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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
66/268

66:マジ、妖しい粉の存在を知る。

 合成中のところを見られてしまった。

 犬に。

 いや、犬タイプの獣人プレイヤーに。

 トリトンさんに口止めされてたのになぁ。喋ってはないが、どう誤魔化したものか。


 俺があたふたしていると、先の犬プレイヤーの方から喋りだした。


「あ、レア技能なんですね。そうですよね、こんな所で隠れてやるぐらいだし、人に知られたくない技能っていったら、レアぐらいだし」

「レア技能?」

「はい。あまり人に知られてない技能を、レア技能って言ってるんですよ。まぁ広く知られるようになればレアでもなくなるんですけど」


 なるほど。

 今の時点でレアでも、いつかそうじゃなくなる技能もあるって事か。

 それでも犬の人は興味深そうに俺をじっと見つめ、


「念のために聞くんですが、その技能の事を聞いても?」


 と尋ねてくる。

 もちろん断ると、残念そうにはしたが素直に諦めてくれた。

 というのも、


「ぼくも人には言えないレア技能を持っているんで、気持ちは解ります。そして貴方同様、こっそり人目を忍んで技能を使おうと思っていたので」


 と笑いながら答えた。

 更に、自分だけ盗み見して悪いからと、そのレア技能とやらの作業を見せてくれるという。


「作業ってことは、さっきの俺がやってた合成だったりして?」

「え? 合成っていうんですか?」


 うっ、しまった。

 そしてこの反応からすると、この犬の人のレア技能は合成ではないということ。

 困った顔をしていると、犬の人は笑いながら徐にアイテムを取り出す。


「鉄?」

「はい。鉄のインゴットです。練成技能で、鉄鉱石三個を合わせると作れる素材です。あ、合わせるといっても、きっと貴方の合成とは違いますよ」


 犬の人がアイテムをもう一つ取り出す。

 それは小さな瓶で、中にはキラキラ光る白い粉が入っていた。

 やばそうな粉だ。

 それをインゴットに振りかけ、小さな木槌でコツンと叩いた。

 すぐにインゴットがピカっと光り、何故か石二つになる。


「分解っていうんです。その名の通り、アイテムを分解するんですけどね。こういった素材だと、下位交換になるんですよ。ただし、素材の数が減ったりしますけど」

「おぉ、面白いな! いらなくなった装備とかを、また素材に戻して再利用できそうじゃね」

「そうなんですよ。まぁ高レベルの装備になると、素材そのものが変わってくるんで、ずっとは再利用はできませんが」


 なるほど。これは確かに面白い技能だ。

 そしてレアっていうぐらいだから、彼以外にこの技能を持っているプレイヤーは、今のところ居ない、もしくは少ないんだろう。


 結局技能の事を教えてもらってしまったが、こっちもそれとなく教えてやらないとなぁ。

 習得方法なんかは完全に伏せておいて、アイテム同士を合成できる技能だってのを教えてやった。


「わぁ。ぼくたちの技能って、ある意味正反対の効果ですねぇ」

「あ、そういえばそうだな」

《ぷ》

「あはは。もうペットを飼ってるんですね。そういえば昨日見たダークエルフの人も……あれ? もしかして」

「ん?」

「ふんどし、の人ですよね?」


 ふんどしの人?

 ふんどしなんて装備したこと無いぞ。何故か今持っているけど。


「って、昨日の物々交換の犬の人!?」

「あっはっは。そうです、物々交換の人です」


 世間って意外と狭いんだなーっと思った一瞬だった。






「へぇ、ぷぅちゃんに食べさせるペットフードに味をねぇ」

「あぁ。店売りは不味いらしいんだよ。食わせると文句言うんだ」

《ぷっ》


 そんなの当たり前よ!

