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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
48/268

48:マジ、トイレ休憩をする。

 ルーンだと名乗ったその男は、法衣を着た十七歳ぐらいの若い奴だった。といっても、外見に関しては全て作り物のこのゲームだからして、実年齢が見た目に比例する事は無い。


「それで、逝っちゃった人、どこに行きましたか?」

「そいつはまさに『逝った』よ」

「え?」


 首をかしげるルーンに、俺たちは掻い摘んで事情を説明した。


 聖女に猥褻行為しようとして、自警団に連行された、と。

 そして小声で、


「ゲームマスターコールしたら一発で強制連行された」


 と教えた。

 何故か納得したように「なるほど」と答えるルーン。


「僕たちのパーティーに、急に欠員が出ちゃって。募集しようとしたら、すぐ後ろから声掛けられて。どうしても参加したいからって、再募集する手間も省けるしいいやと思って入れたんです」


 俺たちと並んで歩きながら、ルーンはこう説明した。

 イベントが始まってからずっと「聖女たんと結婚するお」「聖女たんのおっぱいはサイコーだお」と、それはそれは、きもかったらしい。

 追放するかという話しになった頃、突然そいつがダッシュで来た道を戻りだしたらしい。

 そのまま放置しても良かったが、男が「聖女たぁ〜ん」と奇声を発しながら走っていったので、いろいろと不安になって追いかけてきた――と。


「パーティー欄にまだそいつの名前残ってんの?」


 夢乃さんがそう言うと、ルーンははっとなって視線を左に向けた。

 パーティーの基本情報は視界の左端にちょこんと表示されている。名前とHP、あとMPが解る。


「あ、消えてる。名前すら表示されてません」

「うは。もうBANされたのか」


 ドドンが嬉しそうに言うと、ルーンの顔も笑顔になった。

 よっぽど嫌われてたんだな。

 同情はしない。十分きもかったし。

 それからルーンは律儀にNPCである聖女にも頭を下げていた。いい子や。


「なんだかホッとしました。パーティー追放した後から粘着されるのも嫌だったし、彼ならしそうな感じでしたから」

「そっちのパーティーは?」


 置いて来たんだろうから、人手が一気に二人も減って大変なんじゃなかろうか。まぁ俺たちは最初から二人少ない四人パーティーだけど。


「大丈夫です。この丘を越えると、休憩所の村ですから」


 ルーンが駆け出し、上り坂の頂上で俺たちを振り返る。

 頂上まで上らずとも、村はすぐに見えてきた。

 なんだ、さっき奴と遭遇した場所から、ほんの数百メートル先に村があったのかよ。

 ここまでだいたい二時間ちょいか。


「あの、皆様……わたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」


 聖女……確かアイリスだっけ? 彼女がもじもじしながらそう尋ねてくる。

 そもそも彼女はなんでイベントエリアでうろついていたんだ?

