17:マジ、殴りマジ?
「採取技能って、取りたいって言うだけで取れるんだな」
工房の外れにいたNPCに話しかけるだけで取れてしまった技能。他の技能もこれぐらい楽だと良かったんだがなぁ。
「基本、植物毟ったりする技能やしね、誰にでもできる事やろ。せやけ簡単なんやと思うよ」
「まぁ確かに草毟りなら教えてもらわなくても出来るか」
駆け足で町を出て、そのままの勢いで北へと進む。
町から伸びる街道沿いに走ること数分で、大きな木一本すら生えない広大な草原へとやってきた。
「綿花はあちこちに自生しとるんやけど、一度摘んでしまうと暫く生えてこんけん、移動しながらになるよ」
「オケオケ。綿花ってこれの事だよな」
白い綿を咲かせたようなミニサイズの枯れかれな木。テレビで見た記憶があるが、ゲームでもまんまだな。
綿を摘まんで抜こうとするが、抜けない……。
手元にゲージが出現し、じわじわバーが下がっていく。このバーが消えて、やっと抜けた。
「このゲージ、邪魔」
「まぁまぁ。これ、ゲームやし」
「調合過程は物凄い省略の仕方で、いい意味でのゲーム仕様だったのに、なんでここはダメな意味での仕様にしたのかと」
「あはは。それ、私も昔思ったわ。なんか面倒くさーいって。あの頃が懐かしい〜」
まったくだ。面倒臭すぎる。
現実的な作業で済めば、数分もあれば両手に抱えれるほどの綿になるだろうに。
一個摘むのに十秒ぐらい掛かってるぞ。
一本の木に十個程の綿が生っていて、これを全部摘んでしまうと木そのものが消えてなくなる。
暫くしたら同じ場所にまた木が生えて、一瞬で綿を実らせるらしい。
「でも三十分ぐらいかかるんよ」
「なら待つより次を探す方がいい訳だな」
「うんうん。ここを取ったらあっちばい」
自生場所を覚えてるのか。さすがクローズ組。
生えてた分の綿花は全部取りつくすと、次の場所へと移動した。
綿を採取しているプレイヤーは意外に多く、ライバル達がそこかしこに居た。
ただ、綿花自体の数も多いので、お互い奪い合ったりとかはしないんだな。
空はまだ真っ暗で、夜明けには程遠いようだ。とはいえ、ゲーム内は十二時間で一日という設定だしな、リアルの感覚でいたらあっという間に夜が明けちまう。
「ついでやし、芋虫モンスターも倒していいやろうか? 絹糸出すし、レベル上げも出来るしで一石二鳥なんよ」
「オケ。俺もレベル8に早くなりたいし」
「8? なして?」
「レア装備ゲットしたからさ」
「うっそっ! ネームドか何かに遭遇したん?」
頷いてその時の経緯を説明する。
次の綿花ゾーンに到着し、綿を集めながら俺の話をにこにこしながら夢乃さんは聞いていた。
「うわー、よかったねぇ。すっごい運がいいねぇ」
「LUK1だけどな」
「あはは。リアルラックやん」
綿を摘み終えると再び移動。
そして草の上をもぞもぞと動く物体を発見。
あぁ……芋虫だな。
ただし五十センチぐらいある芋虫だが。
◆◇◆◇◆◇◆◇
キャタピラー / LV:7
◆◇◆◇◆◇◆◇
戦闘前にまずはパーティー結成だ。
夢乃さんのレベルは5か。俺より低かったんだな。
「よぉし。私は弓使えるし、二人で遠距離から攻撃しよ」
「遠距離、だと?」
「そうばい。私一人やったら接近されて、反撃されるけん、ちょっと怖いんやけど。二人やったら近寄られる前に倒せるばいっ」
「遠距離……」
ノンアクティブ故だろう。身の危険が迫っていることに気づかない芋虫は、月明かりの下をのそりのそりと、まるで散歩しているかのように移動している。
その芋虫との距離を確認する。
十五メートルぐらいか。
魔法の最大射程だな。
「いや、無理」
当たる。
そんな選択肢は俺には用意されていない。
「え? なんで!?」
「当たらないから」
「え? あ、当たらんって、どういうことなん? せやったら、どうやって攻撃するん?」
芋虫。お前に罪はない。
だがお前がモンスターであることは罪だ!
