立てないと思ったかよ、クソ野郎がぁっっっ!!」
「ひっ」
土御門松陽は血の気の多いタイプである。
それこそ安倍時晴に喧嘩も売るし、賀茂モニカにも喧嘩を売るし、蘆屋緋恋にも喧嘩を売る。
須藤与一だって、倒したい人間の一人にカウントしている程度に、血の気が多い。
だが、悪の道は進んだ覚えは一つもない。
彼は陰陽師だ。陰陽師なのだ。
土御門松陽は、土御門家の人間としての役割を果たそうと、必死なだけの陰陽師なのだ。
だからこそ許せない。
目の前の狂人を、彼は決して許さない。
「ぶっ殺してやる、外道」
「ひ、ひぁ」
まだだ、まだ戦える。
何より、まだ残っている切り札がーーーーー。
「勝負あり!」
審判が、試合を止めた。
「お、おい、ふざけるな、まだ俺は戦えっ」
「ダメだ! 穴空いてる!!! 内臓零れてる! もう終わりだ!」
「ふざけるんじゃねぇ!!! ここまで来たら俺の命よりもあいつを殺す方が先だろうが!!!!」
「ダメだ!! 殺しはダメ! 分かるけど! 分かるけどまず君の命!!!」
「離せ!!!! クソが、おい、止めるな、止めるんじゃねぇ!!! やめろ!!! 止めるな!!! 畜生ぉおおおおおお!!!! ぶっ殺してやる!!!! 逃げるな!!!! 戦わせろ!!!! 戦わせてくれよぉ!!!!!!!!!!」
「えぇ、と。私たちの勝ち、なんでしょうか?」
【流星の魔法少女】如月 桐火が教師に問いかける。
「えぇ! 勝ちましたネ」
狂人は笑顔で答えた。
「えへへ、やった♪ あ、でも二人が死んじゃって……」
「大丈夫ですよ。何度でも生き返らせますから。何度でも、何度でも、ネ」
狂気、二回戦進出。
その様子を、須藤与一は貴賓室で見ていた。
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二回戦 トーナメント 確定
【スケベハーレム】須藤与一
vs
【永弓凍土】小笠原雹香
【寺生まれのG】東 呉十郎
vs
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋
vs
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
【夢幻現の如し】伏見 遊星
vs
【流星の魔法少女】如月 桐火
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side 須藤与一
「失礼いたします! 須藤与一殿、二回戦第1試合の招集がかかっているであります! 準備完了次第移動をお願いいたします! また、須藤頼重殿からご報告を受け、六波羅警邏が警備を引き継ぎます! 引継ぎを!」
未だに喧噪が絶えない会場。
化け物だ、とか。
新手の怪異だ、と散々騒がれている。
無理もない。【流星の魔法少女】如月 桐火、あいつだ。
あいつが本命だったのだ。
原作では、平和の証拠、原作主人公が守りたかった笑顔の素敵なヒロイン。
でも、あれは、なんだ?
まるでそれは、絶望の化身のようだった。
「須藤頼重です。引継ぎご苦労様です。君たちにお願いする僕の不出来を恨んでください」
「ご謙遜を! 申し遅れました。私は【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人と申します! 偉大なる先達の頼重様に頼られることは喜びです。如何様にもお使いください」
「じゃあここでのルールだけ言っておくよ。日輪様に話しかけられたら話す。それ以外は話せと言われたら話す。余計なことは一切言わない。OK?」
「了解であります! 六波羅警邏3番隊から6番隊、此れより警備に入る! フォーメーションEXA!」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
影のように警備員たちが消えていく。
洗練された手練れだ。貴賓室に親父がいなくてもこれなら時間は稼げる程度に守れるだろう。
「さぁ須藤与一殿! 及び式神の小笠原ひとみ殿、須藤いろは殿、ご移動を!」
「ん、あぁ。ありがとう……。あの、試合出てた……」
「はっ! 時間切れという結果ではありましたが、勝たなくて良かったです! 警備のシフト変更をする羽目になりかねませんので!」
「お、おぉ」
「それに……」
「?」
「いえ! なんでもありません! またお会いしましょう。後で時間は取れますので」
「……? あ、あぁ。分かった。ありがとう……。行くか」
ひとみといろはが、俺の横に来た。
「はい」
「はい!」
勝たなくちゃいけない。
勝たなければ、あの魔法少女がやばい。
ーー幼馴染ちゃんは、あいつに勝てるのだろうか。
それすらもう、分からなくなってしまった。
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side 常盤 夢人
