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第13話 ロメオの気持ち


 ロメオ・サルトヴァーレは、優秀な子供だった。


 四歳頃からその才能を発揮していて、王太子教育を難なく学んでいった。


 一個上の第一王子であるルキーノ・サルトヴァーレよりも優秀で慈悲深く、次の王太子は決まっていたも同然であった。



 ロメオも、自分が王太子になって国王となることを疑っていなかった。


 それは慢心などではなく、ただの事実であったから。


 自分はサルト王国の民を支えて、暮らしを豊かにする。

 小さい頃からそれがロメオの目標でもあり夢でもあった。


 自分を産んだ母親、育ててくれた乳母や使用人達の笑顔を見ることが好きだった。

 人を喜ばせることが好きだった。


 城下町に馬車で行った時に、馬車から人々の暮らしが見えた。


 自分と母親が乗っている馬車に向かって、笑みを浮かべて手を振ってくれる人々がいる。


(国王になれば、この人達を笑顔に……幸せにすることができるんだ)


『民の笑顔を、人々の未来を支えられる人間になるのよ』


 国母である母親にそう言われていて、人々に笑顔を向けられている母親を尊敬した。

 いつか自分も、そんな風になりたい。


 幼い心ながらに、ロメオはそう思ったことを忘れずにいた。


 そのためにいろんな勉強をして、いろんな人と関わって――順調だったのに。


 ロメオが八歳を迎えた時に、順調だった王太子までの道のりは閉ざされた。


『あああ、あ、あああぁぁ!?』


 王太子宮の中で、いきなり呪いを受けた。

 呪道具を使った者は使用人で、その場ですぐに捕まった。


 呪いはとても強力で死ぬこともある呪いだったが、使用人が呪道具を使い慣れていないこと、王太子宮だったので腕利きの宮廷魔法使いが何人もいたことで、ロメオは死ぬことはなかった。


 しかし、呪いはロメオの身体に残ってしまった。


 目だけを覆っていると思われている呪いの黒い稲妻は、実際は頭皮まで広がっている。

 目や頭に激痛がずっと走っているので、ロメオは呪いを受けて目覚めた後も、何度も痛みで気絶していた。


 数カ月後、ようやく人と話せるくらいに痛みに慣れた頃には、ロメオの環境は全て変わっていた。

 ロメオを狙った使用人はもちろん処刑されており、その家族や親戚まで処刑。


 しかし誰もがわかっていたことだが、使用人は独断で動いたわけじゃない。


 確実に第一王子の一派、第二王妃の命令でやったのは明白であった。


 第二王妃は国母となるロメオの母親を憎んでいて、その息子のロメオも邪魔だと思っていた。


 それは周知の事実だったのだが、第二王妃が仕掛けたという物的証拠はなく、第一王子や第二王妃には罰は何もなかった。


 ロメオは王太子宮に住んでいたが、療養もかねて別宮に移された。

 その一年後に、第一王子のルキーノが王太子として認められた。


 呪いを受けてから一年ほどが経ち、痛みに慣れて人前に出られるようになった頃には――その差は歴然だった。


 今までロメオの味方をしていた者が、ルキーノの下についていく。

 親しくしていた者に、目が見えなくなったというだけで見下されて離れていかれた。


 目が見えないから侮蔑していることがわからないと思っているようだが、ロメオは代わりに耳が良くなった。


 だから、その者達の声に侮蔑の色が入っていることを容易に聞き分けられた。


『ロメオ様、申し訳ありません……! 私がいながら、守れずに……!』


 呪いを受けた時に、隣にいた乳母が泣きながら頭を床につけて謝る。

 ロメオのことを息子のように想ってくれる乳母は『私が呪いを受ければよかった』と何度も何度も後悔を漏らしていた。


『僕は大丈夫だよ。ありがとう』


 ロメオは自分の周りに残ってくれた味方のために、激痛に耐えながら作り笑いをするのが上手くなった。


 いつまでも自分の境遇に嘆くこともできないので、目が見えず激痛に耐えながらも日々を過ごした。


 できれば、視界を失う前の日常と同じように。


 王太子教育を続けて、いろんな人と会って見聞を広げて……だが、無理だった。


 目が見えないことで勉強は滞り、目が見えないからと王子に頭も下げない者達と会話をするのは酷く苦痛だった。


 勉強は頑張って続けたが、社交界に出ることはやめた。


 ロメオは優秀だからこそ、もう無駄だと悟ってしまったから。


(自分にはもう、未来はない――)


