185:マジ、飛翔。
ファクトの壁の上。南無の嵐に打ちひしがれる俺。
が、
「来たぞおおぉぉっ」
誰かの声で南無合唱は突然止み、全員の興味がフィールドへと向けられる。
助かった。と思ったのは内緒。
俺も身を乗り出し、フィールドに視線を向ける。
月光に照らされた大地に、無数の黒い影が蠢く。
見える範囲だとゴブリン、コボルト、ホブゴブリンも見えるな。
しかしなぁ、町から近すぎるだろ? もう百メートルぐらいしかないぞ。
「モンスターの群れが突然ポップしたでござるな。通常のモンスター同様に、今まで存在していなかった物がすぅっと出てきたでござるよ」
「うへぇ。ポップさせるとか、反則じゃん」
そんな方法なら突然町中にだって……はっ!
慌てて振りかえって見たが、特に町の中で騒ぎが起きてるとかもない。寧ろ俺が笑われた程度だ。
そうこうする間に先頭のモンスターが壁に到着してしまった。
「ちょ。どの方角から来るのかだけ確認してから下に下りようと思ったのに、これじゃあ町から出れないじゃないか」
「西門のほうも塞がれたらしいぞ」
「知り合いが南に居るが、そっちもダメだ」
「海岸にボス出現! レベル30のタコだとさっ」
周囲から聞こえてくる情報だと、俺たちプレイヤーは隔離されたみたい?
あれ……これ、詰んだ?
と思ったところへ魔法が飛び交う。
あぁ、そうだった。俺以外の魔法使いは、ちゃんと遠距離から攻撃できるんだよな。
え。じゃあつまり、遠距離職の天下じゃね?
「おい、俺たち前衛の分も残せよ!」
「残してやってもいいけど、どうやって攻撃するんだ? 門の前はモンスターがひしめきあってるから開かないんだぜ」
「だったらお前らが門周辺のモンスターを倒せばいいだろ!」
「なんでお前ら前衛の為にそんな事してやらなきゃいけないんだ!」
何故か揉めあう人々。
遠距離職とパーティーを組んでいる前衛もいるが、そういう連中はハナから殲滅を後衛に任せ、時々ゴブリンアーチャーだのホブゴブリンアーチャーだのなんとかアーチャーだのの攻撃から仲間を守ってやってるだけだ。
誰もソロ前衛の活躍の場を作ってやろうという奇特な後衛は居ないようだ。
そして俺たちのパーティーは……
「全員が前衛でござるな」
「だな」
「ぐぬぬぅ」
唇を噛み締め拳を握るセシリアなんか、いつここから飛び降りるか分かったもんじゃない。
いくらレジェンド装備だからって、あの群れの中に一人で飛び込んだら死ぬぞ。
寧ろ落下ダメージで瀕死だぞ。
この状態を打開するには……
「みんな! 心を一つにするんだっ」
マフラーを風に靡かせ、ばっと振り返る。
俺の周囲でキラキラエフェクトが発生し、月光を浴びて更に発光する体中の幾何学模様。
そこかしこから込み上げてくる笑い。
いい。今はそれでいい。
「心を一つにするんだっ。そしてみんなで飛び降りよう!」
襲撃イベントを先導したのは俺だ。だから俺がまずお手本を見せる!
きっとみんな、ついて来てくれるはずだっ。
〔ぷぷぅ!!〕
やるのね! っとぷぅが小さな翼をパタパタ羽ばたかせ、やや興奮気味だ。
ふ。
今の俺は落下を恐れない。
二箇所の防具に落下速度減少効果があるからな。おそらく速度が低下すればダメージも低くなるだろう。
検証してないが、今ここで検証すればいい。
そして――
「ぷぅ、頼むぞっ。みんなぁぁぁっ、俺に続けえぇぇぇっ!!」
ダっと壁を蹴って夜空へと舞う。
飛んだ瞬間、風に揺れるマフラーが変形したのが分かった。
やっぱり……蝶の羽みたいな形に変形してやがる。あとついでにシューズのほうの羽は少し大きくなってパタパタしているな。
どうせなら飛ばせてくれればいいのに。
そして今度は頭、いや、鳥の巣を掴まれる感触が伝わり、落下速度が更に減少する。
〔ぷ! ぷっぷぷぅ、ぷぷぷぅ〜ぷ! ぷっぷぷぷっ〕
行くわよ! あたちが持ち堪えている間、やりまくって! ダーリンはそれが出来る男なんだからっ。
ぷぅの言葉に勇気付けられ、唱える呪文もいつも以上に力が入る。
「『シャアァアァァイニングゥゥフォオォォッス・フィンガアァァァッ!』」
長く。
いつもより長〜っく飛んでいた俺は、眼下の敵にダメージを与えまくっていた。
い、いけるっ。これなら門周辺のモンスターを一掃できる!?
