184:マジ、南無。
事件は陽が暮れてから起こった。
襲撃に備え、ファクトの町を囲む壁の上で周囲を警戒しているときだった。
「で、どうしてマジック君は体の模様が光っているのだ?」
「どうしてって……寧ろなんでセシリアがここに居るんだって感じなんだが」
「この町を守るためだ、決まっているだろう!」
そう言ってレジェンド級のレイピアを引き抜き、天にかざす。
隣に居る俺が蛍光ブルーに光っているせいで、レイピアの刀身がソレを反射し、青白い光を帯びているように見えた。
そう……。
何故かホワイトカラーをチョイスしたはずのボディペイントが、蛍光塗料のように光っているのだ。
価格が安いモノクロは、白か黒、どちらかを選択する物。ダークエルフの褐色肌に黒のペイントは目立たないだろうと思って白を選んだはずだ。
なのに何故蛍光ブルーなんだよ。
「でもマジック君。光っているから背中のハレー彗星は綺麗に見えてるぞ」
「え? マジ?」
名前にちなんで背中側は宇宙をイメージしたデザインテンプレを使ったんだが、結果オーライ?
ただ自分ではその宇宙が見れないわけで。胸元から腰、肩から二の腕の幾何学模様しか見えない。
それを見る限りだと、虫を呼び寄せバチっと殺す、アレみたいな光り方なんだよな。
念のため、不具合なのか仕様なのか気になるから報告だけはしておこう。
えぇっと……
「彗星殿もでござるか!?」
「はいーっ?」
突然横から飛び出してきた、黒装束の人物。
口と鼻をマスクで覆い隠し、見えているのは目元と額だけ。口元を隠しているせいでくぐもって聞こえるその声は、女の物にも聞こえるし、やや高い声色の男の物にも聞こえる。
彗星殿もというその言葉通り、僅かに見えている目元や額がぼぉっと蒼白く光っていた。
「霧隠さんもやったのか、ボディペイント」
「ぐぅ。戦に赴く戦士に施される刺青みたいでかっこいいかなと思ったでござるが、まさか発光するとは思わなかったでござるよぉ」
「マジック君、お友達か?」
セシリアが顔を覗かせて尋ねてくる。
お、お友達っていうか……どうなんだろう。
MMOってこういうところ難しいよな。フレ登録したから友達。そう言ってもいいものかどうか。
どう答えたものかと思案していると、霧隠さんの方からセシリアに自己紹介をし始めた。
「拙者、霧隠でござる。彗星殿と同じダークエルフで、ストーリークエに巻き込まれた者同士の縁で知り合ったでござる」
「あ、そうそう。俺と彼女が誘拐犯にさせられたんだよ」
「マジック君がござる君を誘拐?」
「「いやいや違う」でござる」
俺たちの会話を聞いてくすくす笑いだす連中がいた。
この壁には今、かなり大勢のプレイヤーが上っている。気のせいか、ふんどし姿の連中が多い。まぁ上下合成による裸族回避なんだろうけどさぁ……。
とりあえず誰でもいい。フォローしてくれよ。
セシリアも知るピリカを、NPCであるダークエルフが誘拐し、その犯人に間違えられたんだ十分ぐらい掛かって説明してようやく理解してくれた。
「じゃあ、ダークエルフ繋がりで光っているのだな」
「ダークエルフ繋がり?」
俺と霧隠さんが顔を見合わせるが、その線は考えてなかったぜ。
周囲に目を向けると、既に検証しようとしているダークエルフのプレイヤーが居た。そんな人物から声が掛けられる。
「何色を選んだんですか?」
と。
選んだのは白。霧隠さんも同じだった。
暫くするとそのダークエルフの露出した腕に幾何学模様がぼぉっと浮かび上がる。もちろん青白く発光してだ。
それからすぐ、ピコンっとシステム音が鳴り、メッセージが届いたという旨を知らせた。
差出人名義にきっちりと『シンフォニア』と書かれている。
