奴隷
「そういえば肝心なことを忘れていた。思い出させてくれて感謝するよ」
「何言ってんだコイツ」
「金貨なんて持ってやがるんだ、もっと金を持ってるに違いない」
さて、聞き出すこともできたしそろそろ予定通りことを運ぶか。
バキバキ
「なんの音だ?」
「み、みろ!」
「ま、魔族!?」
「ひぃ!」
「落ち着きなさい、魔族といってもまだ子供じゃありませんか、それに相手は1人。早く捕らえなさい」
「そ、そうだなへへへ驚かせやがって」
「おいガキ怪我したくなかったら大人しく…」
アリスは右手を頭上に掲げる。すると、周りの空気がその先に収束するかのように渦を巻き出した。
ゴゴゴゴ
それは勢いよく打ち出されると天井を粉砕し、空中で鮮やかに爆発した。
「おい、あれを見ろ!」
「アジトの方だ!」
辺りの野党達はその爆発につられてアジトの方へと走り去っていく。
「姉さんの合図だ!」
「よし、作戦開始」
手錠を魔法で破壊すると、次々に馬車に乗せていく。しかし、数人はもはや息をしていなかった。
「くそっ、この子も息をしてない。もう少し早く来ていれば…」
「ハリル、今は助かる子達の事を考えて」
「…うん」
「み…ず…」
クリュウは先程の目の見えない少女の所へ来ていた。
「もう大丈夫です、助けに来ました」
「誰?…痛いのは…やめて…」
クリュウは少女に治癒魔法をかける。
「…これで大丈夫です。もう安心ですから、さぁ一緒に逃げましょう」
「良かった…もう…痛く…な…」
そう言いかけたところで少女は動かなくなった。
…治癒はしていた。でも衰弱が酷くて体力が尽きてしまった。少女は骨と皮だけで持ち上げると凄く軽く感じた。
「クリュウ」
「アリュウお姉様、私は…こんな小さな少女すら救えないのでしょうか…人とは、こんなにも軽いものなのでしょうか?」
「奴隷は、何をされても文句は言えない。私達はお嬢様と言う良識ある方にたまたま拾われただけ、これが本来の奴隷といものの姿です」
「この子も奴隷になりたくてなったわけじゃないはずです」
「現状を作り出したのは、奇しくも我々魔族と人間の争いです。いえ、魔族同士、人間同士でも争いはあります。彼女達はその犠牲者です」
クリュウの目から涙が零れる。
「…」
「泣いたのなんて、何時ぶりでしょうか。お嬢様に拾われる前は、泣くとうるさいと言って何度も殴られて…それ以来涙というものは枯れてしまったと思っていたのに」
「クリュウ…ならその気持ちを大切にしなさい。私達奴隷は泣く事も笑う事も許されない立場です。私はまだそう言った感情はありませんが…貴方は私と違って人らしい部分がまだ残っているのですね」
「アリュウお姉様…」
「クリュウ、私達は産まれる前から一緒だった。だけど今は私には無いものを貴方は持っている。正直、悔しいけど、それは貴方にしか無いものよ。私もいつか誰かのために泣く事が出来るかしら」
「きっと出来ます。だって私達は産まれる前から一緒、双子なのですから。私に出来た事はきっとアリュウお姉様にもできます。さぁ、他の子供達を救いましょう」
クリュウは少女の亡骸をそっと地面に置き、祈るように少し目を閉じると、他の奴隷の元へと向かった。
アリスが放った魔力弾は天井を崩し、辺りは土煙に覆われていた。
「ゲホッゲホッ、くそ!何だってんだ」
「子供だからと見くびっていたようですね、お前達一斉にやりなさい」
「このガキ!」
野党が一斉に武器を抜く。アリスもそれに合わせて再び魔力弾を1つ目の前に出現させた。
1人が後ろから襲いかかるがそれを見向きもせずに合図を送ると、魔弾が勢いよく野党の顔面に叩き込まれる。
「フゲッ」
情けない声を上げながらその場で失神した。それを見て今度は一斉に襲いかかってくるが、魔弾はアリスを守るかのように近づいてくる野党を次から次へとノックアウトしていく。
「オゴッ」
「ケブッ」
「こんのっ!」
野党のひとりが魔弾を捕まえるがその瞬間、火花が散る。
バヂィ!
「グハッ」
「それには電撃が付与されてるから迂闊に触ると痛いよ」
気がつくと野党たちは全て床に倒れていた。
「ほぅやりますね貴方、子供なのにここまでやるとは、魔族というのは本当に怖いですねぇ」
男は、軽く笑いながらパチパチと手を叩いているだけで動こうともしない。
「いつまで余裕こいてんのよ」
アリスの合図で魔弾がヤンガタ目掛けて飛んでいく。
ガシッ
ヤンガタがその魔弾を手で受け止めると再び火花が散る。
「その辺の野党共ならまだしも、私にはこんなもの通用しませんよ」
ギギギギ
ヤンガタが力を込めると、魔弾は押しつぶされ消滅した。
「やるわね、奴隷商人のくせに」
「あなた、1つ勘違いをしているようですね」
「勘違い?」
「私達は行き場のない子供たちに食事を与え、住むところを与えたのですよ?ただ死んでいく定めの子供たちに奴隷という価値を与えたのです。感謝される覚えはあっても恨まれるような覚えは無いのですが」
「話すのは無駄のようね、もう喋らなくていいわ。その臭い口を直ぐに塞いであげる」
「クククっ生意気な子供にはキツいお仕置が必要みたいですね」
スゥ
!、消えた、魔力感知でも分からない。どこに言った?
「ここですよ」
ふいに後ろから声がする。アリスは慌てて振り向き攻撃するが、それは空を切った。
全く場所を掴めない、こいつのスキルか何かなの?
「ふふふ、凄いでしょう。魔族なんてものは魔法に頼りきっているだけの存在、魔法なんてものは撃たれる前にやるんです…こんなふうにね!」
ドスッ
右足に鈍い痛みが走る。
「どうです?反応すら出来ないでしょう!」
「…」
「ふん、無反応ですかつまらないですね」
スゥ
再びヤンガタの気配が消える。暗い室内、魔力感知にも反応しない、奴を捉えるのは難しい、なら奴が姿を現したところをやる。
ドスッ
今度は左足に痛みがはしる。
「アッハハハ、どうです?痛いでしょう!このナイフは特別でしてね、肉を抉るように作られているんです!こんなふうにね!」
ブチブチッ
刃が足にくい込んでいく。
「魔法は集中力が途切れると使えない。この激痛の中ではまともに使うこともできまい!」
ガシッ
「捕まえたわ」
「な、なに!?」
アリスはヤンガタの首根っこを捕まえた。
馬鹿な、両足を抉られてまだ反撃する気力があるとは!それにこの力、子供の握力じゃない!
「生憎、私は痛みに疎いの」
ブゥン
魔弾が数個出現すると身動きの取れないヤンガタに叩き込まれた。
ガハッ
ドドドドド!!
「立ちなさい、この程度ではまだ死んでないでしょ」
まだだ、こいつに後悔させるにはまだ痛めつける必要がある。




