222:マジ、幼女ハンター。
俺は神輿か何かか?
そんな気分にさせられたかと思うと、突然村人たちは冷静さを取り戻し、一人、また一人と家に戻って行った。
冷めるの早すぎなんですけど。
それでも数人は残って、俺を英雄様だなんだと持ち上げている。
「英雄様。あなた様のお話はディオから伺っております」
「なんでも大地の精霊王ベヒモスを素手でお倒しになったとか」
「大賢者も恐れおののき、英雄様には手出しできなかったそうで」
うん。案の定、いろいろ誤解しまくっているな。
そのうち眼光だけで大賢者がひれ伏しただの言い始める始末。
面白いからそういう事にしておこう。ふひひ。
村人――主におっさん――にちやほやされること数分。
「マジック! 来てくれたのかっ」
ディオがようやう登場。
傍らにはピリカより一つか二つ年上かなと思われる女の子が。
「ディオ。その子が妹の?」
「あぁ。さぁティナ、あのお兄ちゃんにちゃんと挨拶できるかな?」
ディオの後ろにかくれてもじもじしていたティナちゃんだが、ディオに言われると頬を膨らませながらずいっと前に出てきた。
「で、できるもんっ」
そう言って手を腰に添え、何故かふんぞり返って仁王立ちしている。
兄のディオはモスグリーンの髪をしているが、妹のほうは鮮やかな緑色だな。瞳の色も同じだ。
ただ、見た目としてはやっぱり、痩せてて元気少女という印象はない。
そんな子が大きく息を吸って、そして――
「こ、こんにちはマジック様。兄が大変お世話になっております。亡き両親に代わって、お礼を言わせてください。本当にありがとうございます」
そう言ってペコリと頭を下げたティナちゃんは、再びディオの後ろに隠れてしまった。
「ディ、ディオ。本当にお前の妹なのか!?」
「それはどういう意味だ?」
そりゃあもちろん。この兄にしては出来過ぎているだろ!
っていう意味。
それを聞いたディオは絶句し、周囲の村人は笑いだす。そしてティナちゃんも。
が、ひとしきり笑った後は咳き込みはじめ、苦しそうな表情に。
「風邪か?」
それとも喘息か。
心配して背中をさすってやると、何故か拒絶される。
おいおい、顔真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃねえか?
とオデコを触ると小さく悲鳴まで上げられるし。
俺、そんなに嫌われてるのか。
肩を落としてずぅーんと沈んでいると、ディオは「マセガキめ」なんて妹に悪態ついてるし。
「マジック。ティナの事は気にするなよ。まったくあいつときたら……年の差ってものを考えろってんだ」
「年の差? 年の差で嫌われてるのか?」
どう見ても俺とディオ、外見的には似たり寄ったりな年齢だと思うんだけどな。
「っぷ。何勘違いしてんだマジック。妹はな、お前の事を――」
「わぁーっわぁーっ! お兄ちゃんの馬鹿ぁ。もう言っちゃダメェ、っけほけほ」
「お、おいほら。ディオ、その子咳をしているじゃないか。寝かせなくて平気なのか?」
「あぁ……大丈夫だ」
さっきまでは明るかったディオの顔が途端に暗くなる。
気づけば他の村人の姿もどこへやら。
雰囲気、随分と重くなったな……。
「せっかく来てくれたんだ。たいしたおもてなしは出来ないが、ゆっくりしていってくれよ」
「お、おう」
ディオに手招きされ彼の家へと向かうことに。
その間もティナちゃんは時折咳込んでいて、ちょっと心配だ。
そしてやってきましたディオの……おぅ、初期のブリュンヒルデの家よりも酷い。
木造の家なのは分かる。
ただ、板と板の隙間が大きすぎやしませんかね?
隙間風とかいうレベルを遥かに超えてる気がするんだが。
グラフィックの手抜きか?
「さぁ入ってくれ」
ディオに促されて中へと入る。
あったのはテーブルと椅子。あと食器棚みたいなやつ。
終わり。
質素すぎ!
「なぁディオ。ティナちゃんは風邪か? それとも喘息か何かか?」
勧められた椅子に腰を下ろしながら尋ねると、ディオは椅子に手を掛けたまま固まった。
もしかして、何故咳をしているのかっていう設定がされてないとか?
