186:マジ、ほげぇ。
「町の周辺にモンスター軍団が現れたようですね」
「えぇ。でも大丈夫です。門には多くのプレイ――冒険者が駆けつけ、討伐に乗り出していますから」
「そのようですね。心強いものです」
俺も急いで戦場に戻りたいんだが……。こうしている間にもネームドが狩りつくされてしまう。
「マジック様も戦場に行かれるのですよね?」
「えぇ、そりゃあもう」
もちろんレジェンド装備が欲しい!
32でも、まだレアの部位があるからな。例え被ったとしても、性能が良ければ着替えるし、どっこいなら売って金にする。36装備が出れば超ラッキーだ。なんなら素材でもいい。
だから直ぐにでも行きたい。走りたい!
なのにこの人ときたら、物腰穏やかなのはいいが、のんびりすぎるんだよ!
「ではマジック様、わたくしもお供いたします」
「え?」
シリウスさんは手にした竪琴を見せてにっこり微笑む。
一連の工程がゆる~く、今にも俺は走り出したい衝動に駆られた。
「わたくしは直接戦うという事が出来ませんが、演奏によって皆様に勇気と、そして力を与える事ができます」
「はぁ……」
はよっ。はよっ。
「貴方様の『応援歌』の技能と合わされば――あ、呪いのアイテムのせいで、デバフになるんでしたね」
「……バ、バフはもう諦めましたから」
ここにきてバフ系技能を習得するとは思わなかったもんなぁ。
レベルが上がればIMPも増えるから、技能習得は嬉しいんだが……こればっかりは仕方ない。
そういや俺、デバフ技能もあったよな。
『不運』……バフスキルがデバフになるっていう。これのせいで『応援歌』がゴミ技能になったんだが。でもこれ、対象をモンスターに変えられれば、普通にデバッファーとして使えるんじゃ?
「『不運』技能を媒体にスキルを作って……『応援歌』技能のスキル効果と同じようなのを作る……とか」
「あぁ、それはよいかもしれませんね。しかしそれでは、『応援歌』技能のスキルと『不運』技能のスキルと、無駄に二つのスキルを作らなければなりませんよ。いっそ、『応援歌』技能のスキル効果の対象を、モンスターに変更するというスキルを一つ、『不運』技能で作ればいいのでは?」
「え……えぇぇっ。そ・れ・だ!」
さっそくスキル作成!
媒体は『不運』
効果は――『応援歌』技能のバフ対象を、プレイヤーからモンスターに変更。というものに。
普通に考えたら、何故モンスターを支援するのかって内容だ。
だがバフスキルがデバフになるという呪い技能があるから、モンスター相手にバフれば、それもデバフになる! ――はず。
試してみなきゃ分からない。
ダメならスキル忘却で消せばいい。そして、二度と歌わなければいい。
いや、ちょっと残念だけど。
完成したスキルに『鎮魂歌』と名付ける。
くぅ~。カッコイイぜ!
「完成したようですね」
「はい。これが上手くモンスターに左様すればいいんだが……まぁダメな時はダメな時で!」
「はははは。マジック様は前向きでいらっしゃる」
よし、レッツ戦場!
だがしかし、戦場は遠かった。
いや、ある意味目の前なんだが、なんせ人が多すぎて前に出れない。
門の横幅は五メートル程。狭くはないんだが、数百人のプレイヤーが押しかけているので、通れる隙間なんてのがまったく無かった。
じゃあさっきみたいに壁から飛び降りるか――と階段を見ても、こちらは遠距離職で溢れかえっていて、階段も上れない状態か。
うん。ダメだな。
隣のシリウスさんは既に演奏を始めている。
「何の効果ですか?」
「はい。士気を高める効果がある曲です。全てのステータスを1.5倍にし、ダメージは二倍になります。他にもいろいろと」
「へぇ……」
それなんてチート?
楽しそうじゃん。俺TUEEEEできるじゃん!
って、俺の簡易ステータス欄にバフアイコン無いんですけど。
「効果が現れるのはどのくらいなんですか?」
「すぐですよ?」
だがバフられていない。
周囲の人を見ると、魔法を撃っているプレイヤーが歓声を上げていた。
魔法のダメージがでかくなっている、と、喜んでいるのだ。
俺、仲間はずれ?
「マジック様。もしや呪いのアイテムをお持ちですか?」
「え? それさっきも聞いたセリフ」
そう言うとシリウスさんが僅かに硬直し、セリフを言いなおした。
もう一つお持ちですか、と。
もう一つ……
あぁぁ!
「ジャックのメダル……バフやヒールが不発する可能性があるっていう、そんな呪いが……」
「あははははは。それですね」
うぉぉぉ、バフや『ヒール』なんてまぁいいやとか思ってたけど、いざこうなってみると悔しい。
俺だけバフられてないって、ちょっとしたイジメじゃん。
ぐぬぬぬ。
「ま、いいか。どうせ前に出れない限り、俺は戦闘に参加できないんだし」
「おや? マジック様は魔術師なのでは?」
そうなんだけどな。
ただ遠距離から魔法撃っても当たらないから、前に出なきゃダメなんだ。
「歌ってデバフれる魔法使いです」
ただ問題は、ここから歌ってモンスターに届くのかってことだ。
『セシリア:マジック君、無事か?』
お。パーティーチャット。
無事と言えば無事だが……
『彗星マジック:死に戻りなう』
『霧隠:なむー』
『彗星マジック:なむあり。しかし人が多すぎて門から出れそうにない』
『セシリア:なむーって何?』
『霧隠:テレポは?』
は!?
その手があった!!
いや待て。ヘタに飛んだ先がモンスターの真っ只中だとさっきの二の舞だぞ。
『セシリア:ねぇ、なむーって?』
『彗星マジック:どこか安全な場所はないか? テレポするにしても適当だと即デスペナだ』
『霧隠:拙者らのいる座標に飛んでくればいいでござる』
なるる。マップを開けばパーティーメンバーは青い点で表示されてるからな、そこに飛べばいいのか。
うしっ。
「シリウスさん、俺、テレポで仲間の所に飛びます」
「おや、ではご一緒させて頂いてもいいですか?」
「え? いいですけど……」
と返事した瞬間、パーティーにシリウスさんが加わった。
うぉう。NPCが参加しちゃったよ。
そしてレベルが『??』になってるよ。
公平設定大丈夫か?
まぁテレポ後に抜けて貰えばいいか。
「んじゃあ、『テレポート!』」
テレポった先で突然斬りつけられた。
セシリアに。
「お、おい! スルーしてたからって、攻撃するこたぁないだろっ」
「え? マジック君が突然湧いてきたのだけれど。それで、なむーって何?」
……意地でも知りたいんだな。
死に戻りした人への挨拶みたいなものだと説明したが、いまいち分からないようだ。
「いやぁ、乱戦ですねぇ」
そう言うシリウスさんは、いつの間にかパーティーを抜けているし!?
何のために加入したんだ……。あ、テレポのためか。
乱戦だといいつつ、その表情がどこか楽しそうだ。
戦闘できないとかいいながら、戦場でにこやかに微笑むとか……実はS属性か!?
「さぁマジック様。せっかくですので、先ほど習得したスキルをお試しください」
「お、そうだった。へへ、じゃあさっそく……」
コホンと咳払いをし、深呼吸をする。
ここは戦場。
ファクトの町を囲む壁の外側であり、東門を出て数メートルの場所。
多くのプレイヤーとモンスターとが入り乱れて戦っている。
さぁ、俺の歌が吉と出るか凶とでるか!
「みんなぁ、俺の歌を聞きやがれほげほげぇぇ~っ!」