62:うん!
引越し先の村にログイン!
すると直ぐにシステム音が鳴り【引越しの護衛】クエストの報告を行って下さいというメッセージが浮かんだ。
行くともさ!
昨夜荷物を運ぶ手伝いをした家に行って戸を叩くと、ここでもダダダダダという元気な足音が。
「ピリカの勇者様〜。いらっしゃ〜い」
「ははは。ピリカは音だけで俺が来たって事が解るらしいなぁ」
「――――うん! 解るの〜」
今の間はシンキングタイムだな。
もしかして、戸の前に立ったキャラクターの認識データとかで判断してんのか!?
データとして俺だって解ってるだけなのか!?
さすがNPC! 汚いっ。
まぁ何が汚いんだって事だよな。うん。
「おぉ、ようやっと来たか。まったくせっかちな奴め。依頼の報酬も受け取らんと、帰りおるからのぉ」
「はぁ、すみません。他の三人は?」
「ちゃんとその日のうちに受け取って帰られましたよ」
大賢者とトリトンさんが出て来てこう言う。
俺だけ報酬受け取ってなかったのか。
ま、まぁ、とりあえず受け取っておこう。
さぁ、何をくれる!
と、逸る気を抑えて平常心。
「ほれ、これが報酬じゃ」
「それとこれもよかったらお使いください」
大賢者からは2000エンを、トリトンさんからはアイテムを幾つか貰った。
2000……なかなかの大金じゃね!?
「それとこれもやろう。儂が若い頃に使っておったノーマル品じゃが、今持っておるお前さんの杖よりは性能が良かろう」
「え? ノーマルがレアより上?」
受け取った古臭い杖と、今の俺の杖とを見比べる。
◆◇◆◇
名称:海獣の杖(レア)
効果:INT+3、魔法攻撃力+20。
水属性魔法のダメージ+10%。MP+100。
ヒール量+80。
必須技能:特になし
耐久度:5/150
レベル:8
◆◇◆◇
名称:ウッドロッド
効果:魔法攻撃力+25
MP+150、ヒール量+100
必須技能:特になし
耐久度:100
レベル:16
◆◇◆◇
おおぅ……水属性うんちゃら以外は完全に負けてるじゃないか。
っていうか海獣ロッドの耐久度がマジやべーっ!
そうか、レアは耐久度も高いんだな。
さすがにレベルの差が出てるんだろうなぁ。
今は水属性の技能も持ってねえし、素の攻撃力底上げならウッドロッドのほうが上だな。
ありがたく頂戴しよう。
「大事に使うのじゃぞ。たまには手入れもして、長持ちさせろ」
「手入れは木工技能で使えるはずですから」
うん。使った事無いけどちゃんとあるよ。
「また何かあったらいつでも尋ねてくるといい」
「私も学者として、何かお力になれることがあれば遠慮せず、言ってくださいね」
「はい! 俺も、また何かあればいつでも手伝いますから!」
ふっふっふ。もちろんいつでも尋ねるともさ。
トリトンさんは、何かと物知りで助かってるしな。
それにまだまだ習得したい魔法技能はたっぷりあるんだからな。特に重力とか重力とか。
ふふふ。だが焦ってはいけない。
ここはじっくりねっとり好感度を上げて、向こうから技能を伝授してくれるのを待つのだ!
時々こそっと下心は見せるけどな。
三人に別れを告げて家を後にし、レベル上げでもしようかと思って村の外へと向う。
がさがさ――という直ぐ近くの茂みから音が聞こえてきた。
おいまさか。村の中だってのにモンスターが!?
速攻で襲撃イベントかよ!
そして出て来たのは――女の人!?
普通の女の人!?
しかもNPC!!
な、何やってたんだあの人は。
はっ!
女が一人、茂みの中。
ここはファンタジーな世界観。
開拓途中の村といえば、便所がまだ整備されていないかも!!
