94:マジ、命を賭して飛ぶ。
海岸沿いにそびえ立つ岩壁の上へと飛ばされていくぷぅを追いかけ、必死に走る。
俺の命が掛かっているからな。
けど、岩壁の上までどうやって登る? ロッククライミング技能なんてあるのか?
いや、あったところで習得してないんだ。間に合わない。
俺……死ぬ!?
「ぷうぅぅっ」
何故俺は飛べないんだ!
俺が飛べれば……とべ……
はっ!?
「ぷぅ! 『リターンオブ――』」
空中だろうと飛べるっ。俺は飛べる!
強くイメージしろ。
ぷぅの所に。ぷぅの所に。ぷぅの所に。俺が生き延びる為に!
「『テレポート!』」
景色が変わった瞬間、目の前にぷぅの丸いフォルムがあった。
空を蹴り、手を伸ばす。
《ぷぷぅ!》
「あぁ、来たぞ、ぷぅ」
ぷぅを両手で優しく包み、来るべき『自動転送』に備え――
《ぷぷぷ》
……あぁ、落下してるな。なんでだろうな。
あ、さっき空を蹴ったのが、移動と捉えられたのか。
「マジックさん!?」
「マジック氏、落ちるぞ!!」
分かってるっ。分かってるけど、どうすりゃいいんだ。
リターンはCT中だし、浮遊魔法はないし。
忍者なら……ムササビの術とかって飛ぶんだろうけど。
忍者、未実装だよな。
いや!
職業がそもそも未実装なんだ。
なせばなる!
「ぷぅ、巣の中に入れっ」
《ぷ?》
「どうするの、だって? こうするのさっ」
マントの裾を左右の手で、それぞれぐわしっと掴む。
そして……
「広げる! とうっ」
ばさばさと風を受け、まるでパラシュートのようだ。
「せ、成功だぞぷぅ!」
《ぷぷぅ! ……ぷ》
「凄いけど?」
《ぷぷぷぅぷぷぅ》
「落ちる事に代わりはない?」
……そうだったぁ!
ヤバいヤバい!?
焦ってじたばたすると、更に落下速度は加速する。
飛べ、飛ぶんだ俺!
地面を蹴って……蹴って……あれ?
「足、付いたぜ」
《ぷ》
あらほんと、とぷぅも地面に降りる。
「マジック氏大丈夫かぁ」
フラッシュの声が聞こえて振り返るが、それは随分下からだ。
改めて見下ろすと、岩壁の真下に二人の姿が見えた。
うん。随分高い所に飛んだもんだ。
リターンの射程距離が十五メートルだし、そのぐらいの高さなのか。
「マジックさん。そこから何か見えませんか?」
「何か……あ、そうか」
せっかく高い所に上ったんだ、ここからなら……
えぇと、海岸の方は――うん。ずぅっと岩場が続いてるな。モンスターの姿も見える。
反対側は……え?
岩山かと思ったそこは、まさに岩の壁……城壁ならぬ村壁!?
「あぁ、こちらマジック。村が見えます。どうぞ」
「「え?」」
一旦テレポで下に降り考える。どうやって二人を上に運ぶか。
「テレポは一度行った事のある場所じゃないと飛べないしなぁ」
「なんだマジック氏知らないのか?テレポってのは、座標単位で行った場所じゃなく、細かいエリア単位なんだぜ」
「エリア単位?」
マップでは確認できない、テレポ用に小さく区切られたエリアがあるらしい。
一辺が五十メートルほど。
一歩でも入れば五十メートル四方全てに入った事になる、と。
「岩壁が丁度その境目とかいうオチじゃなければ、テレポで飛べると思うっす」
「ほほぅ」
じゃあって事でテレポすると、あっさり岩壁の上に。
「おぉ、マジで村がある」
「あそこを見てください」
ルーンが指差す岩壁に、よく見ると穴があった。
が、穴は海水に浸かっている。歩いて通れるとは思えない。
もしかして、潮の満ち引きに関係あるのか?
