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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
エンゾ

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23/44

10-1

「エンゾ?」

 (シン)が訊いた。彼が祠の前で得た「北の果て」を皆に伝えたとき咲がエンゾへ行こうと言いだした。だから土地か街の名前だと推し量れる。だが、その聞き慣れない名前には今ひとつピンとくるものがなかった。

「そのエンゾというのは北の果てと関わりがあるのでしょうか?」

璃羽が咲の代わりに答えた。

「エンゾはこの国の北方にあるとても大きな島だ。前にそこの領主から注文を受けて刀を百振り納めたことがある。」

「ちなみに領主のいるお城は玄関口の港町コダから島の奥へ入った『エンゾのへそ』と呼ばれる、島の中心にあるんだ。刀を納めるときに一度だけ行ったことがある。えらい遠かった。でかい熊や鹿がわんさと出てくるしな。」

 そういって太ももにある古傷をジャンティたち3人に見せた。

「これはお城へ行く途中熊に襲われたときの傷だ。あの時はもうおだぶつかとヒヤヒヤしたが、咲を残して死ねんと踏ん張って何とか撃退した。アハハ。」

 そんなところでも妹ばかが役に立っていたとは。璃羽の隣で咲が呆れた顔をしている。

「あちこちから刀の注文を受けているんですね。それだけ皆さんの腕がいいってことですね。」と、ジャンティが感心しながら言った。璃羽は腕が良いと言われて上機嫌に。『自分もそんな凄腕の刀鍛冶になりたい』と改めて思った。


 さっきから黙って聞いていたノイレンが口を開いた。

「そのエンゾまでどうやって行けばいい?島ということは船が必要だよね。」

 それには咲が答えた。

「北航路の船に乗ればエンゾまでは数日で行けますよ。」

「北航路?」

「はい、先日私たちがこの村へ来たときに乗ったのは南航路の船です。北航路は国を挟んで反対側の海から出ています。」

 ノイレンが目を丸くして、

「驚いた、海が国の両側にあるのか。」

「このジパンはとても細長い島国なので南北で海が違うんです。」

 咲が少しばかりドヤ顔で説明する。

「里から少し行ったところに北と南を結ぶ街道がある。そこを通っていけば2日で北側に出られる。」

 璃羽がその街道のある方向を指さしながら補足した。

「では明日にでも出発しましょう。」

 (シン)が皆の顔を見た。


    *


 その前日璃羽と村長(むらおさ)の間で一悶着あった。

「長様魔剣を私に貸して下さい。」

 璃羽が村長の前で正座し、両手を床に付きながらまっすぐに村長の顔を見つめて懇願している。

 咲からあの3人と共に『魔』を打ち祓う旅へ出ると告げられた璃羽は自分もついて行き咲を守ることに決めたと村長の家へ話しに来ていた。

「村の仕事を放り出すのは感心せぬが、ぬしと咲がどうしてもあのよそ者たちについて行くというなら好きにせい。しかし、それと魔剣をぬしに授けるのとは別の話じゃ。」

 村長は火箸で囲炉裏の炭をいじりながらそう言った。目は璃羽を見ていない。

「そこをなんとか!」

「くどい!!」

 璃羽は怒鳴る村長に慌てた。普段温厚な村長がこのように感情をあらわにすることは滅多になかった。璃羽は恐れを抱き、手が震えた。

 しかしここで引き下がっては魔剣を手に入れられない。それが無いということはこの先またあの異形が襲ってきたとき咲を守れないということだ。

 ドンっっ!!

