93:ぷぅ、流される。
「『雷神の鉄槌・トールハンマーッ!』」
雷鳴が轟き、天から降り注ぐ雷を右手で受け止める。
その雷が全長二メートルにもなとうかというハンマーへと形を変える。
尚、柄の部分は五十センチほどで、叩き付ける部分だけが二メートルほどの長さだ。
随分と頭でっかちだな、このハンマー。
なーんて悠長に観察していたら、トールハンマーの持続時間が終わってジジジっと音を立てながら消えてしまった。
「マジックさん。またド派手な魔法、作りましたね」
「雷で出来たピコハンかよ。あれで殴るのか……すげぇ痛そう」
まぁ痛いだろうな。
それを確認する為に、手近な貝モンスターに向って再びトールハンマーを唱える。
「今度こそっ『雷神の鉄槌・トールハンマー!』」
降り注ぐ雷を受け取り、頭でっかちなハンマーに変貌させ――振り下ろす!
「どっせぇぇぇいっ」
どごぉぉぉぉんバリバリバリィーっという物凄い轟音が鳴り響き、貝――ブロウシェル:LV6は一瞬で蒸発した。
「す、凄いですよマジックさん!」
「うわぁ、えげつねー」
一匹しか居なかったからか、四桁ダメージとか出ててビックリしたぜ。
レベル差もあるんだろうけど、これは……爽快感あっていいな!
どっかんどっかんとトールハンマーを打ち鳴らし、圧倒的な強さをモンスターどもに見せ付ける。
《ぷぷぷぷぷぅ》
「あ? レベル差があるんだから、経験値なんて入らないでしょ? あぁ、そうだな。経験値ゼロだ。でもドロップはあるからいいんだよ」
貝や蟹、時々足の生えた魚もうろうろしていて、海鮮食材のオンパレードだ。
ザグにやろう。でも足の生えた魚料理は遠慮したい。見た目、気持ち悪いです。
「この辺はまだレベルの低いプレイヤーも多いな」
生息するモンスターのレベルは6前後。
奮闘しているプレイヤーは、モンスターと同じぐらいのレベルだろうな。
初々しい姿が眩しくもある。
まだ戦い慣れしていないプレイヤーも見えるから、VR初心者とかなんだろうな。
こういうのは応援したくなる。
見ていると、プレイヤーの頭上に出ているHPバーが真っ赤になっているのに気づいた。
マズいじゃん。死に戻りしたら町からここまで歩くの面倒だろ?
いや、もしかして農村のほうかな。
とにかくここで死に戻りは可哀相だ。
「ちょっと辻ってくる」
そう言い残し、俺は戦闘中の初心者らしき男プレイヤーの下へと向った。
そうだ。お礼を言われる前に逃げれるよう、ザグから買ったケーキを食うか。
一旦止まってケーキを取り出し、頬張りながら再び走る。
うん。小さいから手軽に食えるな。
食い終わると途端に、一歩一歩の飛距離が伸びた。
ヒールを詠唱し、大ジャーンプ!
「とうっ!」
ばささっとマントを靡かせ、高く舞い上がった俺。
声に気づいた男が振り向く。
「ぶわぁ~んそぉ~こ~――」
「ひっ。へ、変質者!?」
タッチ。
緑色に光った彼の傷が癒えていく。
同時に、俺の心に傷が刻まれた。
何故変質者……
ぴゅ~っと風が吹くと捲れるマント。
……。
「ああぁぁぁぁっ。『カッチカチ』やぞぉ~」
再びボディタッチした後、跳ねるつもりは無いのにケーキ効果でびよんびよんしながら逃げ帰る俺って……変質者ですねそうですね。
捲れたマントの下はだってほら、上半身裸だし。
きゃっ。
「ただいま……」
「お、おかえりなさい」
「マジック氏。なんでマントとか羽織ったんだよ。それなら素直に裸のほうがよかったんじゃね?」
「俺も今そう思いました」
海岸をひたすら西に移動していると、徐々にモンスターにレベルが上がっていった。
そして遂にそのレベルは15にまで上がった。
「この辺りから、新エリアですかね」
「うーん、そもそも農村から西には来たことなかったしなぁ。どうだろう?」
「マップみればわかるぜ」
フラッシュがそう言うと、三人で一斉にシステムを操作しはじめる。
表示されたマップにま、現在位置『』とある。
新エリアだ。
うん……特に感動もないな。
「だいぶ奥の方に、ダンジョンじゃないかって洞窟があるって情報が掲示板にあったぜ」
「ほうほう、ダンジョンかぁ」
お宝な予感?
マップを見ながら、それらしき場所へと移動。
農村を出発して三十分以上か、この辺りまで来ると、モンスターのレベルは18前後に。
さすがにトールハンマー一撃じゃあ倒せなくなったな。
範囲に二匹いた場合、直撃した奴にはダメージは750ぐらい。してない奴は250と、固定だ。
三匹だと直撃した奴に667、他二匹が166に。
直撃した奴に500の固定ダメ、範囲内の奴に直撃のも含めて500から割ったダメージ、か?
俺を中心に――が、地面に打ち付けたハンマーから半径三メートルに変更されているが、まぁ柄が五十センチほどなので背後に敵が居ても巻き込む事ができる。
なかなか優秀じゃないか。俺ってスキル作成のセンスいいな。
そうこうする間に、景色が次第に変わってくる。
砂浜だった海岸は、ゴツゴツした岩場に。
打ち寄せる波もさっきまでに比べると、どことなく荒い。
「洞窟、あるか?」
「うぅん、見えませんねぇ」
辺りを見回しても、穴の空いた所なんてなさそうだ。
《ぷぷぅ、ぷぷぷぅぷ〜》
「お、なんかずっと静かだったな」
《ぷ、ぷぷぅぷぷぷぅ》
「寝てた? んでお腹空いた?」
巣から降りてきたぷぅが、俺の顔面前でホバリングしながら嘴を開いてアピール。
「お前……器用だな」
ボディサイズに対して圧倒的小さい羽で、よく飛べるな。
よく……ん?
飛んでる? ホバリングで?
「ちょ! お前、いつからヘリコプターに進化したんだ!?」
《ぷふふ》
な、なんだ。ぷぅが大きく感じるぞ。
「マジック氏、反応が少しずれてるな」
「うん。普通は飛んだ事に驚くんだけどね」
「いや、驚いてるじゃん?」
「「いやいやいや」」
お、俺のどこが……。
あ、ぷぅが飛べるなら……
「ぷぅ、お前さ、上空から洞窟探してくれないか?」
《ぷ?》
「そうそう。お前だけが頼りなんだよ」
お願いポーズをして見せると、ぷぅがもじもじしだす。
そして落下。
「羽ばたくの止めると危ないぞ」
寸でのところでキャッチ。
掌の上でじたばたもがくぷぅを起こしてやり、さぁ飛べと言わんばかりに放り投げる。
《ぶぶぶぶっ!?》
「おお……風に乗って高く上がったっすよ」
……。
「でもこれ……風に流されてないですか?
……。
しまった。
ノーコンが仇となって、予想外な高さまで飛ばしてしまったぞ。
《ぶぶぅ、ぶぶぶぶう。ぷぶぶぅ!》
やだぁ、とばされるぅ。たちけてぇ!
だと――
蘇る妄想。
無数の鳥に突つかれる俺。
唐突に、何処からともなくバサバサという羽音が聞こえてきた。
「ぷぅぅぅ! 今助けるぞおぉ」




