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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
40/268

40:株式会社AQUARIaの中の人達その2。

 某都会のビルの一室にて……



「ひぎイィッ! 俺が考えた技能が習得されてやがるうううう」

「お前が考えたのって、オープンベータ中、突きだけで戦闘を乗り切ったって条件のか?」

「まぁ可能性としてはありそうな条件だったよな」

「ひぎいいいぃぃぃっ」


 パソコンのモニター前で悲鳴を上げるスタッフ。

 それを生温かい眼差しで見つめる同僚達。


 オープンベータテストが終了し、正式サービス開始に向けた作業が始まったゲームマスタールームでは、それぞれのスタッフが考案した特別技能の習得者がいるかどうかで盛り上がっていた。

 もちろん、習得者が居ない技能を考えたスタッフが勝ち組である。


「うわぁ、近矢技能持っていかれちまった。くっそぉ。弓使いなら射程ギリギリで戦えよ糞がっ」


 近矢……最大射程十五メートルである弓を使っていながら、オープンベータ中五メートル以内でのみ戦闘を繰り返した弓術技能所持者に与えられる技能だ。

 もちろん、弓以外の武器を一度でも使えば、習得条件から除外されてしまう。

 その効果は、対象との距離が短くなればなるほど威力が増すという物だ。

 デメリットとして、五メートル以上離れて射た場合、命中率が下がるという。

 いいのか悪いのか、判断に苦しむ効果である。


「けど実際、十五メートル離れて攻撃ってのは、ソロだといいがパーティーだと前衛との距離が出すぎて後ろから襲われたときどうすんだって話しだよな」

「全弓プレイヤーの平均戦闘距離は十メートルぐらいだからなぁ。魔法系も似たようなもんだし」


 だからこそ、五メートル以内での戦闘というのも、あながち不可能ではなかったのだろう。

 実際、敵モンスターから十五メートルも離れてしまうと、前衛で戦うパーティーメンバーとの距離もそれに等しいほど離れている事になるのだ。

 十五メートルがどのくらいの距離感になるのか……

 敷地面積四十坪の場合、正方形に近い形であっても端から端まで約十三メートル程である。

 一般住宅の敷地内の端に立ち、反対側の端に居る敵に向って攻撃する――と想像すると、それがどのくらい離れているかというのが想像できるであろう。

 しかも仲間との戦闘時にもそうなのだから、どれだけ取り残された感がある事か。

 他に遠距離攻撃手段を持つメンバーが居なければなおの事。

 パーティープレイであるにも関わらず、自分だけ後ろぉ〜の方でポツンと戦闘をするのだ。

 ぼっち感を得られるに違いない!


「うーん……これって条件満たしてるのかなぁ」


 ここで一人の女性スタッフが疑問の声を漏らす。


「どうした、守山君」

「あ、チーフ。私が考えた技能なんですけどね、習得してる人がいるんですよ」

「君の? 条件はなんだったんだね」

「はい。柏木さんの『近矢』と似たようなもので、射程三メートル以内での魔法攻撃のみでオープンベータを乗り切るなんですけど」

「それはまた、魔法職に死ねと言っているような条件だな」

「魔法剣士プレイってのもありえると思って、当然、杖オンリーという条件も付けました」


 チーフは思った。

 清純そうな印象の守山君だが、中身は悪魔のような子だ――と。

 そうして彼女が見つめるモニターに、彼もまた視線を送った。


『Imagination Fantasia Online』は、プレイヤー一人一人に監視カメラがセットされている。

 イメージとしてはこうだ。


 四十八時間連続動画撮影可能な高性能ホームビデオ片手に持った見えない電子妖精が、プレイヤーキャラクターの周囲を常に羽ばたいている。


 その電子の妖精はシステムと直結している為、特定条件を入力すれば該当するプレイヤーキャラクターを見つけるのも容易なのだ。

 特別技能を考えたスタッフが、それぞれ習得条件を入力し、それをクリアできたプレイヤーキャラクターが居るかどうか調べる。その結果がモニターに映しだされているのだが……。


「どう見ても殴ってますよね?」

「……殴りマジだな」

「ですよね?」

「だな」


 守山君とチーフの二人して以心伝心のようである。

 その様子をみた周囲のスタッフも、システムチェックをするより面白そうだ――寧ろもうやりたくない! ――とばかりに集まってきた。

 総勢八人が守山君のデスクを囲ってモニターに視線を注ぐ。

 守山は思った――


(あ、この中に三日以上、社内宿泊した奴がいるわ! 誰よ、お風呂入ってないのは!?)


 ――と。

 だから彼女はこう言った。


「臭いんで、離れてもらえませんか?」


 オブラートに包む気も無いらしい。

 そんな彼女の事を知るほかのスタッフらは、素直に指示に従ってデスクから離れた。

 だが気になる。

 モニターに映るのがいったいどんなプレイヤーなのか。


「じゃあこうしてあげますから」


 守山君のデスクには三台のモニターが置かれてある。一台は彼女等が覗く、プレイヤーキャラクターが映るモニター。もう一台は英数字の羅列のみが映るモニター。もう一台は……何も映っていない。