「もしかして、潮の満ち引きに関係してるんですかね?」
ルーンも同じ事を考えたようだ。
潮が完全に引いた時にだけ通れるようになるとか。
ただこのゲーム、一日が十二時間だからなぁ。潮が引いた状態が何分あるのか。
「どうりで見つからないはずだぜ」
「でもフラッシュ。あれはダンジョンじゃないよ」
「うぐ……」
ルーンに突っ込まれて項垂れるフラッシュ。
じゃあ、あの村はなんだろうな。
「行ってみればわかるか」
という事で――
「『テレポート!』」
だが何も起きない。
なに? 未侵入エリアです?
ここでテレポ切り替えエリアかよ!
「どうする? テレポは出来ないし」
「潮が引くの、待ちます?」
「穴の中歩いている間に潮が満ちたら、溺死すると思う?」
「不吉な事を言うなフラッシュ」
VRだと、溺死判定ありなんてデフォだしな。
ここまで来て死に戻りなんて、ノーサンキューだぜ。
「でも、どうやって下まで降りる?」
三人でじぃーっと眼下を見つめる。
高さ約十五メートル。
落ちたら……落下ダメージが洒落にならなさそうだ。
「マジック氏のモモンガ作戦とか?」
「モモンガ?」
「でもあれだとマジックさんしか降りれないし」
あぁ、ムササビの術の事か。
「ロッククライミングの技能って、この為なのかな」
「え? あるのか!?」
「正式開始の時に実装されたっぽいぜ」
あったのかよ。まぁあったとこで今ここで習得できないんじゃな。
とにかくここを降りる方法を考えなきゃ。
ぴょ〜んっとひと飛びできればなぁ。
ぴょ〜ん。
「跳べる!」
ルーンとフラッシュの二人にケーキを手渡す。
「マジック氏のインベントリから、まさかこんな可愛らしいケーキがでてくるとわ」
その可愛らしケーキを作ったのは、厳ついドワーフだけどな。
二人がケーキを食べたら、念のためカッチカチを掛ける。
「落ちるの前提かよ」
「ボクが先に行くよ。万が一落ちても、自己回復できるし」
「ルーン……お前の勇姿は忘れない」
「止めてくださいよマジックさん!」
そう言いながら跳び跳ねる練習をし、いざ大ジャンプ!
「わっわっわっ」
「上手いぞルーン」
ホップステップと跳ね降りていくルーン。
さっきの岩壁より傾斜が緩い分、なんとか降りれてるな。
あ、足踏み外した。
落下ダメージで200くらい食らったな。
ダメージが少なかったのは俺のおかげだな。
「さぁフラッシュ。今見ただろう。安心して逝け」
「ちょ、今の『いけ』って、絶対死ねって意味の逝けだろ!」
「『カッチカチ』やぞ!」
タッチするついでに押す。
「あぁあああぁっ」
悲鳴を上げながらも、器用に降りて行くな。
そのまま下まで降りきったぞ。
ちっ。
「ふっ。次、マジック氏」
「くっ。フラッシュめ、余裕こきやがって」
ケーキを食べて……カッチカチしてぇ……いざ!
眼下を見下ろすと――
「マ、マジックさぁん」
「な、なんだよお前ら!?」
どうしてこうなった。
眼下の二人は、明らかにNPCっぽい連中に囲まれている。
しかも、連中の手には槍だの鎌だのが握られていた。
うん。完全に捕まってますね。
「そこの――」
NPCが脅し文句の冒頭からシンキングタイムかよ。
「そこのマント男!貴様も降りてこい」
「いえ、お断りします」
ジャキッと武器を二人に突き付けるNPCご一行。
降りて行かなかったらどうなるんだ?
どうするか悩んでいると、NPCたちの足元をちょこまか動く物体が見えた。
そして……
「そこまでだ、悪党どもよ!」
彼等の背後から声高らかに登場したのは、真っ赤な髪を靡かせた……
「セシリア……」
だった。
また問題が増えたぞ。