常盤が貴賓室の扉を閉めた途端、殺気に晒される。
全員が、胡乱な目でこちらを見ているのだ。
【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍 邑楽が常盤に話しかける。
「ところで【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人、警備は君で大丈夫か?」
「---」
「ち、頼重の入れ知恵か。いい、発言を許可する。警備は、本当にお前らで大丈夫なのか、回答しろ」
「はっ! 仰る意味に窮しておりました。我々の懸念点をお伝えいただければ改善いたします!」
「一回戦負けの坊主が仕切ってる警備が、客賓を守れるのかと聞いている」
「はっ! 本業は守ることでございますので! こちら今回の警備概要となっております。資料3ページが基本のフォーメーション、4からは特殊事例における緊急避難誘導経路となります。こちらの指示に従っていただければ幸いです」
「(やだこの子ウチの子よりしっかりしてる……時晴も見習ってくれないかしら……)」
「? 何か不備がありましたでしょうか?」
「いや、ない。しかし、一つ懸念があると言える」
「なんでしょうか」
「……例えば、あの魔法少女とか、ぬらりひょん、のような怪異認定 階位 甲クラスが来た場合……どうする?」
その言葉を聞いて、常盤は目を瞑った。
「なるほど。そういうことか。【獅子強攻】安倍怜音の狙いはこちらだったか。彼が動くほどの案件、ぬらりひょんか」
「え。怜音ちゃん?」
安倍 邑楽が思わず素になった。
首を振って常盤が答える。
「いえ、失言でした。忘れてください」
「えぇ……言ってよぉ」
宮内庁代表 小笠原 遊里が思わずつぶやいた。
何度か思索を繰り返し、常盤は発言した。
「【獅子強攻】安倍怜音が自分の学園には一切触れず他校の生徒に声をかけていることをご存じでしょうか。内容は、--須藤与一殿についてです」
「また須藤の倅か!」
土御門グレゴールがわめいた。
常盤は姿勢を一切崩さず胸を張って説明をする。
「理由は分かりませんが、彼は須藤与一殿の為に動いている様子でした。しかし、ぬらりひょん、その情報さえあれば分かることもあります。--ぬらりひょん攻略のためには、今の彼では不足だということが」
「……分からん!」
土御門グレゴールが信念をもって答える。
「悪いがよく分からん! 我々も貴賓室にこそいる。観客も益荒男どもがひしめいておる。なぜだ? なぜ攻略のカギが須藤の倅なのだ? そも先ほどの報告もそうだ。須藤の倅は何故そんな厄介ごとに巻き込まれる? まるで、ん、……」
「まるで神に愛されているようじゃな。のう、グレゴール」
「!? ひ、日輪様!?」
日輪がてとてと歩いてグレゴールの前に立つ。
「じゃが妾は須藤の息子殿については一旦捨て置いておる。そもそも一般市民になっているのに餓者髑髏の花嫁の調伏とかよくわからんことしとるしな。それに……、あ、これは言ってはいけないやつなのじゃ。ともかく! 今は頼重が先ほど耳打ちしてくれた邪神とかいう不届き者と、ぬらりひょん、そして……【五星附属術浄学園】の情報を集めよ。あれ程の邪法を、学園が許容しているとも思えぬ。何かの思惑があるはずじゃ。じぃじ!」
「かしこまりました。はたして、此れは根拠ある暴論であるのか、それともーー」
じぃじが本を開き、動きを止める。
それは、たった一枚の絵。
たった一枚の絵のみで、小さく手紙のように文章が書いてある。内容は、ジョークのような内容だった。
やあ (´・ω・`)
ようこそ、ニャルサマーハウスへ。
この自画像はこの私、ニャルサマーの真の姿だよ。サービスだから、まずしっかり眺めて落ち着いて欲しい。
うん、「そう」なんだ。済まない。
SAN値直葬って言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この事件の真相を調べようとしたとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「はいよる混☆沌」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、このページを用意したんだ。
じゃあ、SAN値チェックどうぞ!
邪魔しちゃ、ダーメ。ネ?
by ニャルラトホテプ
「お、おじょ、お、zy、あ、じょ、さ、おじょ、さ、ま、あ、も、もう死、申しわけ、ござ、いません、しょ、少々、お暇を……」
がたん、と本を落とし、目と鼻から血をどろどろと流し、老人は倒れた。
「じぃじ?」
「かぺ、か、かぺ、け、こかか、き、ひひひひひ、ご、がひ、ふは」
「じぃじ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