 とでも言っているのだろうか、ドヤ顔で胸を張られてもな。

 そんなぷぅの様子を楽しそうに見ている犬の人。

 名前を――


「シースターです。よろしく」

「彗星マジックだ。ボールペンの水性じゃなく、ハレー彗星のほうな」


 お互い自己紹介をしていろいろ話しをした。


 まず、彼は生産組であること。

 そして、


「ぼく、ゲーム内でユーザーイベントの開催とかをしたいんだ」

「ユーザーイベント?」

「そそ。皆に楽しんでもらう為に、イベントの主催とかをするんだ」


 ほほぉ。

 まずその手始めに、藁しべ長者を行った、らしい。

 で、昨日の藁しべ長者、その最後の交換アイテムは――


「えーっと……何故かふんどしだったんだ」

「……そうか。きっとゴミだから押し付けられたんだろう」

「うん。そう思う」

「実は俺さ、さっき海岸でふんどし、貰ったんだ」


 しかも俺の後物々交換した女の人から。

 それを話すと、シースターは腹を抱えて笑い出した。

 そうだよな。笑えるよな。

 くそうっ。


 会話の間もシースターは技能を使って、いくつかの素材や装備を分解していた。

 そのうちの一つから、見た事のない丸い玉が出来上がる。その玉には微妙にイラストが描かれていた。


「ハイクラス以上の装備を分解するとね、その装備に付与されてた能力の石が出来るんだ」

「能力? 例えば……攻撃力プラスいくらとか?」

「それはノーマル武器にもあるでしょ。ステータス補正とか属性攻撃がどうとか、種族に対して追加ボ−ナスがあるとか、そういった特殊能力のほう」


 なるほど。そっちか。

 ハイクラスだと特殊能力は一つ。レアだと二つ。レジェンドだと三つあるという。

 分解も合成同様、失敗することがあり、失敗の時にはゴミ屑になるんだとか。NPCに売ると1エン……どっかで聞いたな、それ。


「分解に成功しても、この玉が出ない事だってあるんだ」

「なかなか厳しいなぁ」

「うん。そもそも通常モンスターから一切装備がドロップしないしね。装備の分解は敷居が高いよ」


 そらそうだ。

 で、シースターは人が要らなくなった、下位の装備を買い取って分解しているのだという。

 おぉ、そういや……


「俺も下位のレア装備持ってんだけど、分解してみないか?」

「え? い、いいの?」

「と思ったが、装備ってロックかかるじゃん? どうやって取引すればいいんだ?」


 そもそも装備はロックが掛かっているので、他人との取引は出来ない。

 でもシースターは買取してるっていうし。


「うん。ロックってね、持ち主の任意で解除できるんだよ。装備を取られたくない時にはロックしておいて、いらなくなったら外して売るんだよ」

「へぇ〜」


 装備アイコンをタップして設定変更すれば……ぉ、外れた。

 じゃあ鳥の巣も!!

 出来ないじゃんかっ。

 悲しいかな、だれだれ専用となった装備のロックはどうやっても外せないようだ。


 海獣の杖とブーツを渡し、夢乃さんから作って貰ったレベル8のコートと手袋も出す。

 杖とブーツは無事に二つの玉が出来たが、コートと手袋は分解レベルが心もとないからと断られた。


「技能レベルを上げないといけないんだけど、なかなか分解できる装備が少なくてね。鉄鉱石を鍛冶技能で練成してインゴットにし、それをまた分解ってやってるんだけど、地味に素材の数が減って赤字になるんだよね」


 インゴットにする為には分解粉という消耗品も必要らしく、そのうえ鉄鉱石三つでインゴットなのに、分解すると鉄鉱石は二つに。

 確かに赤字だわ。


 あ、そうだ。


「俺が合成したライフマジポ、分解してみるか?」

「え? なにそれ、面白そう」


 紫色のライフマジポーションを渡し、シースターに分解して貰う。

 ピカっと光ると、そこにはライフポーションとマジックポーションが。

 それを受け取って今度は俺が――俺が――


「うぉ! 合成剤がもうねえしっ!!」

「あはははは。そのアイテムなら新しいエリアにある、ファクトっていう町に売ってるらしいよ。ぼくも分解粉をコンスタンスに仕入れたいし、ファクトを目指さなきゃいけないんだろうなぁ」

「じゃあ、その分解粉はどこで?」

「うん。ドロップなんだ、コスライムの」


 しかもそのアイテム、説明欄には素材とも書かれておらず【コスライムが乾燥した粉】と明記されているらしい。

 誰も技能に結びつくアイテムだとは思わなかったんだろうな。


「でも、ぼくは戦闘技能をまったく取らずにスタートしたもんだから、戦闘能力が低くって……ファクトにはもう暫く行けそうにないな」

「完全生産技能でスタートしたのか。武器技能ないと攻撃スキルもねえし、辛いだろ」

「うん。一応短剣技能は取ったんだ。ゲーム内でね。けど、技能取るのに結構時間かかったから、それも含めて全体的にレベル低くって」


 そう言ってシースターは遠い目になる。

 レベルはまだ11らしい。


「じゃあさ、昼飯のあとに俺と一緒に行かないか? 俺は一応戦闘職だからさ、街道進めばいけると思うぜ。あー、ただパーティー公平はできないんだけど」


 昨夜のクエ道中を思い出す。

 さすがにコボルトやアントが群れを成してるなんてことはないだろう。

 してたらパーティー以外、通る事もできやしないしな。


「ほ、本当!? で、でもいいのかな。ぼく、本当に足手纏いだよ? 死んだらセーブポイントからやり直しだし」


 それも大丈夫。

 テレポがあれば、死に戻りする前の場所まですぐにひとっ飛びだしな。


「そっか。テレポ持ちなんだ。コールの町に空間移動技能を教えてくれるNPCがいるんだけど、そこすらまだ行けてないから。ははは」

「コール? 実はまだ行ったことないんだよな。俺の場合、別ルートで習得してるからさ」

「そうなんだ。じゃあ、まずはコールに寄ったほうがいいね。テレポで移動できる町なんかは、充実させておいたほうが何かと便利だろうし」


 場所は知ってるから案内するよ。

 とシースターが言う。

 実はクローズドベータ組なんだとか。


「クローズだと開始場所がコールの町だったんだけどねぇ。まさかオープンベータで海の上からだとは思わなかったよ」


 笑ってそう話すシースターは、人懐っこそうな犬そのものだ。

 いや、犬なんだけど。


 お互いフレンド登録をし、リアルでの昼一時に噴水広場で待ち合わせを約束。

 そして昼飯を食べるべく、ログアウトするのだった。 

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