止まっていたディオが動き出すと、「あぁ、そうだ。風邪なんだ」と。
そっちを選んだか。
まぁ喘息だとか言われたら、俺にはどうすることも出来ないもんな。
そういや薬なんてあるのかな。それも合わせてあの人――トリトンさんに聞いてみよう。
さて、ここで本題だ。
「ディオ。もしこの村でも田畑を作れるようになったら……どうする?」
「え、たはタ……田畑トハ、田ンボト畑ヲ意味スル」
「い、いや、俺が悪かった。聞き方が悪かったよな。だから戻ってきてくれ」
アップデート後の弊害なのかってぐらい、NPCが怖い。
そこでまずは聞き方を変えてみる。
「この荒れた土地に畑を作って野菜が収穫できるようになったら、嬉しいか?」
数秒ほどシンキングタイムがあり、それから「嬉しい」と真顔で答えられた。となりのティナちゃんも頷いている。
次だ。
「食べるものに困らなければ、開拓民を襲う必要もなくなるよな?」
その質問に真っ先に反応したのはティナちゃんの方だ。
「お兄ちゃん! 危ない事はしないでって約束してたのにっ」
「い、いや、危ない事なんて別に何も……」
とか言いながら、ディオはティナと目線を合わせようとしない。
分かりやすい。
嘘付いてますって、実に分かりやすい構図だ。
ディオの肩をぽんっと叩き、俺はぼそりと彼に囁く。
「妹に心配かけるもんじゃないぜ」
「マ、マジック……」
「まぁその為に俺も協力するからさ」
「協力?」
首を傾げる兄妹の二人。
そこで俺は説明する。
支配下に治めた開拓村には学者が居る。もちろんトリトンさんの事だ。
彼に土地を豊かにする方法を聞き、それをこの村でも実行する、と。
簡単な事だ。
必要なものがあれば開拓村の村人にも手伝わせる――というのは嘘で、まぁ俺がなんとかするさ。
「なるほど。奴らから直接聞きだせば分かる事だもんな」
そう言いながらディオは手の関節をボキボキと鳴らし始める。
いや、力任せに聞き出そうってんじゃないからな。あくまでも穏便に、だ。
「お兄ちゃん! 人を脅しちゃダメ! 移民してきた人とも、仲良くならなきゃダ――ッコンコン」
「ティナの薬も学者に聞いておくよ。その人にもティナと同じぐらいの娘さんが居るんだ。奥さんには先立たれてて、きっとティナの事を話せば親身になってくれるだろう」
「く、薬が手に入るのか?」
頷いて見せると、ディオ、涙目です。
うぅん、これは早速飛んで、トリトンさんの所に向かうか。
「じゃあ俺は早速、魔法で開拓村に行ってくるよ」
「あ、ああ。マジック、本当にありがとう」
スキルを使うべく家を出ると、ディオたち兄妹もついてくる。
この家もどうにかしてやらないとなぁ。
あ、そういや俺も木工技能持ってたんだったな。
護衛クエで橋の修理したっきり、まったく使ってもなかったが。
ちょっとレベル上げれば、家の修繕ぐらいできるようになるかな。
ボロ家をじぃっと眺めていると、不思議な物が屋根に乗っかっているのが見えた。
まるで角のような……
「なぁディオ。あれ、なんだ?」
屋根の上を指差し彼に尋ねる。
よく見ると、地面にもいろいろ落ちている。いや、置いてるのか?
獣の骨や大きな鱗のようなもの。それに毛皮だ。
めちゃくちゃ乱雑に置かれてるじゃないか。
「あぁ。あれはホルンクレスというモンスターの角だ。屋根が風で飛ばないよう、重石替わりに使ってるんだよ」
「お、重石……」
「ほら。丁度山形になってるだろ。屋根の形にピッタリなんだぜ」
「はぁ」
適当過ぎ!
そこかしこに置いてある骨だなんだも、この周辺に生息するモンスターから取ったものだと言う。
「村に近づきすぎるモンスターは倒さなきゃならないからな」
「倒したモンスターから取れる素材を放置してるってことか……」
「あぁ。俺たちの武器や防具を作るのにも必要だからな。だが……」
ディオは辺りを見渡しため息を吐く。
「必要以上の素材が溜まって困ってもいるんだ」
どっか他所に捨てろよ!
更にディオに案内され、素材のゴミ山を見せてもたうことに。
家二、三軒分のゴミという名の素材が山隅されてるぞおい。
あ――
「ディ、ディオ。レジェンド素材とかって、この中にないか?」
楽して素材をゲットすることは可能か!?




