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救い

「姉さん遅いね…」


「どうしましょう、この子達から目を離せないし」


「イルミナ、先にヨランダさんの所へ行ってて。僕は姉さんの様子を見てくる」


「…分かったわ」


「私も残ります」


「そうね、クリュウがいた方が怪我とかしてたらすぐ対処できるし」


「じゃあ、姉さんのいた街で待ち合わせでいいかな。そっちの方が人目につかないし、孤児院で待ち合わせるより距離も短いから」


「そうね、ハリル。気をつけてね」


「うん、イルミナもアリュウもその子達をお願い」


イルミナが馬車を出すのを確認すると爆発のあった方へ向かった。


「ねぇ、死んだふりでもしているの?」


「っち」


くそっ、なんだコイツは!その辺の魔族なら余裕で殺れると思ったのに、ここまで強いやつだとは予想外だった。そもそもなんで魔族がここに居るんだ、ここは国境付近で警備が厳しく魔族は迂闊に立ち入れないはずなのに!…待てよ、部下の話じゃコイツらは5人という話だった。なのに何故こいつ1人しかいないんだ?………そうか、そういう事か。


「くくく」


「何がおかしい?」


「つまりは、時間稼ぎという事か」


「何を言っているの?」


「惚けても無駄だ、狙いは奴隷達だろ!」


「…」


「くっくっく、最初からお前の狙いに気づいていればもっと話が早かったんだがなぁ、俺のミスだ」


「だから何だって言うの?今頃気づいてももう遅いわ、今頃は街を出たはず」


「なぁ、奴隷達の首についてるやつ、あれが何だか知ってるか?知らねぇよなぁ、あれはな逃げられないために付けてるだけのもんじゃないのさ」


そう言うと懐から何か取り出した。何だろう何かのスイッチのようなものだ。


「おっと、それ以上近づくんじゃねぇぜ、これを押すと奴隷共の肩から上が無くなるんだからなぁ!そうさ、あの首輪は逃げ出したやつなんかの後始末するためのものなのさ!」


今わかった、醜いのは魔族でも人でもない。醜いのは心だ、心に住み着いている悪、それこそが私が憎むものの正体だったのだ。


「ゲスめ」


「ふはは、魔族に言われたくはないのだがね!」


ザッ


「おいおい、近づくなって言っただろ?」


ザッ


こいつ、奴隷共がどうなってもいいって言うのか?待てよ、そもそも魔族が人間のガキが何人死のうが関係ないはずだ。こいつは計算違いだったか!?


ザッ


「く、来るなぁ!押すぞ!押しちまうぞ!」


「押せよ」


こいつ!後で追いかけて全員取り返すつもりだったが仕方ない。


「ふ…ふひひひは、お前だ!お前が奴隷共を殺したんだぞ!今更後悔しても遅いからなぁ!」


「…」


「…あれ?」


なんだ?押せない、手に力が入らない?いや、正確には()()()()()()()


ヤンガタは自分の腕を見るとたちまち悲鳴を上げた。


「な、何じゃこらー!?」


押せるわけがなかったのだ、そこに自分の腕が無かったのだから。


「お、おおお、俺の腕がぁ!」


「これの事?」


アリスの足元にあるソレは間違いなくヤンガタの腕だった。


「ひぃ、ひぃ」


呼吸が乱れる、切り落とされた腕から血が止まらない。


「こんな物で人の命を扱うなんて…」


アリスはヤンガタが持っていた機械を地面に投げ捨てると、足で踏み割った。


「貴方もそうされる覚悟があるって事よね?」


暗闇に浮かぶ金色の瞳、それはまさに悪魔と呼ぶに相応しい光景だった。ヤンガタは今までの余裕はなく、ただ悲鳴をあげるばかりである。


「た、たすけ、助けてくれ!金ならいくらでも払う!」


ザッ


「頼むよ!このままじゃ死んじまう!」


ザッ


「もう悪いことはしねぇ!約束だ!」


ザッ


悪党を手にかけようとしたその時。


「姉さん!」


ピクッ


「は、リル?」


「姉さん、もう十分だよ。子供たちは全員…じゃないけど、助かりそうな子達はイルミナがヨランダさんの所へ運んだよ」


「だ…めよ」


「え?」


「こいつをここで殺らなきゃ、きっとまた同じ事を繰り返す」


「それは…」


「やらねぇ!もう二度と悪事は働かねぇ!約束する!」


「貴方は黙ってて!」


「ひぃ」


「姉さん…僕はどっちが正しいか分からない…でも、ひとつ言えることは、僕は姉さんに人殺しはして欲しくない」


「…」


「行って…」


「え?」


「行け!私の気が変わらないうちに!」


「は、はひぃ!」


ヤンガタは転げながら部屋を出ていった。


「姉さん、これで良かったんだよ」


「良くない、良くないよ!ここで死んでいった子供達の無念は誰が晴らしてくれるの!?アイツだけのうのうと生きているといのに!いつもそうだ、弱いものは我慢しなきゃいけない、強いやつの言いなりになるしかない!なんで!どうして!?」


「ここで、お姉様があの男を殺したとして、それで子供達がうかばれると?」


「クリュウ…」


「そんなの分かんない、でもあんなやつが生きているだけで不幸になる人が増えるなんて許せるわけないよ!」


「それは、お姉様の勝手な想像でしかありません」


「クリュウ!」


アリスは見えない動きでいつの間にかクリュウの目の前まで移動すると胸ぐらを掴んで壁へ叩きつけた。クリュウの身体は宙に浮くと、アリスはそのまま締め上げていく。


痛ッ(ツッ)


「じゃあ、あんたには何がわかるって言うのよ?奴隷のくせに豪華な家でぬくぬくと育ったあんたなんかに!!」


「…」


しばらくの沈黙


「確かに、あの男のやっていた事は許される事ではないかもしれません、ですが…あの男が子供達を奴隷にしなかったとして、はたして子供達だけで今までの間

生きてこられたでしょうか?」


「立場はどうあれ、今まで生きていたから私達が助ける事ができた、違いますか?」


「けど、だけど…」


「お姉様の言いたいことも分かります。ですが、私は奴隷になった事を後悔などしていません、もし奴隷じゃなかったらこうしてお姉様や、お嬢様、ハリル様と会えて居なかったですし、生きていれば、生きてさえいれば私達は例え奴隷でも歩いて行けるんです。だから私は奴隷であった過去を変えようとも変えたいとも思ったことはありません」


クリュウの胸元を締め上げていた手がゆっくりと下ろされる。


「…ごめんなさい、感情的になりすぎたわ」


「いいえ、お姉様の他人の悲しみを分かる心は私には無いものです。時々羨ましく思います」


「良かった、何事もなくて…姉さん足怪我してるじゃないか!」


「大丈夫よ、このくらい。それより急がないと」


「座ってください治癒します」


お姉様は他人の痛みがわかる分、自分の痛みには疎くなってしまったのだろうか、これ程の切り傷普通だったら痛みで立つことも出来ないだろう。


「姉さん大丈夫だよ、今頃イルミナは町の外へ子供達を連れて行っているはずだから。だから姉さんはまず傷を癒そう?」


「…」

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