79:マジ、集落の救済案第二弾を出す。
水曜日の朝。
昨日の衝撃的な記事を見た後、しばらく現実逃避する為に宿題をした。
俺頑張った。
おかげで半分以上終わったよ。
夜は気を取り直して張り切ったら、やりすぎてデスペナ五回も貰ったし。
いや、きっとまだ立ち直れてなかったんだろうな。うん。
でも一度OKした手前、やっぱ恥ずかしいから削除とも言えず……。
ど、どうせ今日のメンテん時には全国デビューするんだ! もうどうにでもなれ!!
うん。開き直ろう。
ふんどしだろうがなんだろうが、なんでも来いってんだ!
でも意味も無くふんどしになるのは嫌ですハイ。
「ってことで、メンテ開始前三十分に教えてくれ」
『畏まりました。なにかいろいろと吹っ切れたご様子で?』
「聞くな」
『畏まりました』
くっ。何故こいつはこうも勘がいいんだ。
そうだよ、吹っ切ったんだよ! だから傷口に塩を塗らないでくれ。
ダダダっと振り返る事無くハウス内の『旅の扉』|(命名:シンフォニア)を開けてゲーム内にダイブする。
昨日、五回目のデスペナ食らってすぐログアウトしたから、スタートはファクトの町だったか。
どれどれ、雑貨屋の合成剤の価格はどうなってるか、見てみようかね。
シースターと訪れた雑貨屋に行ってみると、合成剤の価格は50エン。分解粉の価格も50エンだった。
うんうん。良心的な価格になったじゃないか。
店主と目が合うと、一瞬シンキングタイムが始まり、すぐに営業スマイルで挨拶をしてきた。
「やぁやぁ冒険者さん。景気はどうですか?」
「ぼちぼちでんなー」
「ぼちぼちですか〜。はっはっは」
関西弁で返してくれないのかよ! 俺一人ボケてて恥ずかしいだろっ。
「こちらはいまいちですよ」
「いまいち? 仕入れ値は下がったんだし、利益据えおきなんだから儲かってるんじゃ?」
「いや、そもそも合成を利用するお客さんが少ないんですよ。なんせドナルドの野郎が、合成料金を値上げしやがったんで」
どこまでも金が第一なんだな、その男は。
うん、トリトンさんが嫌いそうな感じだ。
「うーん。町の人で合成技能持ってる人は――」
「いませんねぇ」
「集落にはいるんだけどなぁ。でもあそこは基本的に、ダークエルフしか入れないし。他は案内がないと」
「入れませんねぇ〜」
たぶんプレイヤーも然りだろうな。
なら、ダークエルフをこっちに出張させればいいんじゃないか?
「――という事なんだよ。誰か町で合成屋やってみないか?」
と、ブリュンヒルデの始祖様に相談を持ちかける。
集落の中も直接テレポ出来るので移動は楽ちんだ。
テレポして直ぐ目の前に彼女が居たので、挨拶代わりにさっきの話を持ちかけたのだが……案の上固まってしまい、そのまま長いシンキングタイムへと突入した。
動き出した彼女は、今度はメンバーを集めて種族会議を始める。
こっちも長いんだよなぁ。
「今の内にコスライムのところ行ってくるよ」
「いってらなの。また倒れたりしないよう、気をつけるの〜」
……NPCからも心配される俺って……。
せめてここがセーブポイントになってくれれば、死に戻ってもすぐまた出かけられるのになぁ。
なんて思いながらブルーだのレッドだのグリーンだの乳白色だのイエローだの、五色のコスライムを殲滅していく。
厄介なのはレッドだ。
こいつは火属性なので、今の俺だと相性の良いスキルが無い。
仕方ないので『ライト』を使っているが、コストパフォーマンスが悪すぎる。
乳白色の奴は聖属性っぽい。ライトで回復してしまったからな。ただ数が少ないし、こいつだけノンアクティブだから余裕のあるときしか相手にしていない。
うーん、今度大賢者ん所に行って、水属性を教えて貰うかなぁ。
トリトンさんに合成屋の事も話しておきたいし。
ジェルが二百個近くになった頃、手持ちのライフマジポも飲みきったので逃げ帰った。
うーん、レベルが20まで上がったけど、あのコスライム天国はまだまだ『地獄』だな。気を抜くと簡単に死ぬ。
集落に戻ってくると、ブリュンヒルデ達の種族会議はまだ続いていた。
マジかよ……。
チラっと様子を見に行くと、ブリュンヒルデがこちらに気づき手招きをする。
ほいほいっと。
「結論は出たのか?」
「うーん、迷っているですの」
迷う? なんでまた。
合成屋のドナルドに代わってダークエルフが店をだし、奴より安価で仕事を請け負えばプレイヤーから感謝されるだろ?