 そう考えたロメオだが、それでも今までやってきた勉強などを辞めることはできなかった。

 彼にとっては、怠惰な日々を過ごすことしかできなかった。


 そんなロメオは十六歳になり、魔法学校に入った。


 だがロメオが呪いで目が見えないことは有名で、魔法学校のAクラスに通うと多くの視線を感じていた。


 目が見えなくても、不愉快な視線であった。

 だからロメオはAクラスに通うことはやめて、図書室に通い出した。


 授業は出られないけど、図書室では本が読める。


 従者を連れていないので音読してもらうことは無理だが、点字で書いてある本が多いので問題はない。


 多少、読むのに苦労する程度だ。

 そう思って、魔法学校に通い出してから一カ月。


 ――転機が訪れた。


 ある日の放課後、あまり人が訪れることない図書室の奥のテーブルスペース。


 そこに、一人の女性が現れた。


『失礼、正面いいかしら?』


 澄んでいる綺麗な声だった。

 ロメオが目元に包帯を巻いているのに、ただ普通に声をかけてきた。


 侮蔑も憐れみもない、普通の声色だった。


 その後は集中して本を読んでいたようだが、ロメオは彼女のことが気になっていた。

 そして……。


『読んであげましょうか?』


 その一言で、彼女――リオネとの関わりが始まった。


 ロメオが点字でしか読めないから、代わりに読んでくれた。

 とても気遣いができる優しい子で、音読も聞き取りやすかった。


 正直、本の中身よりも聞き心地がいい声色に耳を奪われていた。


 それからリオネと話し、合同魔法で混合魔法をやってみた。


 とても興味深く面白かったが、失敗してずぶ濡れで汚れてしまった。


 魔法学校に通っている女性は貴族令嬢が多いから、申し訳ないことをしたと思ったのだが……。


『……ふふ、あはははは!』


 リオネは全く気にせず、楽しそうに笑っていた。

 汚れたから帰って、別宮で一人で過ごしていても、リオネの笑い声を思い出す。



(またリオネと話したいな……彼女と友達になりたい)


 ロメオが久しぶりに、何かを求めた瞬間だった。


 翌日、リオネとまた会うことを楽しみに図書室で待っていた。

 約束通りに彼女は来てくれて、また合同魔法などをしようかと思っていたのだが。


 リオネが、呪いを解く方法を見つけたと言った。

 それは画期的で、ロメオの呪いを他の道具に移すという方法だった。


 聞いたこともない方法だったが、全属性の混合魔法だったら知らなくても仕方ないとは思った。


 そしてリオネが全属性を持っていたので、彼女にその魔法をやってもらったのだが――。


『――いっ、たあぁ!?』


 呪いを移している時に、リオネにも呪いの効果が発動するということだった。

 ロメオはもう慣れてしまったが、最初は数カ月ほど歩くのも困難なほどの痛みなのだ。


 目も頭も割れるように痛む、そんな激痛をリオネに味わってほしくなかったのだが。


 彼女は、やり切った。


 二時間を超えるほど魔法をかけ続けてくれた。


 ほんの少しだけ呪いの痛みが薄まった気がする程度だが、もうそれ以上は無理をさせられなかった。


 だから、リオネには「もうこの方法ではやらない」と伝えた。


『……無理はさせられない。リオネ嬢はこれから未来がある令嬢だ。万が一、呪いの効果を受けすぎて、君に呪いが移って残ってしまったらどうする?』


 彼女が何を言っても、無理をさせるつもりはなかった。

 だから脅すようにそう言った。


 それなのに――。


『――あなたにも、未来はあるじゃない!』

『っ――!』

『目が見えるようになれば……いろんなものが見られるのよ。空だって、海だって、人の笑顔だって……』


 それを言われて、ロメオは思い出した。


 自分は、夢を持っていた。

 未来を、思い描いていた。


『民の笑顔を、人々の未来を支えられる人間になるのよ』


 国母である母親の言葉を、何年ぶりに思い出しただろうか。

 人々の笑顔を、未来を支えるという夢を持っていた。


 だけどその夢を、自分の未来を諦めた。


 目が見えないから、国王になれないから。


 それはもう受け入れたものだった。


 でも――自分の未来を、救おうとしてくれる人がいた。


「ん……」


 ロメオは眠りから目覚めた。

 窓の外を見るとまだ日は昇っていない。


 それを確認すると同時に、頭と目が痛む。


 いつも通りだ。


 目と頭の痛みでここ数年、熟睡したことはない。

 夜寝て朝まで目覚めずに寝るなどは、この呪いを受けてから経験したことがない。


 だけど、今日はいつもよりも眠れた気がする。


 おそらく、いや確実にリオネのお陰で呪いの効果が移っているからだろう。


 それだけでもありがたかった。


「……僕の未来、か」


 ずっと、誰かの未来を、誰かの笑顔を守りたいと思っていた。

 それこそが幼き頃の夢で、目標だったから。


 その夢と目標を諦めたのに、リオネはそれを救おうとしてくれる。


 本当に、いいのだろうか。

 彼女に頼ってもいいのか。


 この目と頭の激痛をまた味わわせてしまう。


 彼女は二時間ほど激痛に耐えた後に気絶してしまった。


 ロメオとしては、もうそんな無理をさせるのは絶対に嫌だった。

 でも――。


「……」


 ロメオは起きてから夜が明けるまで、どうするべきか考え続けた。



 ロメオの考えはまとまらず、時間は過ぎて魔法学校の放課後になった。


 昼くらいから魔法学校に登校して、図書室にいるロメオ。

 いつも通りに図書室の奥のテーブルスペースで点字で書かれた本を読んでいる。

 魔法の本を読んでいる時は、自分が呪われた第二王子だという立場を少しは忘れられた。


 王太子教育などの勉強は嫌いじゃないが、自分にはもう必要がないのにという思いが時々襲ってくる。


 今日の午前中も勉強をしていたが……その時の心境は、いつもとは違うものだった。


(もしかしたらこの勉強が、実を結ぶのかもしれない――)


