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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
44/268

44:マジ、正式サービス開始特典を受け取る。

「ト、トイ……レ」

『はい。それでは行ってらっしゃいませ。ワタクシはここでお待ちしておりますね』


 なんだか便所の扉の前で待たれている気分になる。

 それでも済ませるべきことは済ませ、再びベッドの上でギアを装着すると、一瞬にして意識は暖炉のある一室へ。


『お帰りなさいませ、彗星マジック様』


 ゲーム内へと続く扉の前で彼女は待っていた。


「た、ただいま。あと何分だ?」

『はい。あと五分でございます。まずはご挨拶を――』


 挨拶? 何を今更――


『この度は、数あるオンラインゲームから『Imagination Fantasia Online』をお選び頂き、誠にありがとうございます。全てのプレイヤーがお楽しみ頂ける世界になるよう、スタッフ一同より精進してまいりますので、これからも引き続きのご愛好を賜ります事を、よろしくお願いいたします』


 あー、はい。運営の挨拶ってことだな。

 シンフォニアは流れ作業のように一礼すると、それから小さく息を吐いてから目を閉じた。

 そしてゆっくりと青い瞳を開くと――


『彗星マジック様。正式サービス後も引き続きプレイしてくださることを、大変感謝いたします』


 と、いつもの真顔で言う。

 更に――


『名前まで賜った事、ワタクシは本当に嬉しく思います』


 と、信じがたい事に微笑みながらそう言いやがった!?

 し、進化したのか!?


『ふふ。他のロビースタッフにも確認いたしましたが、現時点で名前を与えられているスタッフは全体の0.1%程も居ないということでして。ふふふ』

「そ、そうか。よ、よかったな」


 逆に俺は0.1%ぐらいは居るという事実のほうが驚きだ。

 それよりもこいつの表情だ!

 笑ってるぞ。笑っちゃってるぞっ。


『どうかなさいましたか?』

「いやどうかなさいましたかって……お前、表情を変えられないんじゃなかったのか?」


 きょとんとした顔で首をかしげるシンフォニア。

 首を傾げたいのはこっちだ。


『ワタクシ、一応AI搭載型のサポートスタッフでございますので。学習して表情ぐらい作れるようになりますのよ?』


 とかシレっと言いながら、その実顔は真顔に戻っている。


『真面目な淑女をモットーとしておりますので』

「どこが真面目なんだ! 淑女がトイレネタをひっぱるんじゃないっ」

『生理現象は大事な事でございます! お楽しみの最中にもよおし、ログアウトが間に合わなければお漏らしをするのでございますよっ! だからこそワタクシはそのような辱めを彗星マジック様に受けて欲しくないのです!!』

「力説するなっ!」


 はぁはぁ。

 何故こうも俺が疲れるんだ。


 もういい。そろそろサービス開始になるだろう。


「そろそろログインするから、そこ、どいてくれ」

『あ、忘れておりました。二分十五秒前に正式サービスが開始されております。ようこそ、再びこの『Imagination Fantasia Online』の世界へ。オープンベータテストプレイヤーへの特典の配布を行います』

「もう過ぎてたのかよ!」


 いろいろ言いたい事はあるが、言えば言うほど墓穴を掘る気もしてならない。

 ここは黙って特典を受け取ろう。


 パチンと彼女が指を鳴らすと、『福』と書かれた紙袋が一つ現れた。


『こちらはゲーム内で着用できるアバター装備でございます。見た目だけの物でして、性能などは一切ございません』

「そんなもの着る奴いるのか?」

『ご心配には及びません。こちらの装備は現在着用している装備の外見を変更するだけのものでして。現行の装備性能を引き継ぐとご説明すれば解りやすいでしょうか』


 あぁなるほど。外見上書き型の装備なのか。

 中身は男女別にいろいろ用意されているらしく、アイテムモールでも発売していると宣伝された。

 福袋を受け取り、中を覗いてみる。

 見えたのは白い……布?


『何が入っておいででしたか? こちらはランダムに出現するアイテムですので、ワタクシにも中身が何か解らないのでございますよ』

「さぁ、なんだろうな。白い布にしか見えないんだが」


 取り出してみると、これがなかなかに長い。

 が、すぐにアイテム名がウィンドウとして表示された。


【ダンディー水着】


 ……。


 布だろ?


『まぁ、おめでとうございます。そちらは永久版のダンディー水着でございますね』

「布だろ?」

『ダンディー水着でございます。装備されれば、どのような水着か直ぐに解りますよ』


 白くて長い布。

 それを水着だと言い張るNPC。

 嫌な予感しかしない。


「特典ってこれだけなのか? これだけなら俺はもう――」

『お待ち下さい。あとこちらの便利アイテムもお受け取りください。それとポーションも』


 ピコンという電子音と共に、何かがインベントリに入った事を知らせるメッセージも出た。


【インベントリ拡張パック十日間】

【各種ブーストポーション詰め合わせセット】

【ライフポーション特効薬十本】

【マジックポーション特効薬十本】


 アイテムモールで買えるやつか。

 まぁこっちは素直にありがたく使わせて貰おう。


『着替えられないのですか?』

「着替えない」

『っち』


 こいつのこの反応。やっぱり嫌な予感しかしない。


『致し方ございませんね。それではどうぞ、お楽しみくださいませ』

「あぁ……このアバター、ゲーム内で取引できるのか?」

『人様からいただいたものを売るなどと!? 出来ます』


 じゃあ売るか。

 扉を開け、ゲームへと旅立つ俺――に再びシンフォニアが声を掛ける。


『忘れていました。彗星マジック様、もしゲーム内で助けが必要なときには、『ゲームマスターコール』を行って下さい』

「ゲームマスターコール? つまり迷惑行為する奴とか発見したときとか?」

『それもございますが、それ以外にゲームの進行上で困ったことが発生したときなどにも。出来るだけ迅速に対応させて頂きますので』

「あぁ解った。サンキューな」


 そういや俺、前のゲームでもGMコールとかやったことないな。

 まぁ迷惑行為とかもそんなやられた事なかったし、早々迷惑な野郎なんてお目に掛かれないだろう。


『それでは、よい旅を』

「あぁ。行ってくるよ」


 今度こそ俺は扉を潜り、ゲームの世界へと入った。



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