「こうやって攻撃するんだ!」
芋虫に向って突進し、振り向こうともしない奴に向って右手を振り下ろす。
ぐわしっと掴んだ触感は、むにゅっとしていた。
アザラシと違い見た目に可愛さが無い分、精神的に楽だな。
「『サンダーッ』」
《ぎゅっぴーっ》
ゼロ距離からは逃れられない。
全身に雷が駆け巡り、痛みに叫ぶ芋虫。
とはいえ、芋虫が水属性ではないのは確実だろう。
なので一撃では倒せない。
「えぇ!? 彗星君、殴りマジだったん?」
反撃を予測して一旦走って距離を取る。
「いや、殴りじゃないって。どう見ても普通の魔法使いだろ?」
「……そ、そうかなぁ?」
「そうだって」
怒っているのか、顔をぶんぶん振りながら突進してくる芋虫の攻撃をまともに食らう。
痛い。
でもアザラシより遥かにマシだ。
HPにもまだまだ余裕あるし、ヒールは後回しだな。
「もう一発っ。『サンダーッ』」
ぐわしっと掴んでゼロ距離から魔法を放つ。
二発でも死なないか。
魔法の詠唱はほぼないようなもんだが、再詠唱までは数秒あるんだよな。
連続攻撃が出来るようになればいいんだけども……。
「夢乃さん、そっちも攻撃してくれよっ」
弓を構えたまま動かない彼女に倒し、悲鳴を上げて助けを求めてみる。
俺の声でビクっとした彼女は、慌てて弓を構えた。
矢はどこに?
と思ったが、構えた瞬間、矢が突然現れた。
番えるって行動はないんだな。
「ごめんごめん。ちょっと予想外やったけん、呆然としとった」
放たれた矢は芋虫の尻に命中し、これでようやく奴を倒せた。
「よぉしよぉし。案外余裕じゃん。一発食らうけど、これなら三匹ぐらいは連戦してもいいぜ」
「そ、そう。じゃあ、次はあいつやよ! 私が先に攻撃すると彗星君はキャタピラー追いかけながら戦わんとダメやし、そっちにお願いして大丈夫?」
「オケオケ」
次の芋虫に突撃していって、鷲掴みし魔法をぶっぱなす。
すぐに矢が飛んできて命中するが、やっぱり倒れないな。もう一発必要か。
CTが明けるよりも前に、芋虫の反撃が飛んできた。
至近距離からだと回避できねえな。早く格闘技能が上がってくれることを願おう。
「『サンダーッ』」
《ぎゃぴっ》
短い悲鳴を上げてデータの藻屑となる芋虫。
「うーん。攻撃手段が『サンダー』しかないのは辛いな」
「ポーション分けたげる」
「え? いや、いいよ。俺『ヒール』持ちだから」
回復ついでに魔法を披露する。
「あれ? じゃあ『ライト』も持ってるんやない? あれも攻撃魔法やよ」
あ……しまった。松明代わりの魔法として使ってたから、攻撃用ってのすっかり忘れてたぜテヘ。
『サンダー』と『ライト』を交互に放ち、ほぼ同時に矢が飛んでくる。
《ぎゃぴっ》
ふっ。
ノーダメで芋虫が倒せる状況が出来たぜ。
綿をざくざく集め、芋虫をサクサク倒し、遂に俺は醗酵した!
違う、発光した!
「うっしゃ、レベル8だぜ」
「おめ〜。レア装備見せて〜」
「おう。『システム、装備』」
武具の装備画面を開き、マネキンの横にある武器アイコンをタップする。
すると、現在装備可能なアイテムがサブウィンドウに表示された。といっても、持ってるのはアザラシの形見である杖一本なんだが。
続いて靴だ。こちらも変更っと。
◆◇◆◇
名称:海獣の杖(レア)
効果:INT+3、魔法攻撃力+20。
水属性魔法のダメージ+10%。MP+100。
ヒール量+80。
必須技能:特になし
耐久度:150
◆◇◆◇
◆◇◆◇
名称:海獣のブーツ(レア)
効果:VIT+1、防御力+11。
水属性の耐性+15。HP+150。
必須技能:特になし。
耐久度:150
◆◇◆◇
ワカメだなんだのと、アイテムの詳細見るのも忘れてたが、名前がかいじゅうかよ。
まぁ性能は良い。水属性のダメージアップを無視しても、攻撃力やINTが上がるってのは嬉しい。
ブーツにしろ、初心者用シューズがHP+20だったのを考えると、七倍以上も増えた事になる。その上VIT補正もあるし、VIT1毎にHPが50増えるから、ブーツだけで実質HP200増だ。
アリガタヤーアリガタヤー。
じゃあついでにステータスも……
「彗星君! 空っ、空ぁー」
「は? 空?」
夢乃さんの声に気づいて天を仰ぐと、星が見えていた夜空が白み始めた。
やべぇ。ステータスは後回しだ。装備の変更だけでもしといてよかったぜ。
「うしっ。じゃあ卵を――あれ? 夢乃、さん?」
さっきまで彼女が居た場所に人影は無い。
「彗星君っ。何しとるんっ。はよっ、はよ走ってピッピ探しぃ〜」
既に百メートル先を走っている夢乃さん。
どういうこと?