 まだ呪いが解けたわけでもない、さらには呪いを解いてはいけないのに、そう考えてしまった。


 この呪いを解くということは、リオネに任せてしまうというわけだから。


 リオネにあの激痛を何度も何度も味わわせてしまうということだから。


 だけど――。


「ロメオ!」


 ここ数日で聞き慣れた、綺麗な声が聞こえた。

 声がした方向を向くと、小走りで近づいてくる女性が一人。


 リオネ・アンティラ。

 彼女のことは調べたが、十五歳までは平民として暮らしていたようだ。


 だからなのか、令嬢っぽくない振る舞いをすることが多い。

 ロメオは見えないが、彼女の動きを聞いているとわかる。


 まず普通の令嬢は、小走りで第二王子に近づいてくることはないのだから。


「リオネ、身体は大丈夫かい?」

「ええ、お陰様で。病室に運んでくれてありがとう、ロメオ」

「当然のことをしただけだよ」

「……」

「……」


 少しだけ気まずい雰囲気が流れる。

 昨日、リオネが気絶する前の会話のせいだろう。


「ロメオ、あなたの呪いを移すことについてなんだけど……」

「……うん」

「私としては、やっぱり諦めたくない。あなたの呪いを解いてあげたいの」


 ロメオの予想通りの言葉を言ってきた。

 決意したような声で、その声を聞けば彼女は諦めないことがわかる。


 本当は、やめてほしい。


 だけど――。


「リオネ、君は昨日二時間ほど僕の呪いの影響を受け続けて、気絶したんだよ」

「ええ、不甲斐ないわ。ロメオはこれを八年近くも受けているのに」

「不甲斐なくなんか……あれ、僕が八歳の頃に呪いを受けたって言ったかな?」

「っ、いや、その、なんとなくそう思っただけよ、ええ」

「そう?」


 第二王子のロメオのことを調べれば、いつ呪いを受けたのかなんてわかるかもしれないが。

 少し反応がおかしいのは気になったけど、まあいい。


「それで、君は二時間で気絶した激痛をこれからも受けてもいいの? あと数カ月もかかるんでしょ」

「ええ、その痛みを受けたいの。数カ月の間、絶対に」

「……なんでそこまでしてくれるんだい?」


 ロメオにとって、それが不思議だった。

 友達になった、と言っても出会ってまだ数日だ。


 数か月間も気絶するほどの痛みを受けてまで、相手の呪いを治したいと思うのだろうか。


「僕と君は知り合って間もないのに」

「それはそうだけど、これから一緒にいるんだから知っていけばいいじゃない」

「そうかもしれないが……友達だから助けるということなのか? だが自分で言うのもなんだが、僕が無理やり友達になりたいと言ったけど」

「そうね。でも私も友達は一人もいないから、友達だから助けるというわけじゃないけど」

「そうなのか?」

「ええ、前はいた気がするけど……いなくなったわ」


 リオネは十五歳まで平民で、魔法に目覚めてから辺境伯令嬢になったと聞く。

 いろいろあったのだろう、ロメオは詳しくは聞かない。


「だったらなおさら、なぜ僕を助けるんだ?」

「うーん、いろいろ理由はあるけど……単純に、私がロメオを助けたいからよ」

「それだけなのか?」

「十分でしょ。私は友達になったロメオと、目を合わせて笑顔で笑い合いたいの」


 リオネがそう言って微笑んだ、気がした。


 その温かい言葉が、ロメオには泣きたくなるほど嬉しかった。


(――自分と笑い合うという未来を、思い描いてくれる人がいる)


 自分の未来なんて、もう消えてなくなったものだと思っていた。


 なのに目の前にいるリオネは、簡単に、当然のように思い描いてくれる。


「……ありがとう、リオネ」

「えっ? まだ何もしてないわよ」

「いいや、しているよ」


 ロメオ自身の未来を思い描いてもいいと思わせてくれた。

 それだけで十分なくらいだ。


「そう? それで、私はあなたと痛みを共有してもいい?」

「……お願いしてもいいのかい、リオネ」

「もちろん、そのために私はここに来たんだから」


 また優しく笑ったであろうリオネ。


 その顔を、早く見たい。


(どれだけ美しいのだろう、君は)


 目が見える未来が、楽しみになった。


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― 新着の感想 ―
目が見えてないのに、外を見て朝日が出てないことを知るんですか? 明かりはわかるの? 見えないはずなのに。この描写が違和感ありすぎます。
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