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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
北へ

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9-3

 ジャンティはうまく話すことができず、自分自身にもどかしさを感じながらじっと咲の瞳を見つめていた。

 咲はふっと息を吐いて、

「あなたのその大切な人を助けるためには『魔』を斃す必要があるのは理解しました。」

 ジャンティの顔がぱっと明るくなる。

「それじゃ、」

「待ってください。」喜びそうになるジャンティを手で制して咲が続ける。

「その戦いに兄が行く必要が本当にあるのでしょうか。兄は一度魔剣に呑まれて死にかけてます。たとえあなた方と一緒だとしてもまた魔剣に呑まれるかもしれない。そんなことはないという保証はありません。別の腕に覚えのある方のほうがよいのではありませんか。」

「この村に璃羽以外で腕の立つ奴がいるかい?」

 ノイレンが強めの口調で訊く。

「この村でなくても、よその街にはいくらでもいますよ。」と、咲が返すと、

「村長は私らにでさえ(魔剣を)貸せないと言ってるんだよ?」

「それは・・・」言葉に詰まった。

「『魔』を斃すにはあの剣が必要だ。そしてこの村の人間にしか扱わせないとなれば璃羽以外にいないだろう。」ノイレンが詰め寄る。

 咲は瀕死の兄の姿を思い出して、二度とそんな姿は見たくないと思った。それにまた剣に呑まれて深手を負うことになったら彼らに迷惑をかけてしまうと懸念した。咲の目が揺れている。その心情を察したノイレンが、

「たしかに、咲ちゃんの言うとおりだ。璃羽がまた剣に呑まれないとは言い切れない。けどね、それは璃羽しだいさ。」

「兄しだい?」

「そうさ。『魔』を斃す動機なんて正直なんでもいい。大事なのはどんな状況に陥ってもそれを必ずやり遂げるという強い意志さ。心の中にそれがあれば大丈夫、呑まれやしない。その意志が正気を保ってくれる。もしそれでもまた呑まれたときは私が璃羽を現実に連れ戻してやる。」

 凄腕の剣士であるノイレンの言葉には重みと迫力がある。咲はその言葉を聞いて安堵感を抱いた。しかしあの兄のことだ、戦いの最中に余計な(私の)ことを考えて意志が揺らぐ危険も十分にあると咲は予想した。

 咲は目を閉じて深く息を吸い、ゆっくりと全て吐き出し、目を開いた。何か覚悟を決めたらしい。きっとノイレンを見据え、

「私もついて行きます。」

 それが咲の答えだった。

「え?!」3人が声を揃えて驚いた。

「え?」逆に咲が驚いた。

 咲の目の前にはジャンティとノイレンの2人しかいない。それなのに3人分の声が聞こえたからだ。恥ずかしそうに(シン)が、先ほどノイレンが出てきたのと同じ場所から姿を現した。

「いやあ、咲さんのお言葉に思わず声が出てしまいました。」と照れ笑いしている。

 咲が呆れたように「あなたがた、よってたかって。」

 ジャンティは大きな口を開けて固まっている。ノイレンはばつが悪そうな顔で言った。

「すまないな。でもどうしてもあの剣が必要なんだ。わかってほしい。」

「仕方がないですね。兄も、私がみなさんと一緒に行くといえば、悪い虫につきまとわれないよう俺もついて行くぞとなるでしょう。」

 苦笑いともとれるほほえみを浮かべた。


    *


「何ぃ~、俺も行くぞ!!」

 咲が3人に同行すると伝えた結果、璃羽は予想通りの反応をした。慌てて布団から飛び出し、帯を締め直す。

「お前一人で行かせたら悪い虫がたかって来るのは間違いない。俺がついて行って守ってやる。」

 妹ばか炸裂である。

「お兄ちゃん、わたしも()()()()()年なんですけど?」

「いかーーん!お前の婿は俺がしっかり見定める!」と息巻く。

「はいはいはい。みなさんが呆れるからそのへんにして頂戴。恥ずかしい。」

「それよりお兄ちゃん、村長様にお願いして魔剣をお借りしてきてよ。」

「そうだな、あの剣があればお前を守るのにとても役に立つ。」

 咲ははあっと深いため息をついた。


    *


 咲が璃羽のもとへ話を持って行ったその頃、(シン)は一人でタキシードソードが納められている祠の前にいた。

 左手に水晶玉を載せ、一心にその中心を見つめている。水晶玉を通して像の歪んだ祠が見える。

 (シン)の勘が囁いた。

「北の果て。」

 小さな声で呟いた。

 おもむろに空を見上げ、青い空の、遠く、その奥を見つめて、

「北の果てに『魔』の本体がいる。」


    *


 弥と澪の通う高校。一学期の期末試験の真っ最中だ。

 澪はすらすらとシャーペンを解答用紙に滑らせている。一方弥はとある問題のところでペンが止まっていた。答えが分からず、ペンの頭をおでこにこつこつと当てながら考えている。そのペンの頭を当てている場所には三日月形の傷があった。先日の西郷(せご)どんの唐竹割りの名残だ。毎朝洗顔の際に鏡を見るたびこれが澪でなくてよかったと思う弥だった。

 ちょうど今試験官をしている志摩津先生は先日弥のその傷を見たとき、大好きな時代劇の主人公みたいだと笑い、「退屈男」とあだ名を付けた。どこまでも昭和な先生だ。

 否が応でもペンを置かねばならないチャイムが鳴った。解答用紙を前の席に渡して机に突っ伏す弥。やっと昼休みだ。

「腹減った~~。」

 昼はいつも学食の売店でパンやおにぎりを買って男子連中と食べていた。

 志摩津先生が教室を出て行くとき弥に声をかけた。

「退屈男、あとで職員室へ来てくれ。」

 隣の席の男子が弥に、

「なあ、退屈男ってなんだ?」

「知らん。志摩津の好きな時代劇のキャラらしい。」

「それと弥とどういう繋がりが?」

「知らん。」

 弥はどうでもいいと、ぶっきらぼうな返事を返している。

「やっぱり時代劇のキャラより、アニメキャラのほうがいいよな。その傷には赤い革ジャンにサングラスが似合うぜ。」

 隣の男子もどこぞの看護師と同じでヲタクらしい。弥の額の傷をあれこれ話題にしているクラスメイトをそのままにして弥は席を立った。

 澪が弥のそばへ来て、

「私も行こうか?」と小さな声で言った。

「いや、いい。俺一人で行ってくる。澪はお昼食べてて。」

 そそくさと出て行った。

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