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第12話 闇魔法の練習



 そして、翌日。


「想像以上に疲れが残っているわね……」


 私は家の廊下を歩きながら、そう呟いた。

 闇魔法の疲れというよりかは、あの呪いの影響を受けた疲れだろうけど。


 やはりあの呪いは酷いわね、あれをずっと受け続けているロメオは本当に大丈夫なのかしら。


「私も長い間、あの呪いを受けることになるのよね。何か痛みを和らげる対策を考えとかないと……」


 そうしないと魔法を発動し続けられないから、呪いを道具に移すのが遅くなってしまう。


 頭を冷やすとか? いろいろ試していこう。


 そんなことを考えながら屋敷の廊下を歩いていると、正面からヘランお義姉様とナルテス夫人がやってきた。


「あら、リオネさん。ごきげんよう」

「ごきげんよう、リオネ」

「ナルテス夫人、ヘランお義姉様、ごきげんよう」


 私がカーテシーをやると、ふふっとナルテス夫人が笑う。


「まだまだ綺麗なカーテシーとは言えないわね、リオネさん」

「ええ、そうね。もう少し腰を曲げないといけないわ」


 うん、また言ってくるのね。


 最近は夫人とお義姉様が私と廊下ですれ違うたびに、立ち振る舞いや仕草などのマナーを指摘してくる。


 私は令嬢らしい振舞いをまだできていないので、指摘するところはまだまだありそうね。


「ご鞭撻ありがとうございます、ナルテス夫人。お義姉様」

「……ふん」


 甘んじて受け入れよう、これは私の落ち度だから。


 それに注意されるところはちゃんとしているから、今後気をつけていけばいい。


 私のマナー上達に役立っていることを知っているのかしら、この二人は。


 でもやられっぱなしも嫌なので、軽く仕返しておこう。


「それはそうと、お義姉様。あの二人はお元気ですか?」

「二人? 何のことです?」

「ヘマとララのことです」

「っ、知らない名前の二人ですね」


 しらばっくれるつもりね。


 でも確かにあの二人はもう、お義姉様の取り巻きにはいない。

 私を懐柔して信頼させてから裏切る、というお義姉様の「お願いごと」を上手く実行できなかったから。


 辺境伯令嬢のお義姉様は魔法学校ではBクラスだけど、貴族として立場は上だ。


 ヘマとララは男爵令嬢、彼女達を切ったようね。


 あの二人は切られて今後の社交界の立ち回りは大変かもしれないけど、知ったことではない。


「あら、お義姉様のご友人にいたと思ったのですが」

「知りませんね、そんな二人は」

「そうですか。ではなぜその二人は、私が婚外子だったことを知っていたのでしょうか」

「っ……」

「私はもちろん喋っていませんが、お義姉様じゃないんですか?」

「も、もちろん言っておりませんわ」

「そうですか。なら真相を確かめるために、お父様に報告したほうがいいですね。私が婚外子ということが噂になっているかもしれない、と」

「っ、それは……!」


 婚外子であることを秘匿する、というのはお父様が決めたこと。


 それを破って取り巻きの令嬢達に話したのはヘランお義姉様。


 お父様に「婚外子ということが広まっている」と言えば、その元凶を確実に探し当てるだろう。


 ヘランお義姉様が漏らしたということを。


「婚外子ということが広まってもそれが事実なんだから、しょうがないじゃないの」

「お母様……」

「どうせ魔法学校を卒業したら隠し通すこともできないんだから、それが早く広まっただけよ。あなたが平民の血を引いた外れ者だってことが」


 ナルテス夫人は扇子で口元を隠して笑っているようだが、厭らしい目が隠れてはいない。

 本当にこの人達は私が嫌いなようね。


「外れ者じゃありませんよ。私は辺境伯家の籍に正式に入っていますから」

「ふん、私が当主だったらすぐに外すのに、運が良いのね」

「……ええ、ナルテス夫人がアンティラ辺境伯家の『女主人じゃなくてよかった』です」

「っ、あなた……」


 ナルテス夫人が怒りで目を見開いた。


 彼女は、辺境伯家の女主人ではない。

 他に第二夫人がいるとかではないが、女主人としての仕事をしていないのだ。


 理由は単純に、その能力がないから。


 社交界などで役立つマナーや振舞い、ダンスは完璧だということは聞いている。


 でも嫁いでからの女主人としての仕事はできていないのだ。


 だからナルテス夫人は普通の女主人がやるような仕事をしていない。

 辺境伯家の本邸や別邸の予算管理権、使用人の人事権などを持っていない。


 前は持っていたようだが、失敗を続けてお父様が執事長に代わりを頼んでいるようだ。


 だから辺境伯家では「ナルテス夫人は女主人じゃない」と言ったりするのは厳禁なのだ。


「私を馬鹿にして……!」

「私は事実を言っただけですが?」

「外れ者が、いい加減に――」


 ナルテス夫人がこちらに向かって大股で近づいてくる。


 扇子で顔を殴ろうとしているのだろう、前世の記憶を取り戻す前に何度もやられたことだ。

 だがもう、黙ってやられる私ではない。


 そうだ、闇魔法の実験してみよう。


 半身にして右手を後ろに隠す、その陰で闇魔法を発動して黒い靄を出す。


 この黒い靄は触れるだけで相手の動きを阻害する効果がある。


 黒い靄を床に這わせるようにして、夫人の足元まで持っていく。


 すると……。


「――えっ、きゃっ!」


 足の動きが阻害されて自分のドレスの裾を踏んでしまい、後ろ向きに転んでしまうというわけだ。

 尻餅をついて床に手を置いたナルテス夫人、その床にはお義姉様のドレスの裾もあって……。


「え、あっ!」


 ヘランお義姉様も倒れこんでしまった。


 うん、実験成功ね。

 まさか二人ともドミノのように倒れるとは思っていなかったけど。


「お母様、なんで私まで……」

「ご、ごめんなさい、ヘラン。わざとじゃないの」


 二人が転んでいる間に去ろうかしら。


「お二人で転んで、仲睦まじそうで羨ましいですね。外れ者はお暇させていただきます」


 さっき二人に注意されたカーテシーを行って、私はその場から去る。

 後ろから「待ちなさい!」とか聞こえてきたけど、追ってくる気配はない。


 二人が着ているドレスは無駄に豪華なので、起きるのが大変なのだろう。


 ロメオを救うために闇魔法の練度を上げないといけないのだから、彼女達に構っている暇はないのだ。


「闇魔法を普通に使えるということを学んだのは収穫ね。あとは呪いを移す魔法も頑張らないとね」


 私はそう呟きながら、今日の放課後にロメオを説得するための言葉を考えることにした。



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― 新着の感想 ―
ちょっとここはおかしいです。『当主』というのはここでは家督を継いで爵位を持つ人のことなので、この場合は辺境伯様のことです。辺境伯夫人は、『女主人』になるはずです。貴族社会は基本男社会なので、国によって…
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