 さっき大賢者に尋ねられていたが、二人が逸脱した人物設定だっていう自慢大会で話しが逸れてしまってたしな。


「構わないけど、そもそも何故聖女がイベ――ここに?」

「あ、はい。そのお話しをしていたんでしたね」


 そうだよ、NPCなんだから忘れるなよ。


「実はわたくし、数ヶ月前に天啓を与えられまして」


 天啓ねぇ。どうせ「勇者を探し出せ」とか「勇者を導け」とかだろ。


「東方の地にて、勇者の素質を持つ者を探し、共に歩め――と」


 ほぼ同じでした。俺って冴えてるね。


「それで開拓移民団に加わり、まずは北の都ファクトを目指そうと思って港町を出発したのですが……」


 出発してもう少しで目の前の村だという所で、あの男と鉢合わせしてしまったと。

 以前にもあの男に港町で執拗に追いかけられ、恐ろしい目に合っているから条件反射で逃げたらしい。

 が、男も必死に追いかけてきた、と。


「皆様方にお会いできて、本当に助かりました。これもきっと神のお導き。どうか、わたくしを旅のお供にお加え下さい」

「「え?」」

「もちろん!」


 俺、夢乃さん、ドドンの三人が驚き、セシリアがさも当たり前のように返事を返す。


「まぁ、嬉しい。わたくし、アイリスと申します。どうぞ、聖女とは呼ばず、名前でお呼びください」

「うん、解ったぞアイリス。私はセシリアという。神速騎士を目指している者だ」

「まぁ、騎士様に? なんて頼もしいのでしょう」


 船イベントの時もそうだったが、まさか本気で勇者願望があるのかよ。

 その思いが確信に変わったのは、セシリアの目がきらっきらに輝いているのを見た瞬間だった。






 村に到着した俺たちはルーンのパーティーに事情を説明して、奴は二度と戻らない事を伝える。すると、彼らも手を叩いて喜んだ。


「僕達はこの村を出たら、そのまま北に行くルートなんですけど。マジックさんは?」

「あ、ああ。俺達は――」


 ちらりと大賢者を見ると「東じゃ」と、俺の代わりに答えてくれた。

 それを聞いてルーンは「そうですか」と、少し残念そうな顔をする。


 その後、大賢者達は村で一時間半ほど休憩をするといい、俺達にも今の内に用事・・を済ませろといって宿に向った。

 一時間半――リアルで四十五分か。結構長いな。


「んじゃ俺、念のためトイレ行ってきやっす」


 そう言ってドドンがログアウトする。

 あぁ、そうか。完全にトイレ用休憩なんじゃん、この村って。

 さすがに四十五分もトイレに引篭もる奴はいないだろうけど。


 ルーンも自分のパーティーに戻り、彼らも各々トイレだなんだと落ちていった。

 結局、彼がどこの誰だっかのか思い出せない。

 俺も念の為に落ちてトイレ行っておくかな。


「じゃあ、またここで集合ってことで」

「オッケー。四十五分もあるけん、私はシャワー浴びてくるばい」

「あ、私もそうしよう」


 夢乃さんとセシリアがログアウトしていく。

 女子は風呂か。

 ……。

 いや、別に疚しい想像なんてものはしていない。


 さ、俺もトイレ行ってこよう。

 早めに戻ってきて、村を見てまわるのもいいしな。


 ログアウトボタンを押すと目の前に扉が現れ、それを潜るとシンフォニアの待つ部屋へと出た。


『お帰りなさいませ、彗星マジック様』


 そう言う彼女は、いつもの白黒メイド服を着ていた。おかしな仮面もない。


「ゲームマスターはバイトなのか?」

『……なんの事でしょうか? ワタクシには分かりかねますが』

「ゲームマスターってのは、全員NPCなのか?」

『いいえ。一部は運営スタッフの方が行っております。特にイベントの進行など、場を盛り上げる必要のある作業の場合ですと、スタッフの方が直接行っております』

「つまりさっきみたいに、規定の作業をテキパキやる場合には」

『ワタクシのようなサポートAIのほうが効率よく作業を進められますので――あ』


 そう言ってシンフォニアが自分の口元に手を当て、そして舌打ちをする。

 く、くくく。

 勝った。


「勝ったぞーっ!」

『お手洗いに行かれるのですね。どうぞ行ってらっしゃいませ。リンクは遮断されますが、十分間でしたらアバターはここにログインしたままになりますのでご安心ください。その間……ふふ、ふふふふふふ』


 奴の不敵な笑みが見えたかと思うと、俺の意識は現実に戻っていた。

 や、奴め。俺のアバターを人質に取りやがったな!

 ダッシュで済ませてやる!






「うおおぉぉぉっ! 無事か俺ぇえぇぇっ」

『あ、お帰りなさいませ、彗星マジック様』


 不安に駆られてダッシュで戻ってきた俺。

 自分の体をあちこち確認してみるが、特に何かされたようすはない。よかった。


『……ワタクシが何かするとでもお思いだったのですか?』

「思った」

『何かしておけばよかったと後悔しております』


 頼むから後悔しなくていい。

 

『時に彗星マジック様。ログインロビーの活性化にご協力頂けませんでしょうか?』

「唐突だな。意味解らないし、何より面倒くさそうだ」

『そう言うと思っておりました』


 だったら聞くなよ。


『彗星マジック様の願いで、このロビーを大改装いたしましたが、他にログインロビー活性化に繋がるご意見、アイデアなどございませんか?』

「俺の意見は無視ですか」

『当然でございます。何かご意見アイデア等はございませんか?』


 ガン無視である。

 まぁ大賢者達の出発までかなり時間あるし、少しぐらいはいいか。


 と言ってもなぁ。ロビー活性化って……。したところで利用者は俺一人だろ?

 プレイヤー単位でロビーが用意されてて、常駐してるNPCも個別で存在してるらしいが、それでも一人しか利用しない一つのログインロビーをどう活性化させるっていうんだ。

 活性化させるってことは、賑わわせるってことだろ?

 一人で?


「せめて何人か一緒じゃないとなぁ」

『何人か? どういう意味でございましょう』

「いや、活性化だから、賑やかにするって事だろ? ロビーって今だと俺とお前しか居ないじゃん」

『プレイヤー一人につきロビーは一つ用意されておりますがサーバーは同一内ですので、その表現にはいささか不備がございますが。まぁここ(・・)という表現であればその通りでございますね』


 素直に「そうですね」と言えないのか。

 しかし、ログインサーバーは同じものを使っているのか。同じ――

 ん……


「サーバーが同じなら、ロビー内で合流する事も出来るんじゃないのか?」

『合流?』


 あー、合流というか、あっちのプレイヤーのロビーにおじゃまする、みたいな。

 あ、いや待てよ。さっきの奴みたいに、変質者まがいな連中もいるかもしれない。とすると、見境無く他人のロビーに行けるより、招待状を出して置いて、それを受け取った奴しか入れないってのが安全でいいな。

 その辺りのやりとりはNPC同士でやってもらえばいい。


「出来ないか?」


 アイデアをシンフォニアに伝えると、少し考えてから


『可能でございます』


 と答えた。

 だが、直ぐに実行出来る訳でもなく、開発スタッフが検討し、採用されればシステムが組まれることになるという。

 まぁ当たり前だよな。

 

 適当に案を出してみたが、これって中々いいんじゃないかな。

 クラン、他のゲームではギルドと言うのもあるが、そういう集団に加入していれば、メンバー同士で集まって、秘密の会議を開くことも出来る。

 気の合うパーティーでも、ロビーで待ち合わせしてってのもありだろう。


「まぁそうなると、殺風景なロビーだとあれだな。俺みたくこう……」


 こうかっこよく作り直しが必要。

 そう思ったが、この丸太小屋じゃとても人を呼べる広さじゃないな。


「なぁ、ここ、もっと大きくしていいか?」

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