なんでシンフォニアが……と思ったが、中身はさっきの問い合わせについてだ。
結果、セシリアの予想通りかよ。
種族ごとにペイントカラーを設定しているのだが、昼夜で色の見え方が違うので当然そこも設定が異なる。
昼間は白。
夜は明るいグレー。
こんな感じで設定されているはずが、ダークエルフだけは夜、蛍光ブルーになっていたらしい。
不具合として報告はされるが、修正はメンテナンス後になると書かれていた。
その事を周囲の人にも聞こえるように報告すると、
「よしっ! ダークエルフの時代は来た!」
「夜限定で目立てるぜっ」
「うぅ~ん。デザインが決まらないぃ~」
種族限定での現象だと知ったダークエルフが、揃ってボディペイントをし始めたのだ。
その光は次第に遠くのほうまで広がっていく。たぶん、伝言ゲームみたいな感じで情報が流れていってるんだろうな。
「よかったな霧隠さん。これで目立たないぜ」
「……そういう問題でござろうか?」
「うむ! これで大丈夫!!」
「セシリア先生もこう仰っている。気にしたら負けだぞ」
「ぐぅぅ」
まだ納得できない様子の霧隠さんだが、不具合なので悩んでも仕方が無い。
まぁメンテの水曜日までは諦めるしかないよな。
光が呼び寄せたのかどうかは知らないが、まぁせっかくだし三人でパーティーを組む事に。
遠距離攻撃職が居ないが、まぁ突っ込んでいけばいいか。
「しかし、この城壁からなら遠距離攻撃は可能ではござらぬか? 高さは五メートル。遠距離魔法や弓は、射程が十五メートルでござろう?」
「あぁ、そうだな」
「霧隠君、マジック君は近距離攻撃職なのだ。私たちと同じ」
「うむ。まぁそうでござるな。遠距離から攻撃しても、雀の涙程度でござれば無駄にヘイトを集めるだけになるでござるな」
納得してくれたようで助かる。
雀の涙ってのはちょっと酷いだろう。一応当たればちゃんとしたダメージは出るんだぞ。当たれば、な。
でも、群れで押し寄せてくるのなら、狙いとかつけなくても適当に投げれば当たらないか?
範囲系ならターゲットとかもう関係なくね?
「マジック君っ」
「うぉっ。は、はい?」
俺の中で確信じみた何かが思い浮かぼうとしたとき、急にセシリアが大声を出して身を乗り出してきた。
「マ、マジック君。じ、実は相談に乗って欲しいのだ」
「相談?」
霧隠さんは壁際に腰を下ろし、じっと東が見つめている。
真っ暗だろうに、見えるのか?
そしてセシリアは俺をじっと見つめ、いや、見上げて瞳を潤ませて……え? なにこれ?
お、女の子が、お、俺を……
「マジック君。実は……ス、ス」
「ス……」
好き!?
そう言おうとしているのか?
違うよな、違うと言ってくれっ。
緊張のあまり生唾を飲む音が……何故だ。何故周囲から聞こえるんだ。
お前らどんだけガン見してんだよ!
見世物じゃねえぞ。散れっ。帰れ!
「スキ……」
どっきゅん!?
す、すき、だとっ。
どうしちまったんだセシリア。お前、そういうキャラじゃなかっただろ?
周囲からは「リア充爆ぜろっ」「死ねっ」「そこから落ちてしまえ」など、酷い言われようだ。
け、けどなんだろう。この優越感は。
告白か。
なかなかいいものだな。うん。
そういや俺、告白されるのって初めてじゃね?
「マジック君。スキルの相談にのって欲しいのだ」
「はい、よろこん……え?」
スキ。
スキル。
スキ。
俺の頭が真っ白になる中、周囲の声だけが呪文のように木霊した。
「「南無ぅー」」
お読み頂きありがとうございます。
ブクマ、評価、増えると大変嬉しいです。
来週から更新速度が下がるかもしれません。詳しくは後ほど活動報告に載せます。