人の役に立ちたいと願うダークエルフにとっても、利益が一致してるじゃないか。
安価で仕事を請け負っても、客が多ければ金にもなる。
雑貨屋からは合成剤が売れて感謝もされるんだぜ? あ、合成剤はダークエルフ側での提供無しってことで。
なのに何を迷うんだろう。
「えっとですね、私達はずぅーっと他の種族と距離を取って生きてきたですの」
「うん、そうだな。行き倒れはよく拾ってたみたいだけど」
「大勢の多種族の中に入っていくのは、その……」
「「「恥ずかしい」のじゃ」ですの」
集まったダークエルフ達が一斉に顔を赤らめてそう言う。
美男美女が揃ってそう言うんだぜ。
なんか俺がやらしい人間みたいじゃないか。いや、今はダークエルフか。
「って、恥ずかしいとかいう問題か! 何千年も昔のしがらみからやっと解放されたんだぞ! これからはちゃんと他種族とも仲良くやっていかなきゃなんねえってのに」
「はぅ〜。でも恥ずかしいですのぉ」
「だから頬染めながらもじもじするんじゃない!」
あぁ、くそぅ。
ダークエルフなだけにブリュンヒルデときたら、めちゃくちゃ可愛いんだよぉ。
もじもじなんかされたら、こっちが逆に照れるって。
ドキドキしていると彼女と目が合う。
途端にブリュンヒルデがしたり顔でにやりと笑った。
「くくく。初よのぉ、初よのぉ」
「あ、てめー。わざとやってたな! この糞ババア!」
「バ、ババアは酷いですの! これでもまだ三千九百八十……」
あ、ブリュンヒルデが崩れ落ちた。
自分で年齢を口に出しておきながら、どうやら残酷な現実に気づいてしまったらしい。
他のダークエルフに慰められてるよ。
うん、可愛い奴だ。
《ぶぶぅ》
「あ? 浮気はよくない? どういう意味だぷぅ」
《ぶぶぅ〜ぶぶ、ぶぶぶぶぶ〜》
「あたちが居るのに、他の女を見て鼻の下をのば……お前、自分を一丁前の女だと思っているのか?」
《ぶぶぶぶぶぶ!》
ぷぅが羽を腰――だと思われる部分に当て、ふんぞり返る。
「あたりまえよ? 馬鹿言え、人間で例えれば蒙古斑すら消えてないおこちゃまだろう」
《ぶぶぶぶぶっ》
「いてててててっ。おいこら、突くな!」
くっ。こいつ、普段は男を突かないくせに!
ぷぅの猛攻撃から必死に逃れようとあたふたしていると、周囲からくすくすと笑いが起きはじめる。
「ふふふふ。仲良しですのぉ〜。その子はマジックさんが大好きですのねぇ」
《ぷぅ! ぷぷぷぅぷぅぅぷ》
「は? 俺はお前に惚れてるだと? ふざけんな!」
そして再び俺とぷぅの戦いが始まった。
「いやそうじゃなくて、恥ずかしがっていても前進できないんだぞ」
「それは分かっているですの。でも……誰が行くかで揉めるですの……」
合成技能を持つ者は十人以上いるという。多いな……。
でもその誰もが「自分は恥ずかしいから」「私だって恥ずかしいわ」「俺も恥ずかしい」といって推しつけあっている。
恥ずかしいだけなんだろ?
嫌だとは一言も口にしていないってのはなんなんだ?
「別に一人で行けってんじゃないんだし、なんなら交替制で行けばいいんじゃないか?」
そう言うと、俺以外の全ダークエルフがシンキングタイムに突入した。
今度はわりとあっさり終了したな。
彼等の表情は、何故か一様に明るい。
「その手があったのね!」
「なんだ、それなら全員が順番に行けばいいじゃないか」
「うんうん。二人一組で行こう。じゃあ誰と誰が組むか――」
「待て、店番の事も考えると、技能持ちとそうでないのが組むほうが望ましいのでは?」
「はいはいーい。ボクもそれがいいと思いまーす」
おい、待て。
まさかお前ら、本当は全員が行きたかったんじゃないのか!?
二人一組でファクトと言わず、比較的人の集まる町で合成屋と、ついでとばかりに分解屋を始めることになったダークエルフ達。
あれよあれよという間に組み合わせが終わり、身支度を済ませて何人かが出て行ってしまった。
早くね? いくらなんでも早すぎるよね? ね?
「マジックさんのおかげで、集落もどんどん豊かになっていくですの。ほら、見てですの!」
ブリュンヒルデが俺の手を引っ張って案内してくれたのは、とある一軒のお宅。
ここって、最初に来た家だよな。ダークエルフの日常を聞かされた、あの家だ。
そういや……あれ?
「ま、窓が出来てる!? ガラスも入ってるぞっ」
「そうなのです! 遂に我が家にガラス窓ができたですのよ」
「あんたの家だったのかよ!!」
隙間風が吹く、窓ガラスの無い家に住む……ダークエルフの始祖って、どんだけ貧乏だったんだっ。
あ、壁板の隙間は健在じゃんか。