 璃羽は思いきり土下座した。勢い余って床板に額を強打した。床が抜けたと思うほどの大きなその音に村長は一瞬ビクリとして火箸を握る手が止まった。視線を上げると璃羽の土下座姿が。

 璃羽は額に血がにじむのを感じながらも床から頭を離さない。

 村長は黙ったまま頭を下げ続ける璃羽を睨みつけ、

「やめんか。いくらぬしの頼みでも魔剣を渡すわけにはいかん。あれは里の守り刀じゃ。それを里の外へ持ち出すことなど認めん。」

 璃羽はひたすら頭を床にこすりつけている。村長は璃羽から視線を外しまた火箸で炭をいじり始めた。

 どのくらいの時間が経っただろうか。璃羽にはとても長く感じた。しかし今頭を上げるわけにはいかない。そんなことをすれば村長の思うつぼだ。璃羽にとっては妹の咲は自分の命よりも大切だった。その咲を守るためなのだ。璃羽も一歩も譲れなかった。

 村長は璃羽を無視して自在鉤(じざいかぎ)に吊していた薬缶を取りお茶を淹れてすする。刀鍛冶の里らしく自在鉤の横木は刀の柄の形をしている。

 村長がぽつりと独り言のように話し始めた。

「ぬしのふた親が流行病(はやりやまい)で死んでから何年になるかの。ぬしはまだ(とお)くらいだったか。咲はかなり小さかったの。」

 璃羽が額を床に付けたまま答えた。

「おっ()うとおっ()あが死んだのは二昔(ふたむかし)前です。咲はまだ三っつでした。」

「他に身寄りの無いぬし等を一人前になるまでわしが面倒を見たんじゃ。」

「はい。長様には感謝してもしきれません。」

「親を亡くしてからのぬしは兄としてだけでなく、親代わりとしてもよく(妹を)可愛がってきた。」

 璃羽は無言だ。

「周りから妹ばかと呼ばれても、なによりも妹を可愛がっておる。見上げたものじゃ。」

 璃羽の妹に対する一心の愛情を村長は誰よりも理解していた。

 璃羽は土下座したまま恐縮している。

「なあ璃羽よ。そんなぬし等があのよそ者たちとよくわからん征伐の旅にいく必要が本当にあるのかの?わしにはとんと納得がいかん。」

「俺も本音を言えば『魔』の征伐などどうでもいいです。ただ咲を守りたいだけです。けれど・・・」

「なんじゃ?」

 湯飲みを持った手を止め璃羽を見る。

「もしよそ者(彼ら)のいう『魔』を斃さなければ、またあの異形が村を襲ってくるかもしれません。あの異形は『魔』の分身だと言っていましたから。俺にはそのたびに咲を守ってやれるかどうか正直自信は無いです。」

 村長は黙って耳を傾けている。

「そりゃあ、あの魔剣があれば撃退できるでしょう。でも魔剣は一振りしかありません。それでは村を守ることは難しい。ならば彼らと共に行き、『魔』そのものを斃せばそんな心配は無くなるのではないでしょうか。それはとどのつまり俺にとって咲を守ることにも繋がります。」

 額を付けた床がきしむ音が聞こえる。

 村長はお茶を飲み終えると静かに囲炉裏端に湯飲みを置いた。土下座したままの璃羽の姿をまるで親が子を見るような目で見ている。

 たった一人の家族である妹のことしか頭に無いと思っていた璃羽が村のことも考えられるようになっていたことに育ての親として喜びを感じた。

「立派になったな、璃羽。」

 そう言うと立ち上がり、「付いてこい」と、璃羽を促した。


    *


 魔剣を納めてある祠の前に村長は璃羽を連れてきた。

 村長は祠に向かって両手を合わせ、深々とお辞儀する。璃羽も見習った。

 一つ一つ錠を外し、魔剣を(うやうや)しく取り出して、静かに璃羽の前に差し出した。

「持って行け。」

「長様・・・」

 璃羽はタキシードソードに手を付けられずただ村長の顔を見ている。

「わしの気が変わらぬうちに早く受け取れ。」

 璃羽は恐る恐る両手で剣を受け取った。

「一つだけ約束しろ、璃羽。」

 璃羽は両手にタキシードソードの重みを感じながら村長の目を見る。

「『魔』を打ち祓い村を守れ。そして咲と二人無事に戻ってこい。よいな。」

 村長の目は子の旅立ちを喜びつつ、心配でならない親の目そのものになっていた。

「はい!必ず咲と二人で帰ってきます。ありがとうございます、長様。」

 璃羽は目頭が熱くなった。


 翌朝ジャンティ、ノイレン、(シン)、璃羽、咲の5人は刀鍛冶の里をあとにした。


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