つ、つまりあの女の人は……草むらで……ト……ん?
なんか女の人が手に持ってるぞ。
はっ!
ま、まさか、うん!?
そのうん! を持ったまま女の人は移動し、とある家の軒先にあった笊の中へそれを……置いたーっ!?
NPCが新種の嫌がらせ行為してんのか!?
そしてまた移動。
辺りをきょろきょろしたかと思うと、落ちていた葉っぱを持ち上げじっと地面を見ている。
そんな所にあるのはだんご蟲ぐらいだと思うぞ?
と思ったらなんか掴んだ!?
その後何度か同じような葉っぱやら小石やらを捲っては、何かを掴んで――笊に入れるを繰り返している。
うんの中にだんご蟲……これはどんな嫌がらせなんだ。
そしていったい誰に対してなのか。
NPCとはいえ、こんな悪質な嫌がらせするとか許せないぞ。
ここはやっぱりGMコールするべきだろうか。
そんな事を考えてたら、その女と目が合った。
や、やばい。
もしかしてうん! を投げつけられるかも!?
「あら、冒険者さん。私の事、気になるんですか?」
気にならないでか!
「ふふふ。お兄さんかっこいいから、教えてあげてもいいかな」
「え?」
なんか急に顔を赤くしたりして、何考えてんだこの女。
っち。ゲームの世界でも女はイケメンに媚びるのかよ糞がっ。うんなだけに。
が、よく考えたら、そのイケメンって俺の事であって、俺見て顔を赤くしている訳で。
ふふ。かっこいいか。
いいな。
俺の所にやってきたうん! 女は、小声でぼそぼそと囁くように話しだす。
自分の悪行を洗いざらい話すつもりのようだ。
「隠れている物を見つける事が出来る、『発見』を使っているの。そうしたらね……お兄さん、そこの小石を持ち上げてみて」
言われて足元の小石を持ち上げた。
その下にはだんご蟲がいました。
俺はそっと小石を元に戻した。
戻した小石を、今度は女が持ち上げる。
そして徐にだんご蟲を――じゃなく、何故か突然どんぐりのような木の実が女の手に出現した!?
どうなってんだ!?
「こうやって小石の下に隠れてた木の実を見つけられるのよ」
いやいやいやいや、今どう見てもだんご蟲しか居なかっただろ!
女は再び村の中をあちこち動き始める。
葉っぱを捲っては木の実をゲットし、小石を持ち上げてはゲットし――
時々先回りして、彼女が手を伸ばそうとしていた葉っぱを先に捲ってみる。
何も無い。
なのに彼女が改めて同じ事をすると、その手に木の実が握られていた。
つまり――技能か!?
彼女の後ろを追い続ける事数十分。
笊の中が木の実でいっぱいになる頃――
「もうっ。冒険者さんずっとついてくるんだもの。恥ずかしくって『発見』も捗らなかったわ」
「そうなのか?」
「そうよ。じっと見つめてるんだもの。このままじゃ村の人達の分まで集められないわ。困ったわぁ」
あぁ、他の家の分も集めてやってるのか。それは悪い事をしたな。
うん! 女だなんて思って、申し訳無い。
「じ、じゃあさ、手伝うよ」
「あら! 本当? 嬉しい。じゃあついて来てね。私がお手本を見せるから、暫く見てて」
というので彼女の後を再び追う。
これじゃあさっきまでと同じだろと思いつつ、彼女がやっていることを注意して見た。
きょろきょろして――何かを見つけたようにとことこ歩き出し、迷う事無く葉っぱを捲る。
そして拾う。
それだけだ。
それを何度も何度繰り返し、何度も何度もじっと見た。
段々目が疲れてきた頃――
【『発見』を習得しました】
というシステムメッセージが浮かんだ。
「うおぉーっ! 習得したぞぉーっ」
「よかったわ〜。じゃあ、手伝ってね」
といって彼女にウィンクされたのだった。