着地の瞬間にノームを出し、俺とノームのちゃぶ台で一瞬の猶予を作れれば……。
必死に羽ばたくぷぅによって、地上までまだ四メートルはある。まだまだ俺のターン!!
さぁ野郎ども、俺に続け――
……。
……おかしいな。
こんなにゆっくりなのに、俺追い抜いて落下していく奴が居ない。
煌々と輝く拳を突き上げたまま、上空を見上げると――
壁際で、落下する俺を見下ろす大勢のプレイヤーが見えた。
誰も飛んじゃいねぇぇぇぇっ。
「今だぁぁぁ、周辺モンスターのヘイトがふんどし王子に向いている隙に、門を開けぇぇぇ」
「のりこめぇぇぇ」
「ふんどし王子の死は無駄にしない!」
「野郎ども、ふんどし祭だワッショイ!」
……ま、まぁ結果オーライだな。
俺の攻撃で門前のモンスターがパタパタと倒れ、押し寄せようとするほかの連中も魔法の持続ダメージで硬直している。
隙間が出来た事で門を開けれるようになるんだ。よしとしよう。
でも何故ふんどし?
一分近く掛けてようやく着地した俺は、瀕死のホブゴブリンにフィニッシュを叩きこんでぶっ倒すと、すぐさまノームを召喚。
「ノーム!」
〔むむ、むむむむむむっ〕
現状に驚いたノームが慌ててちゃぶ台を出した。
さすがノーム。分かってらっしゃる。
俺もそのすぐ隣でちゃぶ台を立て、同士たちが少しでも安全に門から出てこれるよう壁を作った。
そして、背後の門が開き始め――
「ふごっ」
突然バンっと開いた門に押し出された俺は、ぶよんっとした何かに衝突。
ぶよん、じゃなく、ぷよんだったらよかったのにな。
いや、別にホブゴブリンの腹がぷよんとしてたら良かったなとかそういう意味じゃない。
ここが……そう、俺がぶつかった何かが、ホブゴブリンの腹じゃなかったら良かったのになっていう意味だあうおぁあぁぁっ。
誰か、たちけてぇぇぇっ。
振り向いた俺が見た光景は――
様々な近接武器を振りかざし突撃してくる――
「うおぉぉぉふんどし祭第ニ幕の開催だあぁぁぁ」
「ふんどしワッショイ!」
「海パンも忘れるなっ」
「ふんどし推奨! ふんどしでご参加くださいっ。女性は自由ですっ」
ふんどし姿の熱い男たちの姿だった。
【戦闘不能状態になりました】
【最寄のセーブポイントに帰還しますか?】
【はい いいえ】
はい――っと。
復活地点は町の中心部から、やや西側。
うぅん。東門から遠いな。
まずは『ヒール』でHPを回復させ、さっきの光景をおさらいする。
俺はいつ襲撃イベントを、ふんどし祭にしてしまったんだろうか?
俺はちゃんと装備着てたぞ。いや上半身は裸だが。
どうしてこうなった?
HPを全快にし、戦場へと戻ろうとするとぷぅが行く手を阻むようにしてホバリングする。
〔ぷ〕
「あ? お腹すいた? こんな時にかよ」
〔ぷぷぅ〕
こんな時だからこそよとか言いやがって。いつでもどこでも腹を空かせるくせに。
回復ついでにペットフードを取り出し、一つをホバリング中のぷぅに投げつける。
空中でキャッチし、そのままゴクリと丸呑みしてしまう。あれが巨大化して……そのうちモンスターすら丸呑みするようになって……うぅ、ぶるぶる。想像するな。ホラーゲームになってしまう。
〔ぷぷぅぷ、ぷっぷぷぅぷぅ〕
「あ? いつか俺を乗せて飛びたい?」
〔ぷぅ〜〕
俺がぷぅに? 乗る?
バランスボールに乗ってるのしか想像が出来ない。
しかもバランスボールのように、体重が掛かったからといって凹んだりもしないんだ。乗り心地は最悪じゃね?
「いやいや、その丸い体に乗っても、滑り落ちるだけだろ。乗せたいならもっとダイエットしろよ――」
おっとマズい。今のは禁句だったっ。
咄嗟に頭をガードする。――が、突き攻撃が来ない?
ホバリング中のぷぅを見ると、羽ばたいていないのに宙に浮いたまま固まっていた。
もしかしてぷぅにもシンキングタイムがあるのか?
「お、おーい、ぷぅ」
返事が無い。タダの――
「こんばんは、マジック様」
背後から声をかけられ振り向くと、そこには竪琴を持ったシリウスさんが――口元を押さえて立っていた。
NPCからも笑われてしまうこのアイドル効果。
捨ててしまえるものなら捨ててしまいたい!