 その何も映っていないモニターが起動すると、プレイヤーキャラクターを映すモニターと同じ画面となった。

 更にそのモニターをデスクの端、更に隣のスタッフのデスク上にまで侵入させて自身から遠ざける守山君。


 あっちを見れ。


 守山君が手でそう指示すると、男達は黙って移動させられたモニターの方へと近寄った。


「これ、鷲掴み技能持ってるね」

「みたいだな。ダメージエフェクトが二つ表示されてるし」


 彼らが見つめるその映像では、一人の男ダークエルフがヤンキーラビットの頭を鷲掴みし、放電する拳をお見舞いしているシーンだった。

 だが次の相手、シープでは鷲掴みせず、放電する拳を――


「うーん、拳の放電が眩しくてよく見えないな」

「ちょっとカメラアングル変えてみよう」


 見えない電子の妖精は万能である。

 撮影した動画を一時停止し、三百六十度あらゆる角度にアングルを変更できるのだから。

 ただし、対象が女性キャラクターであった場合、スカートを覗き込むようなアングルにしようものなら、音声によって『この人痴漢でーすっ』と社内に響き渡るのだ。


 プレイヤーキャラクターに対して正面からの撮影だったカメラアングルを、右手を拡大する形で変更する。


「よく見たらこれ、『グー』じゃなくって『パー』だな」

「『パー』だねぇ」

「じゃんけんの話し?」

「「違うちがう」」


 グーパー会話をしていた二人が、動画をコマ送りにし決定的瞬間で止める。二人が指差すモニターに映るプレイヤーキャラの手は、確かに『パー』であった。

 つまり――


「殴ってない」


 である。


 その後の動画をよく見ても、鷲掴みしている時以外は掌を開いていた。

 ただ本人の癖なのか、魔法を唱える直前に握り拳を作ることが多く、それを見ただけでは殴っているように見えなくも無い。

 いや寧ろ、殴っているようにしか見えないのだろう。


 一人の男性スタッフがキードーボを叩き、該当プレイヤーキャラのステータスを確認する。

 ステータスを見れば戦闘スタイルがどうなのか、解ると睨んだのだろう。

 その結果――


「彼、純粋なINTマジですよ……」

「え? 嘘だろ」

「いやいや、マジですって。あ、ちなみに彼の名前も『マジック』ですね」

「マジかよ……」

「マジですよ」


 更なる解析の結果、彼の攻撃によって大ダメージを出しているほうのエフェクトが、魔法によるものだとも判明。

 彼らが見つめるモニターには、超至近距離――ゼロ距離から魔法をぶっぱする、非常識な戦闘スタイルの魔術師が居た。


「守山ちゃんが考えた技能って、どういう効果だっけ?」

「ちゃん付けしないでください。気持ち悪いですから。効果は近距離での魔法ダメージがアップすること。距離が短ければ短いほど、上昇率も高くなります」

「つまり彼の場合、ゼロ距離だから……」

「まぁ技能レベル1、距離三メートルでダメージ+0.5%。距離が一メートル縮むごとに0.1%追加ですから」


 ゼロ距離であればレベル1で0.8%上昇となる。ダメージ増加量は単純に、レベルが上がればそのまま掛算だ。

 となれば技能レベル10になって、ようやく+8%。

 たかが8%。

 されど8%。

 そういったところだ。


「それに、デメリットもありますしね。三メートル以上十メートル未満で、魔法ダメージ-15%。十メートル以上だと-20%になりますから」

「デメリットのほうが大きいな」

「でも技能レベルが上がっても、こっちは固定ですし、他にも近距離魔法を継続しないと技能レベルの経験値がリセットされるなんて悪質なものも付けてますから」


 なるほど、とチーフは思う。

 技能を考える際、一部プレイヤーにだけ効果の良い技能を与えるのは不公平感が強すぎる。

 MMOである限り、ある程度の公平さは必要だ。

 故に、特別技能にはメリットだけでなく、デメリットも付与するようにと、上からの指示にもあった。

 にしても経験値リセットまで付けるとは、さすが守山君だな――とも思った。


「あぁぁぁっ。俺の『愛の伝道師』技能を習得してる奴がいやがるぅっ!」


 守山君のデスクから少し離れた所で雄叫びが上がった。

 技能名からして香ばしい空気を察知した面々が、雄叫びの主の下へと集まってゆく。


「ちょ、加藤それ、確かゲーム内でプロポーズしてオーケー貰う事って条件じゃなかったか?」

「そうだよ。どうせVRだからって手当たり次第に声掛けて、あまつさえNPCになんていう馬鹿は絶対いるが、振られるのまでテンプレなんだよ! なのにこいつ……」


 本当にOKを貰えたのか。寧ろ相手も、その場のノリでOKしただけなのではないのか。

 誰もがそう思った。

 だがしかし――


「相手に確認したところ正真正銘の遠距離カップルだったらしく、三年間ずっとVRゲーデートだったらしいです。で、今日がたまたま彼女の誕生日だったようで……」

「「うわぁー」」


 ネットゲームで出会って結婚。

 そんなものも珍しくないこの時代に、プロポーズ云々で特別技能というのは敷居が低かったのかもしれない。

 とはいえ、オープンベータテスト二日目で、まさか――と、この加藤は考えたのだろう。


「VRMMOのプレイヤーとして、リア充とかけしからん!」

「「けしからん!!」」

「リア充爆ぜろ!」

「「リア充爆ぜろ!」」

「リア充爆ぜろ!」

「「リア充爆ぜろ!」」


 涙を流しながらそう吠える社員らを見て、チーフはこう思った。


 何故我が社には変なのばかり集まっているのだろうか……と。

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